表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/118

偽名

少し日常を描きます。

次回にクラスメイトが出てきます。

僕は荷物持ちで町中を歩いていたが、途中で抱えきれないくらいになったので荷車を借りてそこに荷物を載せて歩いていた。

 ミニスカートをはいた華奢な町娘が大きな荷車を引いている光景は人目を引いたが、ヒロイーゼさんが隣にいるのを見ると皆納得した様子だった。ヒロイーゼさんはいつもこのくらいの荷物を買うという。 

 業者に届けさせないのか聞いたところ、

「配送料込になってしまいますからね。それに何より、お店で出すものは自分の目で見て買いたいですし」

 とのことだった。

 お互いを知ろうという提案通り、ヒロイーゼさんと買い物をすると色々とこれまで見えていなかった面が見えてくる。

 まず町の人々には基本的に好かれている。酒場で探偵みたいなことをやっているから恨みを買っているのかと思ったけど、道行く人は皆好意的な視線を向けてくるし、買い出しの店の人はリンゴやパンなど少しだけおまけしてくれる。

 持ちつ持たれつの狭い村社会や個人商店など顔の見えるお付き合いなどではこういったおまけが当たり前だったらしいけど、それをこの目で見ることになるとは思えなかった。

「その子は?」

「新しくできた友達です」

 時々店の人が僕のことを聞いてくるけど、ヒロイーゼさんはさっきのドロドロした感情が幻だったかのような完璧な営業スマイル、いや親しい人同士が作れる自然な笑顔で受け答えていた。

 こうしてみるとごく朗らかで、人当たりの良い酒場のお姉さんって言う感じしかしない。保育士をやっても子供に好かれそうな人柄だ。

「ヒロイーゼは親切だからな、この縁を大事にしろよ!」

 店の人に話を振られたら、僕はぼそぼそと答えるしかできない。

 声で男とばれてしまう恐れがあるからだ。裏声で完璧にごまかすのは難しい。

 でもこうして町の人に朗らかに話しかけられると、人の温かさが心に染みてくる。

 不覚にも嬉しいと思ってしまう。

 初めに出会った村人たちに裏切られたばかりなのに。

「少し休憩にしましょう」

 ヒロイーゼさんの提案で町にいくつかある広場で休むことにした。

「どうぞ」

 広場のベンチの腰を下ろすと、ヒロイーゼさんは黒っぽいパンに肉やら酸っぱい匂いのするキャベツやらを挟んだサンドイッチを差しだしてくる。

 毒が入っていないか、気になった。

 人を殺すようになると、殺されることにも自然と関心が向く。毒殺は定番だし、自分で取ってきたものか奪ってきたもの以外のものを口にするのは久しぶりだった。

 匂いを嗅いでみたが、わからない。

 口を付けずにいると、ドルヒが助け船を出してくれた。

『相棒、毒など入ってはおらん。安心して食え』

「なんでわかるの? それも君の力?」

『無論だ。人体に害のある物質は大体感知できる』

 僕がためらいがちにかぶりついたサンドイッチは、これまで食べたどんなサンドイッチよりおいしかった。

 お腹が膨れると、お互いにとりとめもないことを話す。プライベートなことには踏み込まず、お店でこんなことがあったとか、困るお客や親切なお客のこと、サンドイッチを作る際のコツなど。

 会って数日の異性にこれだけ話が続くヒロイーゼさんは確かにやり手だろう。そして、 僕は彼女に復讐の手助けをしてもらったというのに、こんなにも穏やかな気持ちで話せている。

「私の豹変ぶりが怖い、って思ってますね?」

 まただ。またヒロイーゼさんに心の内を見透かされた。

 唐突もなくこういう風に確信に踏み込んでくるので、油断できない。

 だけどヒロイーゼさんは店の人たちと話していた時と同じように微笑みながら言った。

「怖いのも私、穏やかなのも私。そんなに気にしないで大丈夫です。二人でいる時は楽しく疲れない方がいいでしょう? あなたは根詰めて生きすぎなんですよ。強い目的があるのはわかりますけど、人生楽しいこともあります。たまにはぱーっと遊ばないと損ですよ」

 正論だ。それは理解できる。

 復讐に成功しても残るのは虚しさだけともいう。

 だけど、僕をあんな目に合わせた連中が大手を振って生きていることが許せない。

 生きたまま喰われかけたこと、一番無力な人間として平然といけにえに捧げられたこと、そして何より、僕を見殺しにした人間たちのあの目。

 心で思い浮かべるだけで、暖かな日が差すこの時でさえ怒りと恨みと悔しさがないまぜになった感情がわき上がってくる。

 人生楽しむ? 楽しめるわけがないだろう。楽しいのは奴らの死に顔を見るときだけだ。

「それにしてもあなた見た目によらず力もちですね」

 ヒロイーゼさんの声で妄想から現実に引き戻される。

 カルトマヘンでレベルが上がっている僕には軽いものだったけど、さすがに違和感があったか。これからは気をつけよう。

「それと、お名前は?まだ聞いていませんでした」

「ムラ。ただのムラ」

 僕はあらかじめ用意してあった、本名の村上からとった偽名を使った。あまり違いすぎると反応できない恐れがある。

「わかりました。『今の』あなたはムラですね」

 偽名だと気づいているようだけど、まあいいか。酒場での依頼を受ける場合にはよくあることだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ