帰途
それから、エデルトルートとヒロイーゼさんと一緒に帰途についた。
エデルトルートはヒロイーゼさんの後ろに隠れるようにして歩いている。人と話すのが怖いみたいだけど中の良い人とは普通に話せるようで、親しげに手を振ってくる人には自然に挨拶を返せていた。
ただ男性、特に若い男とすれ違った際に異常なほど震えるのが気にかかった。
酒場に到着すると荷車に積んであった野菜やワイン、肉などの詰まった木箱を順々に下ろしていく。僕がひょいひょいと下ろしていくのを見てエデルトルートは目を丸くしていた。
「ムラさんって、見かけによらず力もちなんですね…… それに手も女の人とは思えないくらいにたくましいです」
大分セーブしていたつもりだったけど、それでも女性としては異常な力に見えるらしい。
僕から荷物を受け取りながら、エデルトルートはうっとりとした笑顔で夢見心地に呟く。その笑顔が少し心に痛い。
力だけじゃなくて手でも男ってばれる危険があるな…… これからは用心するようにしよう。
ヒロイーゼさんは酒場の奥の厨房に入り、仕込みを始める。エデルトルートは店内の掃除を始めた。
僕は店員じゃないから部屋に引っ込んでも良かったけど、何もしていないのも落ち着かないので二人の仕事を手伝うことにした。
ヒロイーゼさんはあっさりと了解してくれ、早速店長や他のウエイトレスさんに紹介してもらう。
「かわいいー!」
「肌綺麗ね…… どうやってケアしてるのかしら?」
「こんな逸材を隠していたなんて…… ヒロイーゼ、なかなかやるわね」
数人の女性の前で女として褒められる…… 心が、折れそうだ。
僕、男なのに! 僕、男なのに!
もう帰りたい…… でもいまさら引くわけにもいかないし、手渡された古ぼけた前掛けを付けて仕事に取り掛かる。
といっても僕はメイドでもウエイトレスでも料理人でもないから、できることはたかが知れている。野戦料理のような大雑把な食事は作れても店で出すような見た目の良い食事は作れない。掃除も上手くない。
だから店内の整理や掃除の手伝いがメインになる。ヒロイーゼさんの料理の手際やエデルトルートの寸分の隙もない掃除など、僕にはとてもまねできそうにない。
店内の掃除が終わり、料理の仕込みや食器の準備が終わるころ、赤い夕陽が西の空に沈みはじめる。後は営業中の看板を外に立てかけて開店準備完了だ。
「お疲れさまでしたー」
剱田たちはこの店の常連だという。顔バレが怖いので前掛けを返却して、早々と引き上げようとするとエデルトルートさんに止められた。
その笑顔に邪悪なものが宿っているのは気のせいではないはずだ。
肩をがっしりと掴み、獲物を逃がさない鷹の目で僕を見ている。なぜかエデルトルートも同じような目で僕を見ていた。




