見つけましタ
新作投稿しました。
https://ncode.syosetu.com/n2928eh/ 「故郷を追放された僕は幼馴染から認められる存在になる」
別サイトで短編 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884124746「凡才の僕は現代でも異世界でも安定した生活を希望します」公開中です。
町の入り口にいる見張りをやり過ごして、外に出た。街道沿いには草原が広がっており、草原の周囲や中に森が点在している。僕たちが野営している森から川が一本出て、ミュンヘンの町近くに流れ込んでいた。
あの川と町の中の井戸が主要な水源になっているのだろう。
「ドルヒ、魔獣って言ってもどうやって狩ればいいの? 僕たちには探知スキルなんてないよ?」
「簡単だ」
ドルヒは足元の石ころを何個か拾ってポケットにしまう。
この世界にはアイテムボックスなんてないから、持ち物はすべて身につけるか預けておくしかない。
それから街道をそれ、草原にどんどん入っていく。僕たちの膝の高さくらいある草原には剱田や岩崎たちがつけたと思われる痕跡があちこちに残っていた。
「あいつらみたいに広範囲攻撃スキルがあれば狩りがはかどるんだけど……」
僕は短剣を構えながら油断なく周囲を見回すけれど、魔獣の姿なんて猫の子一匹見えはしない。
「僕たちが強くなったから襲ってくる魔獣がいなくなったんじゃないの?」
魔獣だって馬鹿じゃない、明らかに強い相手には寄って来ないだろう。
「なら適当に探せばよかろう。相棒は東だ。吾輩は西を行く。しらみつぶしに探す」
ドルヒはそう言うや否や、絹糸のように輝く髪をたなびかせて消えた。
今の僕が全力で走ると、風圧で大木が軋むほどだ。
このスピードで走ると移動距離も相当なものになるうえ、雑魚の魔物は逃げ切れない。時々眼の端に魔獣らしき存在が見えるので、適当に体当たりするか短剣で切り裂いた。
体当たりした魔獣は四散し、短剣で切り裂くと絹ごし豆腐みたいにたやすく切れる。
普通の短剣なら僕の力に耐えきれないだろうけれど、町一番、この国有数の鍛冶師に行って鍛え上げてもらった特注品だ。
大まかなデザインを描いただけなのに、まるで僕の手のためにしつらえたみたいな短剣を打ってくれた。重さも手ごたえも、ドルヒが短剣だったころと変わりない。
僕みたいなさえない人間がそんな特注品を注文したら足が付きそうだったけれど、
『貸し一つですよ? それにムラさんにも武器が必要でしょうし』
エデルトルートがそういって、ゼーリッシュのクラフトでうまく誤魔化して注文してくれた。刀身はオリハルコン、柄はミスリルといったおなじみの魔金属を使用したので値段も相当なものになったが、剱田たちが貯め込んでいた金を有効利用したので問題なかった。
でもこの短剣を用いて動くと、ほんの何週間か前までは素人以下だった自分が、村人数人にいいようにあしらわれていた時が夢みたいだ。
小一時間ほども魔獣の退治を繰り返すと、街道や草原、森の中は魔獣の死骸が点在していた。
狩った範囲がかなり広かったから死骸が山積みって形にはならなかったけれど、十歩歩けば魔獣の死骸が目に入る、っていう形にはなった。
「では帰るか」
返り血を一滴も浴びていないドルヒが、町へ踵を返そうとする。
「魔獣の体の一部をはぎ取って帰ればお金になるよ? それをヒロイーゼさんたちに渡しさないの?」
こういった害獣駆除ではそういった契約が交わされることが多い。魔獣の牙や耳を剥いでそういった所へ持っていけばかなりの値段で買い取ってくれるはずだ。
「ヒロイーゼ殿のためとはいえ、これだけの獣を殺したのだ。そのうえで金をもらうなど、吾輩の良心が許さん」
ドルヒはうつむいて、元気がない。人間以外は好きだって言ってたけど、やっぱり嘘じゃない。それどころか筋金入りだな。かんなを殺した後に熊を殺しても気にした様子がなかったのは、かんなを殺してハイになっていただけなのだろう。
彼女を復讐に狩りたてた原因が無かったら、彼女はどんな風に暮らしていたのかって気になったけど、想像するのをやめた。考えたって復讐の助けにはならない。
大事なのは後悔することじゃなくて殺すことだ。
そう決意した瞬間、森の奥から声が聞こえてきた。
「見つけましタ」




