108.式神の攻撃
拘束されても少しも驚く様子を見せていない。
まるで、こうなることを初めから予想していたかのようだ。
彼女は、両手を動かして鎖を引っ張ってみせる。
たるみのない鎖は、地面から抜ける気配が全くない。
試合開始早々の思わぬ展開に、観客がざわめき始めた。
「あら、割と丈夫じゃない?」
「今から地中に引きずり込みます」
「まあ、恐ろしい……」
「あなたよりは、情けがある方です。
魔女を消し炭にしてしまうか、八つ裂きにして野犬のエサにする、あなたよりは」
「五体を残しているから、まだましと?」
「そうです」
「その後は、何をするの?」
「炎竜の覚醒と封印は、私とリンが行います」
リンが、前足を左右に振った。
「えー!? ちょっと!
それには同意しないわよ!」
カトリーンが小首を傾げる。
「どうして?」
「この女をやっつける共同戦線には同意するけど、覚醒は無理。
カナには、指一本触れさせないわよ!」
「あのような危ないものを体の中に入れて置くよりは、封印した方がましです」
「いやいやいや、封印するために覚醒する方が危ないでしょ!」
「封印します!」
「だーめ!」
「なら、さっきまでの仲間は、今から敵ね」
「1秒たりとも仲間になった覚えは、ないし」
「残念だわ」
「一人で勝手に仲間にしているし」
とその時、十一姫が、さも面白そうに笑い出した。
「あー、面白い!
そうやって言い争っている間に、取り残された主役はどうなっていることでしょうねぇ」
「「まさか!」」
リンとカトリーンが、同時にカナの方を見る。
すると、スーツ姿の男たちが、カナに向かって両手を突き出し、放電していた。
雷に似た40本の放電を受けて、カナの全身は光り輝く。
「おのれぇ!」
牙をむいたリンが、男たちに向かって猛進する。
だが、男たちは、一斉に煙になって、空中に溶け込んだ。
カナは、糸が切れたマリオネットのように倒れ込んだ。
「私がついていながら……なんという失態!」
リンは、男が立っていた辺りに着地して、カナの所へ駆けつけようとした。
ところが、横たわったカナが、全身をビクンビクンと動かし始めた。
水から陸に打ち上げられた魚のようだ。
驚きの余り、リンは足が止まった。
「ど、どうしたの!?」
と突然、リンの全身の毛が逆立った。
しかも、その毛先が、髭が、一斉にカナの方へ向く。
「な、何これ!?
魔力が吸い取られる!!」