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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

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22/118

迷い

 佐伯が樫の棒の先端を僕に向けて、唇を動かした。

詠唱が終わる前に僕は咄嗟に別の木の枝に飛び移る。

「シュプレンゲン!」

 僕がいた空間から弾けるような音がすると同時に、周囲の下草や土がなぎ倒される。

 対象がいなくなっても空間それ自体に干渉できるらしい。

厄介だな。これだと大きくかわさないと余波を食らうし、目の前で発動されたら目つぶしになる。

破裂させるだけのクラフトかと思っていたけれど意外と汎用性が高い。

僕は地面を蹴り、さらに忍者みたいに樹木の枝を横や斜めに蹴って空中をジグザグに跳びながら佐伯に接近する。

桜井を殺したことでかなりレベルが上がったらしく周囲の景色がぼやけ、風圧で目が痛いほどで、生身で新幹線に乗っているような錯覚すら起きる。

目に意識を集中していなければすぐに自分がどこにいるのかわからなくなりそうだ。

だけど佐伯もかなりのレベルらしく、僕が近づこうとしてもフットワークとジャンプで距離を開けられる。

僕が動き回っている以上佐伯も簡単に狙いを定められず、樹木や地面、空間がなぎ倒され、傷ついていくだけだがこちらも攻撃できない。

というか、多少は攻撃の余波が当たる佐伯と違って僕は触れもしないのでだんだんと焦ってきた。

あちらも侮っていた僕に対してなかなか攻撃が当たらないのでイライラしているらしいが、人をいたぶり慣れているのかまだまだ余裕が感じられる。

「くそ……」

ミドルレンジからの攻撃を考えて手近な石ころを拾って投げつけてみたが、明後日の方向に飛んで行ってしまった。

「はは、馬鹿かお前?」

 佐伯の言葉が癇に障るが、事実なので仕方がない。もともとスポーツ、特に球技は大の苦手なのだ。

 かといってドルヒを投げるわけにはいかない。村人みたいに低レベルじゃないのだ。

 そして悪い時には悪いことが重なるらしい。

いきなり遠くの木が地響きを立てて倒れた。あんな場所に才気はシュプレンゲンを使ってはいないし、シュプレンゲンと違って根元のあたりがチェーンソーで切断されたように綺麗な断面になっている。

 次々と木が倒れ、さらに倒れる木がすごい速さで僕の方に近付いてくる。

 まずい。

 直観的に僕は今までいた空間から飛びのいた。飛びのいた瞬間、靴底が皮一枚の厚さだけ切断されヒラヒラと地面に落ちた。

「おい、村上のクズが」

「日原!」

 佐伯は日原の登場に表情を明るくする。明るくするといっても腐ったミカンのような明るさだが。

「助かったぜ!」

「いや、見失ったかと思ったけどこっちのほうで派手な音がしやがったからよ」

「ならもっと早く助けに来いってんだ」

「そうは言うけどよ、森のなかって意外と音が反響するもんだぜ? 位置がよくわからなくてよ、あっちこっち探し回る羽目になっちまった。詳しい事情はよく分からねえけどよ」

 日原は右手の中指にはめた指輪を見せびらかすように掲げて、呟いた。

「村上を殺すってことでいいんだよな?」

 佐伯は獰猛に唇をゆがませて頷いた。そのやり取りの少なさだけで二人の息が合っていることが見て取れる。

『相棒。相棒の今のレベルでは二人同時に相手するのはきつい。一度退くことをお勧めするが』

 二人を相手にして、判断を迷っている僕にドルヒがそう言ってくるが僕は首を横に振った。

「いや、駄目だ。ここで引いたら剱田たちに報告が行く。そうなったら終わりだ」

『だが今死んでは元も子もあるまい』

 戦うか、逃げるか。決断できない。

 戦えばまず負けるし、逃げればクラスメイト全員が僕を襲おうとするだろう。

 どうする? 場所を変えて仕切りなおすか?

 それとも時間が経ってから闇討ちでも仕掛けるか?

 迷っている僕の目の前で、木から落ちてきた葉っぱが真っ二つに裂けた。

 反射的に、体を後ろに大きく折り曲げる。ほとんど立って海老反りになっているような態勢。

 髪が数本散った。


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