ドルヒ視点、邪魔
だが一瞬だけ視界が歪み、狙いがそれる。私の手は村上君の頭のすぐ右の空間を通過するにとどまった。
私は地面を蹴って飛びあがり、村上君、しぐれと大きく距離を取った。
オ―ブを手に持った小柄なプラチナブロンドの女の子が、恐怖を顔にはりつかせて立ち尽くしていた。
「エデルトルートか。邪魔をするな」
私はそう言い放つ。
「なにしているんですか! ムラさんをもう狙わないって言ってたじゃないですか!」
だがエデルトルートは膝が笑い、視線すら私と合わせられないにもかかわらず言い返してくる。
私はいじめられていた時、あんな風に言い返すことはできなかったな。
そう思うと、少し彼女が羨ましくなる。
だが私たちが話していた隙に、今度は村上君がエデルトルートを狙ってくる。
短剣を振り上げ、まっすぐにエデルトルートを目がけて突っ込んでいく。彼女は呆気にとられて、全く反応できていない。
クラフトを使う様子すらない。彼女の能力なら一瞬距離感を狂わせるくらいはできるのに。
「馬鹿が」
私は咄嗟に彼女をかばうため割って入ろうとする。
だけど、今の村上君は私より速い。
村上君が彼女のすぐ目の前にいるのに私はかなり離れた位置にいる。
届かない。
村上君の短剣が彼女の喉元に迫るのがはっきりと見えた。
だけど、短剣は彼女の喉、そのすぐ横を通り過ぎる。
「な、なんで」
私は胸をなでおろした。反射的にエデルトルートがクラフトを使って幻覚を見せ、狙いを反らしたらしい。
だが彼女程度のレベルでは村上君や私には一瞬しか効かないのはわかっている。
早めに村上君かしぐれを殺して、ケリをつけないと。
エデルトルートは邪魔をしない限り、結構役に立つ。
「なんで、ムラさんが私を殺そうとしたんですか。なんで、なんで……」
エデルトルートが狂ったように同じことを繰り返し言い始めた。
一度信頼しきった男に殺されかけて思考が麻痺したらしい。彼女は一度乱暴されかかったし、心が相当参っていたせいもあるだろう。




