テルマ視点② 『プファイル(pfeil)』
「その男の人が、お姉ちゃんを殺したんですか?」
『うん、そうだよー。理由を聞きたい?』
「理由なんてどうでも良いです。お姉ちゃんを殺した、その犯人が分かっただけで十分です。お姉ちゃん、優しかったお姉ちゃん、私が熱を出したらつきっきりで看病してくれて、冬食べ物が少なかった時期でも自分の分のごはんを私にくれた、大好きなお姉ちゃん。仇を取りたいです」
絶世の美少女はそんなテルマの様子を見て僅かに笑っていたが、目の前の相手が笑っているにもかかわらずテルマは気づいていなかった。
殺して下さい、ではなく仇を取りたい、と言ったことを自称神様は気にいっていた。
『それじゃ…… そのための力を与えよー、えいっ』
絶世の美少女が手をかざすと、テルマの体を淡い光が覆う。その手に、短弓と矢が握られていた。
短弓は軽く頑丈な木製だが、森で長く暮らしてきたテルマが見たこともない材質だった。さらに握には見たこともない皮が貼られていて滑り止めになっており、弦は軽くはじくと弦楽器のような音を奏でる。
小さな子供の力では弦を引くことなどできないはずだが、テルマが弦に手を触れると弦の方が動いたかのように最小限の力で引くことができた。
テルマはその弓矢に神々しい何かを感じていた。
幼子だけが感じることのできる、神聖もしくは悪魔的なものに対する勘の鋭さ。テルマはその弓矢を胸の前で抱きしめた。
「これが…… 力。お姉ちゃんの仇を取るための…… 力」
「そー。名前は、『プファイル(pfeil)』」
テルマは、理解し、そして感じた。この弓矢には途方もない力が込められていることを。
そして無力な少女にすぎない自分にこんな力を与えてくれた目の前の存在は、真に大いなるものであることを。
それが善か悪かまでは、姉のこと以外頭から抜け落ちた彼女には感じ取れなかったが。
「わかりました。この力を使って、お姉ちゃんの仇を取ります。いえ、取らせてください」
「本当にいいの? 危険なこともあると思うけど……」
自称神様は積極的なテルマに対し、たしなめるように言った。
それはテルマには、本当に自分を心配してくれるように感じた。この存在が、力だけでなく慈悲も兼ね備えた存在であると確信した。
「いいんです。お姉ちゃんのためなら」
それを聞いて自称神様は顔を背け、肩を震わせた。
テルマには涙をこらえているように見えた。
「私のことなんて心配しないで下さい。それより、一刻も早く仇を取らせて」
「りょーかい」
自称神様は返事と共に、右手を大きく振った。




