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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会

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113/188

113.母親の抱擁

 八階建てのビルほどの見上げる背丈だった炎竜。


 そんな巨大なドラゴンが、ものの数秒でカナの体の中へ入っていったのだ。



 吸い込まれる際に起きた強風が、まだ辺りに残っている。


 その風を掻き分けて届くどよめきが、耳を叩く。



 想像を絶する出来事が、大観衆の目の前で起きた。


 世界中で何百万人もが目撃した。



 当事者のカナですら、まだ信じられない様子。


 煙が服をすり抜け、体の中へ入っていくのに、何ら痛みはなかったのだ。



 そんな彼女の頭の中では、炎竜の最後の言葉が渦巻いていた。


(魔王討伐――)


 そんな恐ろしいことは、考えたこともない。


 カナは、瞼に残る炎竜の残像を見ながら、その言葉を噛みしめる。



 その頃、SNSや動画配信のサーバは、ほぼパンク状態であった。



 ――公約通り、カトリーンが覚醒に成功!


 ――超弩級のドラゴン降臨!


 ――炎竜、カナと契約す!


 ――またもや封印される!



 状況から勝手に想像した人々が、次々とつぶやく。


 それらは、大量にまき散らされる間違った情報。


 だが、これらの情報は、「事実」として大手を振って歩き回る。



 一方、カナは、こちらに近づいてくる黒ローブ姿の人物が視界に飛び込んだ。


 近づくにつれ、その人物の顔が審判員マイコであることがわかった。



 カナは、バネ仕掛けの人形のように飛び起きる。


 ただならぬ彼女の行動に、カトリーンはカナの視線の方向を追い、自分の後ろを振り返った。



 その途端、カトリーンまでギョッとした。


 彼女の場合、炎竜に踏まれた(くのつぎ)一姫(いつき)が舞い戻ってきたように思えたのだ。



「これは、何の騒ぎですか!?

 もしかして、あなたが覚醒させたのですか!?」



 マイコは、真っ先にカトリーンの所に駆けつけて、彼女を問い詰める。


 カトリーンは、魔女の匂いがマイコのものであることに安堵する。


 それで、思わずニコッと微笑んでしまった。


 マイコは、そんな彼女の態度が(かん)(さわ)る。



「答えなさい!

 覚醒させたのですか!?」


「い、いいえ、私ではありません」


「なら、誰がやったのですか!?」


「それは、……イツキ・クノツギです」


 マイコの目が皿のようになる。


「もしかして、私――審判員に化けてここにいましたね?」


「ええ」


「今はどこに?」


「逃走しました。封印に失敗して」


「では、あなたが封印したのですか?」


 迫るマイコに、カトリーンは首を左右に振る。


「なら、炎竜はどこに!?」


「お母様。それは、私の中に戻りました」


 その言葉に驚いたマイコが声の方を向くと、フラフラしながら近づいてくるカナが見えた。


「ついに、手なずけたのね……」



 それを聞いたカナは、急に体が固まった。


 マイコが、抱きしめてきたからだ。



「暴走させなかったのね?」


「はい、お母様」


「無事だったのね?」


「はい――」


「良かった……」


「……」



 マイコの優しい言葉が、カナの耳朶を撫でる。


 すると、カナの胸の奥から、何か熱い物がこみ上げてきた。



 それは、喉に達する。


 目頭に達する。


 視界が滲んできた。


 もう堪えきれない。



 そんなカナの目から、止めどもなく涙が流れ落ちた。


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