敵軍視点、抗命
ミュンヘンから離れたとある場所。広大な平原が広がる地域で師団単位の軍勢が天幕を張って野営していた。
顔に傷痕が生々しい男や毛むくじゃらの熊のような大男が集まる軍隊で、可憐な花のような女子が三人いる。
一人はなぎなたを担いだポニーテール、吊り目で体の引き締まった女子。
もう一人は香水の瓶を手にした黒い瞳に脱色した金色の髪、ややけばけばしい化粧と男を虜にするようなしぐさが印象的な女子。
もう一人は、癖っ毛でそばかすのある、妙な訛りで話す女子で手に鞭を持っていた。しかし乗馬用ではなく、奴隷虐待に使いそうな長い鞭だ。
鞭を持ったそばかす少女が爪を噛み、憎々しげな声を上げた。
「私の可愛いペットたちが…… 倒されましタ」
「えー嘘~」
「きりえのペットを殺せるなんて、只者じゃないじゃん。ここは慎重になった方が良いじゃん」
しかし二人の忠告にきりえは耳を貸さなかった。
「許せませんネ。すぐに仇を取ってあげないト」
きりえはゆっくりと立ち上がり、歩きだした。彼女の頭上には小型のドラゴンが、後ろには黄金と黒の毛並みの虎が付き従っていた。
彼女の様子を彼女より遥かに身長も肩幅もある兵たちが黙って見ていた。だれも意見しようとせず、止めようとしない。
だがさすがに彼らを率いる将校が、彼女を制止した。
「勝手なまねはよせ! お前たちはかの国を攻めるのに協力するという条件で衣食住の保障と我が国に住む権利を与えられているのだぞ」
四十は過ぎた現場叩きあげの将校と言った感じで、威圧感も威厳も兵とは比べ物にならない。彼がきりえの前に立つと人間の前に山が立ちふさがっているような印象を受ける。
だが。
「あんたが私に命令するんですカー?」
巨大な山とて崩れることはあり、きりえが黄金の虎を人撫でするだけで将校は何も言えなくなり、道を開けてしまう。
恐怖からそうしたのではなかった。
彼が死ねば彼女たちは兵を皆殺しにして脱走する恐れがある。彼女のたちの暴力に対し権力という形で辛うじて対抗しているだけなのだ。自分が死ねば状況はさらに悪くなると理解しているための合理的な判断であった。
上官を縊り殺して脱走する兵隊など珍しくなく、それへの対応は士官学校でも実践でもいやというほど叩き込まれている。
「そうそう、それでいいんですヨー。あなたにも奥さんとか子供さんがいるんでしょゥ? 悲しませたくはありませんよネ」
きりえたちの見え見えの脅しに対して、彼は余裕たっぷりの態度で言い返す。
「可能な限り早く帰ってくるのだぞ。貴公たちの力はかの国を攻めるのに欠かせぬ。早く帰ってくれば宝石を一つ追加するように政府御用達の職人に頼んでおく」
それを聞いてきりえたちは目を輝かせる。
「遅れないでね~」
「宝石は女のロマンじゃん、更に増えて私がもっと綺麗になったらマジヤバい」
「人をいくら脅しても、できるアクセサリーの質はよくならないですからネ。そう言ったものはおまかせデス」




