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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

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32/118

固い

だがドルヒは岩崎の心臓を貫通できなかった。薄皮一枚切り裂いただけで止まる。人の体を突いたはずなのに、まるで岩石でも突いたような手ごたえだった。大胸筋は避けて突いたのに…… まさか肋骨の隙間の、肋間筋だけで防いだのか?

あんな薄い筋肉でガードできるなんて…… でも動揺している暇はない。

 「てめえ、何もんだ? その力、素早さ…… 只者じゃねえな」

 岩崎は格闘家のように構え、僕と対峙する。

 武器を失ったというのにその顔には微塵も焦りが見られない。おまけにあの防御力、少し甘く見てたかもしれないな。

「久しぶりだね、岩崎。人をいけにえにした後は町で好き勝手やって、挙句の果てには女の子に乱暴とはいい御身分じゃない」

 もう隠す必要もないので、正体を明かした。

「てめえ…… 村上か? 桜井たちもお前が殺したのか?」

「当たり前だろ」

口調も裏声も戻すと、こいつに対する憎しみが止め処なく溢れてきた。

「いつの間に女装が趣味になりやがった?」

「そっちか」

 僕は頭を抱えたくなった。こいつはまだ執着があるのか。

「それになんで俺を殺そうとした? 俺や剱田は今やこの町の救世主だぜ」

「救世主が女の子に乱暴するの? 人を生贄にして自分だけ逃げるの?」

 いい加減にしろ。自分だけが正義だと思っている奴は大嫌いだ。

「ささいな犠牲ってやつだ。それに俺を殺したらこの町はまた魔物に蹂躙されるぞ? この町に商人も寄って来なくなるぜ?」

「有難うね。でも魔物なんかよりもっと恐ろしいものを知ってるから」

「なんだそれ? そんなのがいるのかよ? 俺が退治してやろうか」

 独善的で目立ちたがり…… 吐き気がするような正義感だな。

「人間だよ。君たちみたいに生きてる人間が一番怖い。人間は裏切り、はめて、自分たちだけ助かろうとするから」

 僕は村人や清美が僕をコカトリスに捧げたことを思い出す。

でも殺し合いには余計だ。

余計な思考を振り払い、再び岩崎に切りかかった。



岩崎はクラフトが使えなくなっても、肉弾戦だけでも十分に強かった。おまけに固く、ドルヒを振るっても致命傷にならない。

『元々の基礎ステータスの差だな。フェルゼンは元々固いが、ここまでとは予想外だった。ハニートラップからの一撃で殺せると踏んでいたのだが…… すまぬ、相棒』

 上半身への攻撃は固く太い腕で防がれ、鳩尾すら筋肉で覆われて効かない。

だがドルヒから伝わってくる人体の急所の情報が役立った。肉を切り裂けないなら、皮をズタズタにすればいい。手首の裏側、脚の腱などを狙って切りつけていく。筋肉でガードできない位置だからこちらの攻撃が通用する。

 目や金的と言ったメジャーな急所はあちらもガードするが、それ以外はガードが緩かった。喧嘩でアキレス腱や手首を切ってくる相手なんていなかったはずだから、当然か。

 ヒットアンドアウエイでの攻撃を繰り返していき、徐々に岩崎の体に傷が刻まれていく。床には血だまりがあちこちにできて、返り血が僕や壁にこびりついていく。

でも楽な戦いというわけではない。力は岩崎が上なので掴まったらおしまいだ。僕の体の側を岩崎の手が通るたびに、岩崎の拳を避けるたびに死を覚悟する。

「てめえ…… ぶち殺してやる」

 岩崎が体の前で腕を十字に組み、ガードを固めた。そのまま僕の方に向かって突っ込んでくる。重戦車を思わせる突撃に僕は身震いしたが、スピードは僕が上だ。すっと横にかわす。だが岩崎は進路を変えずに壁に突っ込んだ。

岩崎の狙いが読めて、僕は急いで宿の外へ退避しようとしたが間に合わなかった。

まずい!

直後、宿の壁が崩壊して屋根も崩落した。瓦礫が僕の頭の上に降り注ぎ、柱がへし折れて倒れる。

「なんだ?」

「何が起こった?」

 宿の一角が崩落し、周辺の人が続々と集まってくるのが聞こえる。僕の前は未だに降り注ぐ漆喰や木材におおわれ、視界が塞がれている。

「捕まえたぜ」

 陰から丸太のように太い岩崎の手が伸び、僕の両手をがっしりと掴んだ。



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