105.決勝戦
「これから、決勝戦を開始します」
場内の放送がスイッチとなり、大観衆の声が爆発する。
ほとんどが、カナコールだ。
太鼓や笛やブラスバンドまで混じり、その大音響がスタジアムを揺らす。
ヘルヴェティア王国の応援団は、肩身の狭い思いをしながら、声を限りに声援を送るも、どうしてもかき消されてしまう。
なので、全員が大小の旗を、力の限り振った。
存在を中継で母国に知らせるには、これしか方法がなかったのだ。
ゆっくりと位置につくカナ。
彼女の右肩付近には、腕組みをした黒猫リンが浮いている。
一方、手動で車椅子を動かしながら、位置につくカトリーン・シュトラウス。
魔獣などを従えていないので、召還魔法は温存しているらしい。
二人の間は、10メートル。
カナは、ちょっと離れすぎていると思い、カトリーンに近づいた。
ところが、カトリーンは、歩調の速度に合わせるように後ろへ下がっていく。
カナは立ち止まり、今度は後ろに下がった。
その動きに合わせて、カトリーンは車椅子を前に動かす。
「リン。どう思う?」
「あんたは、どう思うのよ?
人に聞いてばかりいないで、考えなさいよ」
「人なんだ……」
「突っ込むところ、そこ!?」
「この距離を保つということは、……えーと」
「カナの、どこへ飛んでいくかわからない雷をやり過ごすため」
「ひどっ!」
「あるいは――」
「もう言わなくていい」
「あら、そうなの?
とっておきのがあるのに」
「いいもん。
召還魔法が得意なんでしょう?
なら、魔獣をわんさか召還するためでしょう?」
「ま、それもあるけどね」
「他になにがあるのよ?」
「近すぎたら、炎竜に踏み潰されるでしょう?」
「そっか……。
でも、実物を見たことがないから、それが正しいのかはわからないけど」
「それより、もう一人敵がいることを忘れないでね」
「わかってるって」
「それにしても、審判員、遅いわね」
母親が審判員と聞いているカナは、リンの言葉にドキッとした。
「なんで、お母様なのかしら?」
「決まってるじゃない。
炎竜の覚醒の阻止が目的よ」
「ふーん。
……あっ、来た」
「ホントだ。
でも、遅刻するなんて珍しいわね」
カナとリンは、颯爽と近づいてくるマイコを見つめる。
いつもの怖い顔。
歩き方は、遅れた分を取り戻そうとして、少し早いかな程度。
と突然、カナは後ずさりを始める。
リンも、宙に浮きながら、少し後ろに下がる。
そうして、二人は顔を見合わせた。