11.友人ナディア
「スヴェトラーナ・グリンカさんのお友達?」
「そうよ。
スヴェはね、あなたと勝負することを楽しみにしているわ。
ホテルで朝まで寝られなかったって言っていたわよ」
「そうなんだ」
「ねえねえ、得意な魔法は?
やっぱり、爆裂魔法? それとも、雷撃魔法?
あなたって、破壊系も出来るわよね?
その体で、信じられないわ」
「爆裂魔法も得意だけど、やっぱり、雷撃魔法かな」
「そうよね! それよね! 前評判高いし!
じゃあ、スヴェの秘密教えてあげる。
実はね、プロフィールにない幻影魔法が使えるの。
ここぞと言うときに使うから、楽しみにね」
「楽しみ?」
「だって、この選手権、魔法少女の祭典みたいなものでしょ?
楽しまなくちゃ。
お互いの強み弱みはオープンにして、公平に力と力で競い合う。
それって、楽しいことでしょ?
勝ち負けは、後から付いてくる。
ねえねえ、あなたは、なぜこの選手権に出場するの?
競技を楽しむためよね?」
考えても見なかったことに、カナは激しく戸惑う。
マコトのリベンジの代役、一族の名前を背負っての戦い、世界三大魔女の母親のメンツまで掛かっている勝負。
これを楽しむなんて、あり得ない。
でも、カナの気持ちは、ナディアの言葉に傾いた。
「……ええ、そうね。楽しみたいわね」
「でしょう! でしょう!
ねえねえ、歳はいくつ?」
「十三歳」
「えっ? わたし、十六歳。スヴェも。
ふーん。年下なんだぁ。
そうは見えないわね。落ち着いているから。
私たち、仲良くやれそうね。よろしく!」
握手を求めるナディアに、カナは右手を差し出す。
強く握る彼女の手から、熱い友情を感じたカナは、活力をもらった気がした。
「ところで、七身ユカリって、どういう性格か知ってる?」
ナディアの口から、忘れたい名前が唐突に発せられて、カナの心臓は破裂しそうになった。
「ど、どうして、それを聞くの?」
「だって、私が一回戦で当たる相手だから」
「えっ!? 予定では、別の人のはずよ。
確か、マリアナなんとかさん――」
「それがね。さっき、対戦カードが組み替えられたの」
「えええっ!? なぜ!?」
「最初、発表された組み合わせでは、ヤマト国の八つの魔女の一族から選抜された選手が、一回戦でお互いに誰ともぶつからなかったの。
ひどくない?」
「そうなの?」
「そうよ。一回戦で、ヤマト国同士の潰し合いがないのよ!
これに異議を申し立てていた魔女たちの意見が、ずっと無視されていたのに、今頃になって通って、組み替えられたの。
これには、大揉めに揉めたらしいわよ」
「へー」
「でも、あなたとスヴェの組み合わせは、再抽選でも変わらずだったの。
凄いことじゃない? 運命的な出会いみたいなものよね!?
ねえねえ!」
「……」
はしゃぐナディアにユカリのことを伝えるのが苦痛なカナ。
変態ぶりは隠して、知っていることを全部話すと、ナディアの顔がみるみるうちに曇っていく。
昨年の決勝戦で姉が負けたことには、ナディアは自分の姉のことのように悔やんでいた。
「魔法少女って、いろいろな性格の人がいるけれど、邪悪な魔女の部類なのね。
戦いぶりも、聞いていると、悪意があるわね」
「ええ……」
「これは、心してかからないと、いけないわ!
ねえねえ、応援してくれる!?」
「もちろん!」
「ありがとう! 国境を越えた友情よ!
やっぱり、無理してヤマト国に来て良かった!
私たち、ルシー王国では、友達が少なかったから、凄く嬉しいわ!
絶対、ユカリに勝つから! 信じて、応援して!」
「……」
ナディアが両手でカナの手を強く握った。
体温が熱い思いとともに伝わってくる。
彼女は満面の笑みを浮かべ、サイドテールを揺らす。
だが、カナは笑顔を返す一方で、自分の四肢からスーッと血の気が引くのを感じていた。
(イヤな予感がする……。ナディアさんの身の上に、何か起こらなければいいけど……)