???視点 九 ~正体~
私以外の三人は森に来た、手近にいた人間とすぐに契約した。武器になって転がっている私をどうするのか怖かったけれど、見向きもせずに去っていった。
あれだけ私をいじめることに執着していたけれど、他に大事なことができるとこんなものか。
私も早く契約して、実体化して、殺さないと。逃がしてなどやるものか。
でも私はなかなか契約する気になれなかった。
人を信用できなかったし、私が契約してもまたはるかたちと同じような目にあわされそうだったから。契約するなら私と同じような人が良い。
そう思って何人か辛い目に合っている優しそうな人にとりついたけど、そんな人は私を使うこともできずに死んでいった。
次は荒っぽい人にとりついたけど、弱さを克服できずに死んでいくばかりだった。
私が取りついた人が死んでも私自身には影響がないようで、能力や人格に変化はなかった。
でも、こんなんじゃ駄目だ。弱さを克服できるくらいに優しくて、復讐にためらいがないくらいに残酷な人が良い。
私を扱いこなせるように、復讐を手伝ってくれるように、そしてはるか、きりえ、しぐれを殺せるように。
そうやって何人も何人もとりついて、この世界についてのさまざまな知識を得た。
人は追い込まれたら簡単に悪さをする。この世界では善良そうな人が友人から盗みを働くこともあれば家族を殺すことさえあった。
周囲に殺しがあふれていると、自分が人を殺しても躊躇がなくなった。ナイフとなった自分の体が人の肉を貫いていくことが繰り返され、繰り返され、血の匂いが離れなくなると自然に慣れた。
ハイレンやデーゲン、シュプレンゲンっていう別の悪魔とも出会った。私たち以外にも悪魔はいるのか…… 彼らを殺せればもっとレベルアップできそうだ。
そのうちにはるかたちが実体化したらしいという噂を聞いた。
もっともっと殺したくなってくる。
でも契約できる人間の数にも限度があるらしい。この村上直哉とかいう人間で最後だ。
これが最後のチャンス。
どうか、私と同じように復讐してくれますように。
それともうなめられないように、口調も変えよう。
村上直哉に対して威厳たっぷりに宣言した。
『吾輩は貴様のクラフト、カルトマヘンを授けし悪魔だ』




