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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

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しっぺ返し

イエナの村から二日ほど歩くと、次の町が見えてきた。今までの村と違って町が三メートルほどの城壁に囲まれている。テレビで見た日本の城の城壁と比べると随分低く感じるけど、町全体をすっぽりと覆う城壁は間近で見ると圧巻の一言だ。

 まあ剱田あたりがキレたら壊してしまうだろうけど。

「これがミュンヘンか……」

 剱田たちはこの町にいるらしい。軽装の鎧をつけた少年と気弱そうな少年がいる六人組の集団がこの町に入ったと街道で情報を聞きつけたからほぼ間違いないだろう。

 やっと復讐の機会が巡ってきた。顔がにやけるのが止められない。

『相棒。慢心は禁物だぞ。村人、盗賊、ヴィルマという女を狩ったことで相当レベルアップしているがデーゲンやフェルゼンには及ばぬし、それ以外も二人以上で来られると無理だ。まずは一人になる機会をうかがえ』

 一人になる機会か……

 清美、日原、佐伯、桜井。一人になりそうな奴といえばあいつしかいないか。



 佐伯と日原は、ミュンヘンの町の酒場で昼間から酒を飲んで愚痴をこぼしていた。

 酒場に妙な少年二人組がこのごろ入り浸っているという情報を聞いたので、僕は盗賊から奪った服とフードで顔と体型を隠して酒場に張りこんでいる。

 近頃剱田や岩崎の気性がやたらに荒くなってきたので、そのとばっちりが彼らに行っているようだ。今日も剱田の新技に付き合わされて半殺しにされ、清美にハイレンで治療されていた。

 その鬱憤晴らしに桜井を使っているようだ。

「あー、今日もやられたぜ……」

 佐伯がハイレンで治療された箇所をさすりながらぼやいている。

「あの役立たずが生きてたら良かったんだけどな。間違いなくあの役立たずが実験動物だったわ」

 日原が口元を歪ませて嗜虐的な笑みを浮かべる。

「桜井はいいわ。クラフト持ってるから反撃されたらどうしようかと思ってたが、冗談かってくらい気がよええわ。おかげで少しビビらせたらあとはこっちのお人形だ」

 彼らは今日も、傷が目立たないように桜井の腹を殴ってストレス解消していた。

 何日かいたぶり続けると、後遺症が残らない程度の力加減が分かってくるらしい。初日は桜井が吐血したのでハイレンの治療を頼っていたが、清美に怪しまれたのでそれ以来は痣が残る程度に加減しているそうだ。

 僕がいなくなったら次は桜井か。あいつら、どこまで歪んでるんだ。

『同情するか、相棒』

「同情はする。でも殺意は変わらない。桜井が僕にしたことを忘れない」

 僕は小声でドルヒに返事をした。あいつの顔を思い出した途端、激情に駆られる。

 殺したい。

 殺したい。

 殺したい。

「次に行こう」



「くそ、くそ、くそっ!」

 桜井は城外の林で、ウサギを蹴りつけていた。

 日が西に落ちかかっており、空は既に茜色から群青色へと染まりつつある。

 口から血を吐き、か細い鳴き声をあげても蹴り続けている。逃げようとしてもレ―ムでウサギの逃げ道に泥沼を作って逃げられないようにしている。

「なんで僕がこんな目に合うんだ!コカトリスを一時的に足止めしたのは僕のクラフトじゃないか、あの恩知らずたち!」

 脚を折ったのかウサギの前脚が変な方向に曲がり、立つこともできなくなっている。それでも蹴り続けた。

「村上君がいなくなったら、こんな目に…… そうだ、村上君がいけないんだ。彼が餌にされるような人間だったから代わりに僕がこんな目に合ったんだ」

 やがてウサギが微動だにしなくなる。ウサギの遺骸を桜井はレ―ムを使って沈めた。

「ちくしょう、ちくしょう……」

 桜井はぜえぜえと肩で息をしているが、さっきよりだいぶすっきりした顔をしている。やり遂げた感が溢れる表情だ。

『相棒……』

「みなまで言わないで、ドルヒ」

『あいつは悪魔以上のクズだな。何の罪もない小動物にあたり散らし、殺し、挙句の果てにはクラフトで証拠隠滅とは』

 ドルヒが怒っている感じだったので、僕は違和感を覚えた。

「ヴィルマを殺すのを勧めたのに、ウサギは駄目なの?」

『吾輩の力を忘れたか? 吾輩は人間を殺すことに特化しておる。嫌いなのは人間だけで、動物も植物も好きだ』

 むきになって言うドルヒがおかしくて、僕は思わず笑っていた。

「君はすごく人間らしいね。あ、人間らしいって言っても悪い意味じゃないよ」

『吾輩を人間などと同列に扱うな…… 相棒、さっさとやってしまえ。幸いあいつはこちらに気がついておらん。日も完全に沈み、危険な城外に出る人間もおらぬ。城門や城壁にいる見張りからも遠い。絶好のシチュエーションだ。不意打ちで殺す方が成功率が高まる、今回は大事を取っておくことを勧める』

「いや、今回は堂々と殺すよ。桜井程度、真正面からたたきつぶせないと剱田や岩崎を殺せるかわからない」

『なるほど、ザコは練習台として有効活用すると言うわけか。さすがだな、相棒』

 ドルヒにほめてもらえて嬉しくなる。

 まともな会話相手がもうこの短剣しかいなくなったからだろうか、ドルヒの台詞が心にすっと入ってくるようになった感じがする。

『だが、レ―ム…… いや相棒の呼び方では桜井か。奴は相棒と似たような境遇ではないか? 刃が鈍らぬか?』

「冗談はよしてよ、ドルヒ」

 久しぶりにカチンと来た。

「あいつの死に顔を想像するのが止められないよ」

『よくぞ言った。あのような糞は念入りに殺しておくに限る』


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