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接客本番

開店準備が整えられた店内はいつも以上に掃除が行き届き、新品のウエイトレス服を身にまとったドルヒは背筋を伸ばして凛としている。

 ウエイトレス服を着たドルヒは泰然としているようにふるまっているが、付き合いの長い僕からすると緊張しているのがバレバレだった。

「緊張してるの、ドルヒ?」

「ばばばば馬鹿なことを申すでない! ただヒロイーゼ殿に教えていただいた以上、ヘマは出来ぬと思っているだけだ」

 喋ると簡単にぼろが出た。上ずっているし口調もおかしい。

 周りのウエイトレスさんたちもくすくすと笑っていた。でも悪意ある笑いじゃなく純粋にほほえましいという感じだ。

「私たちも新人の時はああだったわね―」

「今思えばなんともない簡単なこと一つ一つに緊張しちゃって、下手に力が入って失敗したりして」

「ドルヒちゃんも気楽に行っていいわよー。新人は失敗してなんぼだから。至らないところはベテランがフォローするから、思いっきりやりなさい」

 なんだかドルヒが実体化してからこういう人間らしい行動を見ることが多くなった気がする。

 店の戸が開く音がする。ドルヒがびくっと震え、お客さんが入ってきた。

 中年のおじさんでヘルムートさんだ。人柄がよくて初心者でもやりやすいということで、僕も何度か接客に入ったことがある。

 長年この店を利用しているということで店員に多少粗相があっても怒らず、笑って流してくれる人だ。

「ちょうどいいわ。あの人で行きましょう。大丈夫、私が後ろについてるし何かあったら私たちがフォローするわ。ただ言われたとおりにやればいいから」

「了解した」

 ドルヒはペンと注文票、それにお盆を取りヘルムートさんの方へ歩いて行った。

 まるでロボットのような歩き方で、傍目にもコチコチに緊張しているのがわかる。

 紺を基調にし、袖と襟に純白のフリルがついた可愛らしい服装に身を包み、体の前にはお盆を持って恥ずかしそうに目を伏せているドルヒ。

 漆黒の髪も相まって、こうしてみると清純派の美少女にしか見えないんだけど。

 やっぱり不安だ。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 ヘルムートさんも突如現れた絶世の美少女に目を奪われている。一瞬反応がないけれど、気を取り直したのか注文していく。

「ビールとシュヴァイツネクセ一つですね、かしこまりました」

テンプレ通りの営業口調で、固さはあるものの真摯に注文を取っていく。

「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」

 丁寧に頭を下げて戻ってきた。

「よかったわよドルヒちゃん、その調子ね」

 ヒロイーゼさんが褒めてくれた。

 他のウエイトレスさんやエデルトルートも口々に賞賛したり軽い拍手をしたりしている。

「感想はどう?」

 ヒロイーゼさんが聞いてみたが、

「ふー、笑顔を張りつけているのも疲れるな、だがこれも人間どもに本心を悟られぬためだ、致し方あるまい」

 ドルヒの返答に空気が微妙なことになった。

 やっぱりドルヒはドルヒだな。ある意味で安心した。


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