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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

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別人

町の外で一夜を明かして疲労を癒し、再び戻ってくると町中大騒ぎになっていた。宿が一軒半壊し、そこから役人からは英雄視されていた岩崎が死体で出てきたのだ。

 宿の周りには官憲が厳重に警備を敷き、布がかぶせられた遺体に剱田は目を閉じて黙祷し、清美がハイレンを使って必死になっている。

「生き返って! なんで? どうして死んじゃったの?」

 だが清美がロザリオを握り締め、必死にハイレンを使用しても岩崎は生き返る様子はない。

「諦めろ、キヨ……」

 剱田が清美を諌めるが、清美は決してあきらめようとしなかった。

 町人は人だかりとなってその様子を見守っている。

 岩崎の死体を前に、嘆き悲しむ町人も多かったけどそれと同じくらいの人たちが安堵の表情をしている。石を投げつけようとする人たちもいたが、岩崎のすぐそばに剱田と清美がいるのを見て行動に移すのを止めていた。

 よく見ると何人かの若い女性がカタルシスに満ちた表情で岩崎の死体を見ていた。おそらくは岩崎にひどい目にあわされた人たちだろう。

 それを見て、僕は自分の行動に自信が持てた。

「ドルヒ。これからどうする?」

 昨晩のうちに女装を解いた僕は腰のドルヒに話しかける。

『あ奴らの出方次第だ。残るは二人になった以上、相当に警戒するはずだからな。だが相棒の今のレベルならばデーゲンと一騎打ちしても互角だ』

 今の僕は、剱田と互角……

 そう聞いただけで、心の奥から震えるような嬉しさが込みあげてくる。クラス内でも、こちらの世界に来てからも僕は剱田におびえっぱなしだった。

『あ奴らのとる可能性は二つ。警戒してこの町の厳重なところに引きこもるか、逃げ出すかだ。それが掴めるまでは相棒はやつらに正体を悟られないように警戒しろ』

 それを聞いて、僕は浮かれていた気持ちを引き締める。

ふと人ごみの中で、エデルトルートを連れたヒロイーゼさんを見つけた。

「こんにちは、ムラさん」

 ヒロイーゼさんが僕に手を振り、エデルトルートが僕を見ておびえたようにヒロイーゼさんの影に隠れる。昨日との態度の差に僕は違和感を覚えた。

 まるで別人に接するような態度だったからだ。

 二言三言、客の一人とするような軽い世間話をした後、人ごみの中で他の人に聞かれないように、ヒロイーゼさんは小声で話しかけてくる。

「あの強姦魔が死にましたね。こんなに嬉しいことはないです。エデルトルートも安心していました。あの子のあんな穏やかな表情を見たのは久しぶりです」

 しかしエデルトルートは岩崎の死体にかぶせられた布を見ながら、複雑な感情をしのばせる目をしていた。自分をひどい目に合わせた人間とはいっても、死んだという現実を目の前にしては色々な感情がわき起こるのだろう。

 僕もリンチされた揚句コカトリスに捧げられなかったらエデルトルートと同じような顔をしたと思う。

「ムラさん…… つかぬことを伺いますが」

 ヒロイーゼさんはさっきとまったく同じ口調、同じくらいの声量で呟いた。

「あの強姦魔を手にかけたのは、あなたですね」



 僕は反射的にドルヒに手をかけて抜こうとした。

 ばれたなら、もう遠慮する必要はない。

 だけどドルヒは鞘に収まったまま抜けなかった。まるで、ドルヒが自分の意志そのもので動いたかのように。岩崎を殺したことで生じた、ドルヒのさらなる変化だろうか?

『相棒はせっかちすぎる。こんな人の多いところで殺しては相棒のこれからの復讐はどうなるのだ? それにこの女は相棒を官憲やデーゲンに突きだすことはないだろう。人の心の機微にもっと敏感になれ』

 ドルヒの冷静な指摘と声に頭が冷え、僕はドルヒから手を離した。

「今、私を殺そうとしましたね」

 ヒロイーゼさんは殺されかけたというのに、淡々と言った。

「あなたは人を殺したい人だとは思っていましたが、体格からして自分でそれをするとは思っていませんでした。しかし今日あなたを見て確信しました」

 そこでヒロイーゼさんは一旦言葉を切る。

「あなたは今、復讐を果たした直後の顔ですから。そう言った人を、何人も見てきました」

 そこまでばれていてはごまかしようがない。僕はヒロイーゼさんの言葉を肯定した。

「それで、僕をどうしようって言うんですか。官憲に突きだしますか?」

 それが一番大事なことだ。ばれた以上、取り繕っても仕方がない。だがヒロイーゼさんは顎に人差し指を当て、心底不思議そうに言った。

「あなたに不利益になるようなことをして、私に何の得が? 私はこれでも商売人のはしくれですからね、自分と自分の店に不利益になるようなことはしません。敢えて言うなら」

 ヒロイーゼさんは急にいたずらっぽい顔になって、言った。

「また女装して店で働いて下さるとうれしいですね! お客さまからも店員からもあなたは大評判ですから!」

 僕を正面から抱きしめて、ヒロイーゼさんは宣言した。当たってる! 当たってるから!

「ヒロイーゼ先輩……? その男の人、先輩の恋人ですか? さっきから私に聞かれないように話してますけど」

 それまでずっと僕たちの会話を見守っていたエデルトルートが割って入った。

 僕をまるで睨みつけるような目で見ている。

「恋人じゃないけど、お得意様の一人ね。悪い人じゃないから、安心していいわ」

 ヒロイーゼさんがエデルトルートをあやすように忠告する。

「どうしたの? 態度が随分違うけど」

 昨日は口数が多くないと言っても心はある程度許している感じだった。でも今日は、まるで初対面の人でも見るかのような態度だ。

「態度が違うって、あなた誰ですか?」


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