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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

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背中

ドルヒからのアドバイスで、それからの日々は奇襲攻撃をうかがう日が続いた。朝から、もしくは夜中からあの貴族の屋敷に張り込んだり、彼らが出かけるところを見張ったりした。だが二人は常に一緒に行動していて、どうしても好機が訪れない。

 そのうちに出発の日が近づいてきて、焦りばかりが募っていく。

それならいっそのこと、二人まとめて殺すか? 多少のリスクはやむを得ない。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。でもヒーラーがいるパーティーは倒しにくいからな……

 考え事をしているとミスが増えるらしい。

 僕の手からお皿が滑り落ちて、派手な音を立てて床に飛び散った。

「すいません!」

 僕は他のウエイトレスさんやお客様に頭を下げながら、割れたお皿を片づけていく。

 今日だけで三枚目だ。

 しっかりしないと…… こんなんじゃいざ決戦っていう時もミスりそうだ。

「ムラさん…… 最近どうされたんですか?」

 僕を気遣ってか、エデルトルートが声をかけてきた。

「なんでもないから、気にしないで」

 僕はエデルトルートを心配させたくなくて、そう言うけど。

「気になります。ムラさんがなんでもないわけないです……」

 彼女にしては珍しく強い口調で言う。

「ヒロイーゼ先輩に聞いても、ちゃんと答えてくれないし」

 僕がエデルトルートを心配したみたいに、エデルトルートも僕を心配してくれてるんだな……

「疲れることはあったけど、大丈夫だから。そんなに心配しないでいいよ」

 僕の胸の高さくらいしかない彼女の頭を撫でる。エデルトルートの髪は絹糸みたいに柔らかくて、滑らかでずっと触っていたくなる。

昔、従妹をこうやってあやしていたのを思い出したのでやってみたけれどエデルトルートにも効き目があったようで、彼女は気持ちよさそうに目を細めている。

「ムラさん……」

 彼女が大分落ちついたのを確認して、僕は仕事を再開した。彼女をあやすと僕も落ち着いたのか、それ以降は皿を割らなかった。



「あの甲胄男と修道女の居場所は掴んだんですが、なかなか好機が無くて」

 僕はヒロイーゼさんの部屋で愚痴っていた。

 愚痴っても何かが解決するわけではないけれど、こうして気持ちを吐きだすだけでもすっきりする。そういえばこうして愚痴を言える人ができたのは久しぶりだ。

「そうですよね。私もお手伝いしたいところなのですが、やっと調子を取り戻してきた店を切り盛りするのに忙しくて」

 それをヒロイーゼさんは時に自分も愚痴をこぼしながら、時に相槌を入れながら聞いてくれている。

 この人は話上手というより聞き上手だ。

特に気のきいた台詞を言うわけでももっともらしい言葉を言うわけでもないけど、こっちが話しやすい雰囲気を作るのが抜群にうまい。ヒロイーゼさんの前に座って二言三言話すだけで、話す前はそんなにしゃべることが浮かんでいなかったのに、ヒロイーゼさんと話し始めるとどんどん言葉が浮かんでくる。

話しているうちに心が落ち着いてきて、不安とかがすっと薄れていく。

 僕の母校の保健室のスクールカウンセラーよりよっぽどカウンセラーしていた。ただ人の話を肯定するだけの座った相槌機械だったからな。

 こうして話して、すっきりすると頭も働いて、考えをまとめる余裕も出てくる。

とりあえず二人が町の外に出たところを狙おう。屋敷の中にいるんじゃ、敵地だし何があるかもわからない。

「もう遅くなりましたし、着替えて出ます」

 僕はウエイトレスの制服のボタンを外し、ウイッグに手をかけた。

「ヒロイーゼ先輩! ちょっとご相談が」



 後ろから森の妖精のようなエデルトルートの声が響き、僕は咄嗟に体を腕で覆った。

入口に背中を向けて着替えていたので助かった。もし入り口側を向いていたら彼女にばれてしまっただろう。

 僕がエデルトルートに背を向けて動かない。というか、動けない。既にボタンはすべて外してしまったのでもし彼女の方を向けばまっ平らな胸を見られてしまう。

 そんな僕の葛藤を尻目にエデルトルートは無邪気に聞いてきた。

「ムラさん、お着替えですか?」

 そうだよ! だからすぐ出て行ってくれよ!

「更衣室があるのに…… ムラさんが着替えているところを見掛けないと思ったら、ヒロイーゼ先輩の部屋で着替えてたんですね」

 女子が他にいっぱいいるところで着替えたらすぐばれるし。

 今のレベルなら一般人如きどうとでもできるだろうけど、女の子に無理やり関係を迫るような岩崎みたいなやり方はしたくない。

「ムラさんの素肌、始めて見ました」

 てくてくと近付いて、僕の後ろに立つ。

 ヒロイーゼさんは助けてくれないと思ったら、口を押さえて必死に笑いをこらえていた。

 今に見てろよ!

「ひゃうっ!」

 エデルトルートが僕の背中に指を這わせてきたので、僕はうっかり声をあげてしまった。

「うわ…… ムラさんの背中って真っ白でシミ一つないですけど、触ると更にすごいですね。みずみずしくて、張りとツヤがあって…… 私なんて足元にも及ばないです」

 ヒロイーゼさんまでが僕に触ろうとしてきたので、僕はエデルトルートに怪しまれない程度の速度で部屋の隅に移動してボタンをはめなおした。

「そういえばヒロイーゼ先輩と一緒にいた男の人、私になれなれしく話しかけてきて…… 怖いです。いなくなっちゃえばいいのに」

 エデルトルートは憎しみをたたえた目で虚空を睨みつける。いなくなっちゃえばいい、か。そこまで嫌われていたのか。

「ムラさんも気を付けてください。こんなに可愛くて肌もきれいで人気者なんですから絶対またやってきます」

 気をつけるって言っても同一人物なんだけどね…… フクザツな気分だ。

「私が強かったら、――――――してやるのに」

「それだ!」

 僕は思わず手を打った。二人がびっくりした様子を見せるが、気に留める暇もない。

無理に二人を引き離す必要はなかったんだ。


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