106.共同戦線
「いきなりの偽者登場よ」
「リンも気づいたんだ」
「当たり前でしょう!?
体から発する魔力――匂いの違いですぐわかる。
しっかし、……娘の前で母親に化けるなんて、大胆不敵ね」
「すぐに仕掛けてくるよね?」
「何が起きてもいいようにしなさい。
ここは、あたしが食い止める」
「うん!」
カナとリンは、互いに頷いた。
そして、リンは宙に浮いたまま、マイコの方へスーッと近づいていき、通せんぼの構えをした。
「ちょっと! あんた、何しに来たの!?」
リンの問いかけを冷たい笑いで返した審判員は、平然と試合開始を宣言した。
観客が一斉に声援を送り、場内のボルテージが上昇する。
「偽者が試合開始を宣言しても、無効じゃないの!?」
「私は審判員。
当然、有効です」
とその時、カナの周囲に、無数の黒い煙のような塊が現れた。
それは、たちまち、スーツ姿でサングラスをかけた男たちになった。
二十人ほどいる。
彼らに取り囲まれたカナは、素速く身構える。
気配を感じたリンが、後ろを振り返った。
「……っ! なんか、後ろで式神が暴れるみたいね。
もうこれじゃ、試合とは言えないわよ」
「いいえ、5万人の観衆と何百万人のテレビ視聴者には、試合にしか見えていないわよ。
マイクは、今ここの会話を拾えないし」
「あのスーツ姿の連中は、カトリーン・シュトラウスが召喚させた、と思わせるのね?」
「ご明察」
「考えたわね」
「これはどうも」
「それより、マイコはどこ?」
「あらあら、あの世界三大魔女を呼び捨てにするのね」
「おしめをしているときから、あたしはマイコの世話を手伝ったし、マイコの元使い魔でもあるのよ」
「使い魔だったことは知っているけれど」
「マイコが、あんたごときの魔法でやられるはずはない。
どこにいるの!?」
「彼女、スタジアム内部で火事が起きたので、消火活動を手伝っているわ。
一刻も早く消さないと、有毒ガスにやられるけれど」
「足止めするために火をつけたのね。
あんたのやることは、極悪非道よ!」
「そこは、用意周到とおっしゃっていただかないと」
とその時、二人の会話に少女の声が割り込んだ。
「いつから審判員になったのですか、イツキ・クノツギ?」
二人が声の方へ振り向く。
そこには、ちょうど車椅子を停止させたカトリーンがいた。
「そこの黒猫さん、こんにちは。
そういえば、お名前を伺っていましたっけ?」
「リンよ」
「リンさん、びっくりしていらっしゃるようね。
私は、ヤマト国の言葉を話せるのですよ。
普段は、話せないように振る舞っていますけれど」
「お上手ね」
「この辺境の国が優れた技術を持ち、アニメを初めとする素晴らしい文化を持っているので、興味を持つうちに覚えたのですよ」
「辺境って、そっち優位の考えから来ているわね」
「あら、ごめんなさい。
それより、……なんとなくですが、リンさんと共同戦線を張ることになりそうね」
カトリーンは、ニコッと微笑み、すぐに真顔になった。




