???視点 四 ~あの三人を、殺して~
彼女たちに連れられて、どんどん道の奥に入り込んでいく。飲食店やバス停が立ち並ぶ表通りから、入り組んだ道路に入り、そしてマンションや古い民家が立ち並ぶ雑多な感じの場所に入る。
歩くたびにどんどん嫌な予感が強くなっていく。
一刻も早く逃げないとって、そんな予感がする。
でも逃げられない。
だから心を押し殺して、この地獄の時間が一秒でも早く終わるよう祈るしかできなかった。
「着いたよ~」
目の前にはちょっとしたお城のような建物。窓や壁の構造が周りの建物と比べて明らかに違い、看板には御休憩、という文字が書かれている。
ラブホだ。
「ここで男を待たせてる。紹介は済んでるから、楽しんできてね~」
「お金も貰えますヨ」
「そして稼いだお金を、私たちに貸してね、ってことじゃん」
私は体中が冷たくなるような感じがした。
無理やり売春させて、そしてお金をカツアゲしようというの?
こいつら狂ってる。
私は必死に彼女たちを振りほどこうとしたけれど、三対一では力に差がありすぎてほとんどびくともしない。
「やだ、やだ、やだあ!」
私は必死に声を出して叫ぶけど、周囲には人が誰もいない。
「へ、この時間はこの周辺みんな働きに行ってるから誰もいないんだ~」
「しぐれがよく利用しているのが役に立ちマシタ!」
「相手にも感じると泣き叫ぶ子だけど、気にしないで下さいって言ってあるから大丈夫じゃん。あ、相手は複数用意してあるからあなたも飽きないで楽しめる。私って我ながら気遣い上手じゃん」
ただ逃げるために必死に腕を動かし、声が枯れるまで叫ぶ。
こんなことならここに来る前に逃げればよかった。待ち合わせ場所なら周囲に人がいたから、逃げることもできたのに。
「大人しくしてよね~」
はるかがスナップの聞いた平手打ちを私の顔に浴びせる。
脳が揺さぶられて意識が飛びそうになる。
だけどこの後の展開を予想すると、恐怖で意識が繋ぎとめられた。はるかはそのまま私のあごをつかみ、睨みつけてくる。
「ちょっとお仕置きしてやる~」
はるかは私のあごをつかんだまま器用に片手だけでポケットから煙草を取り出すと、ライターで火をつけた。
「げほ、げほ」
煙が苦しい。小さい頃はぜんそく持ちだったから、煙草の煙はひどく苦手だ。
喉がかゆくて、むせる。呼吸が苦しい。
「煙だけでここまでって…… 根性無し~。根性を入れてやる~」
はるかはそのまま火のついた煙草をゆっくりと……
「うあああ!」
手の甲から激痛に似た熱さが伝わってくる。
熱い、熱い、熱い。
痛い、痛い、痛い。
それしか考えられなくなるほどの激痛が全身を苛む。
「うるさいな~」
はるかは私のもう片方の頬を平手で叩いた。
意識が飛びそうになったけど、熱さのせいで気を失わなかった。
もう破れかぶれだった。
目の前に合ったはるかの手に、私は……
「あんまり騒がれると……」
はるかは最後まで台詞を言えなかった。
あごをつかんだ手を、私が思いっきり噛んでやったからだ。
「……っつ?」
血が出るまで噛んでやると、さすがにはるかも手を離した。はるかの悲鳴におどろいたのか、他二人の拘束も緩んでいる。
その隙に全力で二人を振りほどいて、逃げ出した。
バックと靴が片方その場に落ちたけれど、振り返る余裕もなかった。
逃げる、逃げる、ただ逃げる。道なんてわからないし片足が裸足だけど必死に手を振って足を動かす。
普段そんなに運動してないからすぐに息が切れる。
足も痛い。
だけど逃げないと、掴まったら強姦される。
そして彼女たちは罪にさえ問われない。私が自主的に売春したとでっちあげられるだけだ。
後ろから彼女たちが追いかけてくる。
特にはるかは足が速い。どんどんと距離を縮められるのがわかる。
助けて、助けて、誰か助けて。
私は必死に祈った。こんな時でも祈るしかできない自分の無力さに吐き気がする。
私は人間が嫌いだったけど、一番嫌いなのはこんな自分自身かもしれない。
もう神様なんて信じていないから、今日は悪魔に祈る。
夢よりも結婚よりも大切な、一番の願い事を。
はるか、きりえ、しぐれ、あの三人を…… 殺して。




