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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

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狂ったか

『何を呆けておる! 目の前の敵の詠唱に気が付かぬなど怠慢にもほどがあるぞ!』

 ドルヒが珍しく焦ったような、心配しているような声で叫んだ。

 ああ、僕にもまだ心配してくれる存在がいたんだな。

 それだけでこんな時だというのに心が温かくなる。

『何を笑っておる、相棒?』

「おかしくなりかけたからかな…… それと心配してくれてありがとう、ドルヒ」

『ば、馬鹿を申すでない! 契約者に死なれると困るだけじゃ!』

 本当に焦ってるんだろうな。言葉遣いが少しだけ変だ。

「そういうことにしておくよ」

 一人だとパニックになりやすい。何もかも自分で決めて、自分で責任を取らないといけないから。 でも誰かがそばにいてくれるだけでこんなにも落ち着くのか。

「もう大丈夫」

 僕はしっかりと地面を踏みしめて立ち、軽く深呼吸をして気持ちを落ち着けた。ドルヒを握る手の感覚もしっかりと意識できている。

「とりあえず、あの二人の移動スピードに差があるのを利用しよう」

 佐伯が棒の先端を僕の方に向けてくる。

「シュプレン……」

 詠唱より一瞬早く身をかわし、二人から距離をとるように見せかける。

「は、逃がすかよ。シュトゥルム(strum)」

 日原が指輪をかざして、さっきとは別の詠唱をする。今度は一直線に切れるのではなく僕を中心として周囲が乱切状に切り裂かれ、地面に、葉に裂傷が走る。余波で僕の足も切り裂かれて脛から血が出た。

「く……」

「はっはっは! すぐには殺さねえ! たっぷりといたぶってやるぜ」

 日原は哄笑した。

 だけど今の一撃を放った隙に、佐伯はかなり日原との距離を開けていた。

 今だ! 

 僕は二人から逃げる振りをやめて佐伯に真っ直ぐ突っ込んでいく。

 佐伯は走って追っていた僕が急に動きを変えたのですぐには対応できていない。

 だが今度は攻撃せずに、佐伯の周りを回るように走った。

 逃がさないように、かといって攻撃を喰らわないように距離を保つ。時にフェイント気味に攻撃を仕掛ける。

 無理に攻撃をしなければ、スピードは僕の方が上なのだから佐伯が僕から逃げることはできない。

「佐伯、なにやってんだ! もっと離れねえと俺が攻撃できねえだろうが!」

「そうは言うけどよ、こいつネズミみてえにちょこまかついてきやがって引き離せねえんだよ」

 日原はクラフトを使うが、僕と佐伯が接近しているためか大きな攻撃ができていない。不可視の刃なのは佐伯にとっても同じなので、佐伯も避けることが難しいようだ。

 これでお互いの攻撃は封じた。佐伯と日原は焦ったようにまごついている。この距離では有効な攻撃手段がないようだ。後は相手のスタミナ切れや魔力切れを待って攻勢を仕掛けるだけだ。

「シュプレンゲン!」

「シュトゥルム!」

 だが突如、二人が誰もいない頭上に向けてクラフトを使った。

 僕は行動の意図が読めず、わずかな時間呆然とする。

 でも頭上から突然突風が吹きつけたかと思うと、僕の頭が、肩が切り裂かれた。髪の毛がぬめりのある血でべったり濡れてはりつき、肩の腱がいくつか切られたのか腕に力が入りづらくなる。

 僕はそれに加えた痛みでドルヒを取り落としそうになったが、必死に指に力を込めることでそれは阻止できた。

「今のは……?」

『相棒、あ奴らが双子の悪魔だと言ったのを忘れたか。コンビネーションは抜群であるぞ。シュプレンゲンで空気を破裂させ、その破裂した空気に刃を乗せたのであろうな。あ奴ら、思ったより早くクラフトの使い方を覚えている。元々二人の仲が良いのであろう』

「「ざまあ」」

 二人はハイタッチしながら僕を見下していた。むかつく笑い声だった。苛々する台詞だった。嬲り殺しにしてやりたい顔だった。

 バカにしてくれたおかげで、僕の中に逆に闘志がわき上がった。

 これくらいでへこたれてたまるか。

「なんとかして、突破口を見つけないと……」

 僕は血を拭いながら、あることを思い出した。

「あ……」

『どうしたのだ、相棒?』

「ははは!」

 僕はおかしくなって笑い出した。どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったんだろう。

 僕はノーガードで佐伯の方に突っ込んでいった。もちろん笑い声は止めていない。

『狂ったか、相棒!』

 ドルヒも僕の狙いに気がついていないみたいだ。

 大丈夫、ドルヒですら騙せているのならこの作戦は必ず成功する。

 佐伯が僕に棒の先端を向け、日原が後ろから僕を狙ってくる。

『相棒、何か作戦があるのはわかったがせめて避けろ!』

 だが僕はドルヒの言うことを無視した。

 大丈夫、この作戦なら避ける必要なんてない。

 致命傷さえ負わなければいいんだ。

「シュトゥルム!」

 日原の風の刃で腕や足にいくつも裂傷ができて、血が流れる。

「潔いじゃねえか。せめて、ひと思いに殺してやるよ」

 佐伯の棒の先端がまっすぐ僕の心臓を捉えている。

 僕は佐伯の口元だけを見た。

 距離がぐんぐんと縮まっていく。佐伯の唇が動いた瞬間、わずかに体を左に傾けた。

「シュプレンゲン!」

 僕は体が内部から破裂するのを感じた。


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