殺し方
「そういえば、ドルヒ。帰る方法はないの?」
桜井を殺して大分晴れやかな気分になると、ふと思い出した。こういう転生ものではお約束なので、一応聞いてみる。
『呼び寄せたのは悪魔の力と言っただろう。つまり悪魔を全員殺す必要があるが、相棒は吾輩と契約している以上我吾輩は殺せん。よって相棒が帰る方法はない』
「そう」
『ショックではないのか?』
僕の返答が意外だったかのようにドルヒが聞き返す。
「あいつらに復讐するのが大事。復讐が叶うならこの世がどうなろうが、僕がどうなろうが知ったことじゃない。むしろこの世界の方が法律も警察もザルだから殺しやすくていいかもしれないし」
ドルヒはの鳴るような声で笑い出した。
『その意気だ、その精神だ、相棒。さすがは我が契約者よ。それよりも次の復讐対象だ』
その言葉に僕は気を引き締めた。
『相棒はこれまでクラスメイトを一人殺した。あ奴らもバカではない。クラスメイトの一人がいなくなったことに気がつくはずだ』
「警戒されたら厄介だね」
辺りを見回すと町からそう遠くない位置に突如出現した広大な泥沼。ここで桜井が大規模な戦闘を行なったことが一目瞭然になってしまっている。
「ここからはスピーディーにいく必要があるね」
『そうだ。手を打たれてからでは遅い。相棒のレベルではまだあ奴ら複数人を相手に無双できるほどではない。分断して殺せ』
「了解。となると、誰が殺しやすいかな?」
『シュプレンゲン(sprengen)とヴィント(wind)だな』
シュプレンゲンとヴィント……
『相棒が佐伯と日原と呼んでいた者たちだ』
あいつらか…… こっちの世界に来る前、いつも二人でつるんでた。
僕はこぶしを固く握りしめる。
あいつらの顔を思い浮かべると、自然と殺意と力がみなぎってくる。
『凶暴性や強さはフェルゼンほどではないが元々双子の悪魔だからな、それにふさわしい人間と契約している』
『二人同時に戦うのは不利だ。吾輩は各個撃破をお勧めする。まず、どちらからやるか?』
「先に会った方でいいと思う。そんなに贅沢言っていられる状況でもなさそうだし……
それに今度からは殺気を消すのはやめて不意うちで行くよ」
『それは何故だ、相棒。有効な手段であることは村長を殺した時に実感したはずだ。不意うちを悪いとは言わぬが、殺気を消して近付くのも手の一つとして考えておくべきである』
僕は首を横に振って、申し訳なさでいっぱいになりながらドルヒに謝った。
「色々教えてくれたのに、ごめん。でもあいつら相手に笑顔でいるなんて無理だって気づいたんだ。桜井を相手にした時、心の奥底からドロドロした感情が泉のように湧きだしてくるのが止められなかった。今も、あいつらの顔を考えているだけでも殺意がわきだしてくる」
『そうか』
ドルヒは咎めるでも怒るでもなく、淡々と言った。




