尾行
僕は城の外で再び一夜を明かした後、町へ戻ってきた。城門の取り調べが厳しくなっていたが、僕は彼らに見えないほどの速度で移動してしまえるので取り調べを簡単にスル―できた。
だが目の端に捉えたものに警戒し、僕は咄嗟に姿を隠す。持ち歩いているウイッグだけをかぶってシルエットを変えた。
悲しげな顔をする清美と、ナイトのようにその側に立つ剱田が出征していく兵士たちとそれを見送る家族を見ていたのだ。
「生きて帰ってきてね」
「無事で」
「武運長久を」
ある者は涙をあらわにして、ある人は唇をかみしめて出征する兵士たちを見送っている。見送られる兵士たちも緊張感にあふれるもの、悲壮感漂うものなど様々な人がいた。
日本での教育しか受けていなかったら、僕は彼らを王様の犠牲になる人たちとしか見ていなかっただろう。兵隊とその家族は犠牲者で、悪いのは上の人。それしか教えられてこなかった。
だが人間の欲望と生きるためにはどんなことでもする醜さを見てきたので、騙されなかった。よく見れば厄介者を兵隊にできて嬉しいのかせいせいした顔をしている家族、戦場で何をする気なのか欲望にまみれた顔をしている兵隊、ヒロイックな心情にとらわれているのか自分こそが正義の味方みたいな独善的な顔をしている兵隊も見える。
正確にはわからないけれど、半分くらいは喜んで戦争に行きたがっている感じだった。
だが清美はそれが見えないらしく、夏の反戦ドラマ見て涙ぐんでいるみたいな顔をしていた。
僕を犠牲にした時は、そんな顔をしなかったくせに。
でもここで彼らを見つけられたのはチャンスだ。
僕は裏路地で大急ぎで女装して、剱田と清美を尾行することにした。
二人が向かったのは、貴族が住む館が立ち並ぶ通りで、日本で言うと高級住宅街と言ったところだ。町中とは明らかに格式の違う家々が軒を連ねている。鉄柵で仕切られた館の庭には色とりどりの花が咲き、番犬と鑑賞を兼ねてかセントバーナードやド―ベルマンのような巨大な犬が放し飼いにされている。
衛兵に咎められることもなく二人は中に入り、僕も身長の三倍はある鉄柵を軽く飛び越えて二人の後を追う。
そのまま二人は屋敷の中に入り、じゅうたんの敷かれた廊下を歩いて行く。壺やら甲胄やらが置かれているのがいかにもお金持って感じだった。住んでる世界問わず、金持ちは廊下を長く、高価な調度品を置きたくて仕方ないらしい。
というか、客人になめられないための意味が強いみたいだ。これだけの屋敷と調度品があれば交渉に入る前から気圧されてしまうだろう。
また、廊下が直線的なので尾行がやりづらい。一度振り向かれたらその場で殺しに入るしかない。
何度も後ろから刺そうと考えたが、剱田は勘が良いのか僕が殺気を放つたびに後ろを振り向くのでその度に調度品の影に隠れなければならなかった。
さすがにここで襲うのは愚策だ。
見取り図もわからないし、どんな仕掛けがあるのかもわからない。
だが尾行がばれたらその場で戦闘に入らざるを得ない。腰のドルヒが今までにない熱を帯び、頼もしく感じる。
彼らはやがて最奥の部屋に入っていった。
僕は扉に張り付き、中で行なわれている会話に耳をすませる。