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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第二章 魔法女学校
116/188

116.凍える街

[第二話の主な登場人物]


蜂乗家(はちじょうけ)の人々>

カナ…………………………主人公。三女。中学一年生。世界五大魔法少女の一人だが魔法の制御が下手

ミナ…………………………長女。高校二年生。回復魔法が得意

マコト………………………次女。高校一年生。魔法より剣術や武術が得意

イリヤ………………………四女。小学五年生。召喚魔法が得意

マイコ………………………四姉妹の母親。世界三大魔女の一人

リン…………………………黒猫(メス)。カナの使い魔

ハカセ………………………白フクロウ。ミナの使い魔

ルクス………………………白猫(オス)。マコトの使い魔

ケル兵衛……………………ケルベロス。イリヤの使い魔

ハウプトマン………………大型犬の形状をした黒煙。マイコの使い魔



蜂乗家(はちじょうけ)の使用人>

冬来(ふゆき)真弓(まゆみ)……………………カナ専属のメイド。各種魔法に長けている



<国立ヴァルトトイフェル魔法女学校の学校関係者>

馬貝(まかい)エリ……………………校長先生。蜂乗(はちじょう)マイコに次ぐ力を持つ魔女

浅黄(あさぎ)灯子(とうこ)……………………蜂乗(はちじょう)カナの担任の先生。魔女

何条(なんじょう)アカリ…………………熱血体育教師。風紀取り締まり担当。魔女



<国立ヴァルトトイフェル魔法女学校の生徒>

七身(ななみ)ユカリ…………………七身家(ななみけ)の次女。高校一年生。爆裂魔法が得意

六隠(ろくなばり)ハル……………………六隠家(ろくなばりけ)の三女。中学一年生。変身魔法が得意

五潘(ごはん)イズミ…………………五潘家(ごはんけ)の長女。中学一年生。火炎魔法が得意

四石(しこく)ミヤビ…………………四石家(しこくけ)の長女。中学一年生。幻影魔法が得意

三奈田(さなだ)ナツ…………………三奈田家(さなだけ)の三女。中学一年生。オールラウンドプレーヤー

二一宮(にいみや)フユミ………………二一宮家(にいみやけ)の次女。中学一年生。回復魔法が得意

壱番矢(いちばんや)アキ…………………壱番矢家(いちばんやけ)の五女。中学一年生。予知魔法が得意



<魔女たち>

(くのつぎ)一姫(いつき)……………………魔女を狩る魔女。「あのお方」と呼ばれる

桑無(くわなし)貞子(ていこ)……………………魔獣を操るはぐれ魔女



<国立魔法科学研究所の関係者>

馬場貝(ばばがい)小次(こつぐ)…………………所長

鹿野目(かのめ)定美(さだみ)…………………研究員


 第二回魔法少女世界選手権大会から3ヶ月後の1月6日の夜半。


 広大な某ベッドタウンに地吹雪が荒れ狂った。


 昨年末から毎夜、この地域を中心として、局地的な悪天候に見舞われている。



 横へ乱れ飛ぶ無数の雪の粒。


 呪いの声のように響く風音。


 凍える風の強弱に合わせて、小刻みに揺れる建物。



 連日の尋常ならぬ冬の嵐に、誰しも天変地異の予兆と恐れた。



 翌7日の明け方。


 人々を眠りにつかせない風は、嘘のように()んだ。


 太陽は、こんな地上の凶兆には無関心を貫き、今日も規則正しい運行を続ける。


 そして今は、雲の欠片(かけら)すらない天蓋の南中高度30度付近を、我が物顔で登り詰めたところだ。



 低い角度で降り注ぐ温かな光。


 それは、雪化粧の街を輝かせる。



 碁盤の目のように区切られた狭い土地に、行儀良く並ぶ無数の一戸建て。


 規則的に配置された公園。


 そして、住人の日照権を配慮して、北の一角に追いやられたマンション群。



 その中に、ひときわ目立つ高層タワーマンションが十棟。


 今、その一棟の1013号室にあるバルコニーに、二羽の鳩が、金属の手すりの冷たさに凍り付くような足を、膨れた毛で暖めつつ、寄り添っている。



 二羽は、さっきから時折振り返り、首を伸ばして頭を(かし)げる。


 なぜなら、ガラス窓越しに、女の子の言い争う声が聞こえてくるから。


 しかし、声の主の姿は一向に見えない。



 と突然、鳩たちはビクッとなって、慌てて飛び去った。


 声のボルテージが急に上がったので、落ち着いて羽を休めてなど、いられなくなったのだ。



 今、ベッドの上で、こんもりと蒲鉾(かまぼこ)状に盛り上がる毛布が揺れる。


 こんな時間だというのに、頭からすっぽりとかぶり、正座のように足を曲げ、うつ伏せになった女の子。



 彼女は、蜂乗(はちじょう)カナ。



 上気して赤くなった右耳に、スマートフォンのような小型端末を押し当てている。


 電話の相手は、蜂乗家(はちじょうけ)当主で、世界三大魔女と呼ばれる母親マイコ。



「お母さん!! 何度も言うけど、謹慎処分には納得がいかない!!」


『私も何度も言います。

 魔法を使って警察沙汰になったら、即謹慎。

 それが決まりなの』


「あれは、正当防衛!!」


『理由はどうあれ、一般人への魔法の使用は、暴力行為。

 中一にもなって、なぜ、わからないの?』


「私は恐喝されたのよ!

 悪いのは向こうじゃないの!」


『だからといって、魔法で相手に重傷を負わせていいの?』


「それは……」


『あなたにしてみれば、軽く魔法を使ったつもりかも知れないけれど、それで学校の教室の壁が吹き飛んだでしょう?

 あなたの魔法は、今そこにいるタワーマンションを一棟分崩壊させるほど強力であることを忘れないで』


「でも、なんで、お姉さんたちや妹まで、謹慎させられるの!?

 相手を怪我させていないじゃない!」


『ミナもマコトもイリヤも、あなたを守るために(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)一般人へ魔法を使ったから』


「だから、あれも正当――」


『魔法は、無防備な一般人に使うと、銃を発砲するのと同じ。

 理由はどうあれ、許される行為ではありません』


「無防備じゃありません! 相手は、疑似魔法を――」


『疑似魔法はおもちゃのピストル。

 あなた方の魔法は、ショットガンや大砲なのよ』


「ナイフで顔を怪我させられそうになっても!?」


『法律で、一般人はいかなる魔法からも守られる、となっている以上、そうです』


「あの事件のことは、謝るから――」


『謝罪で解決できないところまで行っているの。

 今回の一件で、蜂乗家(はちじょうけ)以外の家にまで迷惑が掛かっている。

 それをよく考えなさい』


「納得が――!!」


『もう会議の時間。切るわね』


「お母――!!」


 プープープープープープープープー……



 彼女は、下瞼(したまぶた)を伝って流れる涙を、白い指で拭う。


 そして、小型端末をハート模様のシーツの上に置き、側面のボタンを押した。


 たちまち、タブレットサイズに拡大する端末。



 彼女は、画面上の、受話器とデコルテのシルエットを組み合わせたマークのアイコンをタップし、表示された画面をスワイプしながら3箇所をクリック。


 三者同時通話のテレビ電話の接続開始である。


 いつもの姉妹会議なので、操作によどみない。



 ほどなく、タブレット画面から見て垂直に、小さな3つの仮想画面が三面鏡のような配置で浮き出し、それらは見やすい角度に傾く。


 コール音とともに、仮想画面中央には、左から『ミナ姉さんCalling...』『マコト姉さんCalling...』『イリヤCalling...』という文字が現れる。



『カナお姉様! イリヤはお待ちしておりました!』


 コール1回目の瞬間に登場した満面の笑顔は、近すぎて画面からはみ出ている。



『もしもーし。どうだった?』


 少し遅れて、面長で糸のような目の柔和なミナの顔が現れた。


 手を振っているらしく、左右に揺れる指先が映っている。



『何?』


 しばらくして、男装の麗人のマコトが現れた。


 最初から期待なんかしていない、不機嫌そうな顔を斜めに向けて、画面を覗き込んでいる。



「みんな……、みんな……、ごめんなさい。

 私のせいで、謹慎処分になって……」



 カナは、その後の言葉が続かない。


 ただただ、彼女の額の映像と、泣きじゃくる声だけを送信していた。



   ◇◆◇■□■◇◆◇


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