1.プロローグ
[第一話の主な登場人物]
<蜂乗家の人々>
カナ…………………………主人公。三女。中学一年生。世界五大魔法少女の一人だが魔法の制御が下手
ミナ…………………………長女。高校二年生。回復魔法が得意
マコト………………………次女。高校一年生。魔法より剣術や武術が得意
イリヤ………………………四女。小学五年生。召喚魔法が得意
マイコ………………………四姉妹の母親。世界三大魔女の一人
リン…………………………黒猫、メス。カナの使い魔
ハカセ………………………白フクロウ。ミナの使い魔
ルクス………………………白猫、オス。マコトの使い魔
ケル兵衛……………………ケルベロス。イリヤの使い魔
ハウプトマン………………大型犬の形状をした黒煙。マイコの使い魔
<魔法少女世界選手権大会の出場者>
七身ユカリ…………………七身家の次女。高校一年生。爆裂魔法が得意
五潘イズミ…………………五潘家の長女。中学一年生。火炎魔法が得意
四石ミヤビ…………………四石家の長女。中学一年生。幻影魔法が得意
ナディア・ラフマニノフ………ルシー王国代表。十六歳。ユカリの対戦相手
スヴェトラーナ・グリンカ……ルシー王国代表。十六歳。カナの対戦相手
マリアンヌ・ロパルツ…………フランク王国代表。十五歳。カナの対戦相手。義足の少女
カトリーン・シュトラウス……ヘルヴェティア王国代表。十四歳。カナの対戦相手。車椅子の少女
<魔法少女世界選手権大会の関係者>
七身カズコ…………………七身家の当主。ユカリの母親。大会主催者
<魔女たち>
十一姫……………………魔女を狩る魔女。「あのお方」と呼ばれる
二十一世紀も半ばを過ぎた頃、世界中の人々が、魔法使いたちと共存共栄の道を歩んでいた。
超自然的能力を持つ魔法使いが、それを持たない一般人から恐れられ、迫害を受けたのは、遙か昔の話。
今では、超能力者と同様に、一目も二目も置かれる存在になっている。
ここヤマト国では、その魔法使いの95%以上は、どういうわけか、女性。
巫女が多いのと関係があるかは、まだわかっていない。
そのため、魔法使いと言えば「魔女」を指し、中でも十八歳以下は「魔法少女」と呼ばれていた。
ちなみに、ごく少数派の男性の場合は「男の魔法使い」であるから、ややこしい。
魔女たちは、容姿も着ている服も持ち物も、一般人と全く同じ。
唯一の特徴は、髪の毛や瞳の色が、その土地の人種と違って、様々であること。
それで、東洋圏のヤマト国において、魔女は西洋人っぽく見えた。
ただし、東洋人でも髪を染めてカラーコンタクトを装着している者がいるので、必ずしもその容姿が決め手になることはない。
また、東洋人に似せようと、黒髪黒目にする魔女もいるので、より区別が難しくなっている。
彼女たちは、豪華な屋敷に住む者もいれば、普通の家に住む者もいる。
義務教育を終えると、高校や大学で勉学に励み、卒業すると就職、あるいは自営業などの道に進む。
このように、何から何まで魔女と一般人の区別が付きがたい時代に、唯一、誰でもその違いがわかる方法がある。
当たり前すぎる話だが、「魔法が使えるかどうか」だ。
これなら、一般人でも100%区別が付く。
ところが、これをより分かりにくくする事態が、ヤマト国で起こった。
自分たちが持っていない「魔法を操る能力」に憧れを持つ一般人の研究者たちが、最先端技術を結集し、魔法に似た能力を発揮するウエアラブル装置を試作したのである。
これを一般人が着用すれば、魔法っぽい行為が出来る。
手のひらの上に火の玉を出現させたり、何もない空中からリンゴを取り出したり。
はてまた、手を触れずに花瓶を移動させたり、非力でも車みたいに重い物を持ち上げられたり。
もちろん、試作品なので、動作は単純。
中には、手品の域を出ない物もあった。
だが、人々は魔法の能力を手にしたかのように感動した。
いくら電子工学、機械科学、物理学の粋を集めた装置だとは言っても、まだまだ、本物の魔法の動きから見れば「ひよっこ」だ。
当然、魔法と言うには、おこがましい。
それで、人々はこれを「疑似魔法」と呼んだ。
そんな疑似魔法装置の試作品は、何度も改良を重ねられ、ついに商用化される。
企業向けの実用的な物から個人向けの趣味的な物まで、様々な装置が世に送り出された。
市場での反響は上々。
販売されると、人々が競って購入する。
装置は海外にも輸出され、大いに受けた。
収入の大半は、次の研究の投資に利用される。
資金が増えれば、より魔法に近づけようと、研究が進む。
また新製品が市場に投入され、収入が投資に回される。
こうして、疑似魔法が流行り出すと、トレンドに敏感な多くの企業が開発に乗り出す。
多額の資金が企業に流れ、疑似魔法装置が世界規模で溢れていく。
仕舞いには、これを着用した「疑似魔法少女」までメディアに登場する。
彼女たちは、疑似魔法を「魔法」のように披露し、歌って踊って、一躍アイドルになる。
このように、魔法は、エンターテイメントにまでなっていった。
最初は、事態を傍観していた魔女たちだが、こんな疑似魔法の馬鹿騒ぎに眉をひそめるようになった。
魔法に憧れるのは、大いに結構。
しかし、機械で真似事をして、実現できたと浮かれるのは、どうかしている。
一般人には、今一度、真の魔法の実力を知らしめないといけない。
ここに、ヤマト国の魔女の一族でも一大勢力の七身家が立ち上がった。