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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
ドルヒ編

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???視点 壱 ~トイレ~

今回かなりえぐいいじめの描写になります。

 私の目の前に、複数の女子がいる。シックな制服に身を包んだ見た目も悪くない女子たち。駅や校内で見れば、立派な淑女として見られるだろう。

 ここがトイレで、彼女たちが手に持った異臭を放つバケツがなければ。

「なに考えてるの~?」

 女子たちの一人、島風はるかが甲高い声で私を罵ってきた。

 既に私の両腕は別の女子によって羽交い絞めにされ、女子トイレの中で正座させられている。冷たくて固い感触がより一層私を惨めにさせる。

 私は答えない。

 答えてもどうしようもないし、言葉尻をとらえてねちっこく嫌味を言われるのが分かっているから。

「なにかしゃべろ~?」

 ぞっとする笑顔で私の下顎を持ちあげると、そのままギリギリと力を込めて掴んでくる。なぎなた部の彼女は男子並みに握力が強く、私の華奢な体は耐えきれずにすぐ悲鳴を上げた。

「いたい、やめて……」

 痛みに耐えかねて、また懇願してしまう。

絞り出すようなはかない声が意志に反して自分の口から出たことに更に嫌悪感を覚える。

「うんうん、そうやって弱弱しい声を出してくれるのが面白いんだよね~。部活じゃみんな野太い声ばっかり出してるし、そういう声もたまには聞きたいかな~」

 こうやって複数の女子に罵られ、嘲られ、暴力を受ける。

 それが私、匕首みなもの日常だった。

 いじめのきっかけは些細なことだったと思う。

 昔から空気になじめない子だったから、小さい頃は孤立しがちだった。

 でもそれじゃいけないと思って、一人でもみんなの役に立てるように人がしたがらない手伝いとかを引き受けて、そのうちに「空気読めないけど親切なやつ」というポジションができた。

 友達もできた。何年も付き合っていると空気を読むのは下手でもなんとか相手の言いたいことが分かってくる。

 中学のころまではそれでよかった。

 だけど進学して、親の都合で引っ越して遠方の学校に通うようになる。そこではもうグループが完成していて、私の入る隙間なんてどこにもなかった。

 声をかけてくる人はいたけれど、私は空気も読めないし彼女たちと共通の話題なんてなかったから私が会話に入るとすぐに話が終わって空気が白けてしまう。

 それが何度か続くとクラスでも学校でも孤立していた。

 近隣の人ばかりが通う学校で転校生も滅多になく、排他的な雰囲気も元々あったように思う。

 それからはあっという間だった。因縁をつけられていじめのターゲットにされた。



 はるかたちが手を離し、私を女子トイレの一室に押し込む。

 反射的に逃げようとするけれど外からドアを押さえつけられて、出ることができない。

「やめて、出して……」

 私は決して願いが聞き届けられないとわかっていながら、それでも口に出さずにはいられない。一万回言えば一回くらいはお願いを聞いてくれるんじゃないか、無力で助けてくれる友達もいない私には儚い望みにすがるくらいしか方法がない。

「重たいな~」

 バケツの中の液体がちゃぷちゃぷと揺れる音がする。

 さっきの異臭を思い出して、自分が何をされるかがわかった。

 ドアを必死に叩いて、引っ張るけれど女子数人分の力と私一人の力では比べ物にならない。

「せーのっ!」

 上から、何かが放り込まれた。

 私の体を痛いくらいに叩き、そのままの勢いで床に落ちて飛び散る。下を向いていたのにしぶきが少し私の鼻や口に入った。

「うえ、うえぇぇぇ」

少量なのに口の中いっぱいに広がる塩味と尿の臭い。

制服にもかかって、髪にもかかって体中が尿まみれになった。

「あはは! きりえもいいこと考えるねー」

「ナイスアイディアでショ! ワタシ飼育委員ですから、動物たちのトイレを見てて思いつきマシタ!」

 帰国子女である高雄きりえの外国語なまりのはいった言葉が聞こえてくる。

「みなもー、『あなたが』汚したんだからきちんと掃除しておいてねー」

 はるかがさわやかな笑い声をあげながら、トイレを出ていく音がした。

 私は彼女たちがトイレを出ていったのを確認してから、戸をそっと開ける。床には糞の混じった黄色い液体が散乱していた。

 見たくない。

 今すぐここから逃げ出したい。帰りたい。

 でも、この惨状を放って帰れば彼女たちはもっとキレる。

 私の家も知られてしまっているから、下手をすれば家まで押し掛けてくるだろう。学校でいじめられているから、今のところは学校内だけで満足している。

 私は心を殺しながら、トイレの掃除に取り掛かった。


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