エデルトルート
「ヒロイーゼ先輩……?」
脇から小さな女の子の声がして、振り向くとヒロイーゼさんの隣にプラチナブロンドの長い髪をした子が立っていた。ヒロイーゼさんと同じ制服を着ているけど、随分と小柄だ。僕より頭二つ分は小さいんじゃないだろうか。
少しおどおどしていたけど、僕を見るとにっこりと笑いかけてきた。
目立たないけど愛らしい、菫の花のような笑顔だ。
「ムラさんは初めてでしたね。この子はエデルトルート。私の後輩です」
「エデルトルート・ヘルツと申します…… ムラさんはヒロイーゼ先輩のお友達ですか?」
「僕はムラ。よろしく、エデルトルート」
僕はベンチから立ち上がるとエデルトルートの目の前でしゃがんで目線を合わせ、笑顔で挨拶した。
少し僕を見ておびえたような感じなのが気になる。
人が怖いのかな?
何もしゃべらなかったので、僕も何も返さなかった。
沈黙が続くけどそれが居心地の悪いものにならないように、君といるのが不快じゃないって空気を作る。
不機嫌そうなそぶりも無理に話そうとするそぶりも見せずに、柔らかい雰囲気を保つように心がける。喋りたくないのに話しかけられるって迷惑でしかないからね。
沈黙が続いている間、エデルトルートは不安そうだったけどやがて表情を柔らかくして微笑んだ。
「ムラさん。こちらこそ、よろしくお願いします」
それを見てヒロイーゼさんが目を丸くしていた。
「この子が会ったばかりの人に自然に挨拶を返せるなんて…… あなたの人となりが分かった気がします」
「僕は何もしてませんよ?」
しゃがんで目線を合わせて挨拶しただけなんだけど……
「何もしていないからこそ、ですよ。子供に無条件に好かれる人はまず間違いなくいい人です」
ヒロイーゼさんが僕を見る目が、心なしか柔らかくなった気がする。
それからすっと僕の耳元に口を寄せて、囁いた。
「まあ自己紹介で『僕』はどうかと思いましたが。今のあなたは、見た目女の子なんですし。でも僕っ娘キャラということで行きましょう」
自分の外見を忘れてた……




