因果応報3(ドルヒ編終わり)
マンハンティング、異世界でクラスメイトに復讐する~はいったんこれで終了となります。読んでくださった皆様、誠にありがとうございました。
ほかの作品の投稿は行っているので、気が向けばそちらも読んでくださると幸いです。
読後はすっきりしませんが、実は神に反逆する、という展開も考えています。気が向けばまた再開するかもしれませんし、同じ復讐というテーマで「マンハンティング2」を書こうかとも考えています。
復讐は終わったけど、エデルトルートはお腹からの出血が止まらなかった。
なぎなたの一撃を喰らう直前に突き飛ばしたから腹腔動脈や肝動脈といった大血管は避けられたらしいけど、止血が遅かったのが致命的だったらしい。
「エデルトルート、死ぬな、あいつごときに吾輩の知り合いが殺されたとなっては夢見が悪いではないか!」
いつも他人に対して冷淡か、残虐なドルヒでさえも顔を青くしてエデルトルートの左手を必死に握っている。
「お別れの時間です、ムラさん。せめて、ムラさんが、とどめを刺してください、経験値になってお別れしたいです」
僕の手を握る彼女の右手から、どんどんと力が抜けていく。
駄目なのか。
僕は結局、また大切なものを奪われるのか。
神でもいい、悪魔でもいい。もしエデルトルートを助けられる存在がいるのなら。
彼女を、助けて。
「わかったー」
突然、場に不釣り合いな底抜けに明るい声が聞こえた。
「死ななくていーよー『ハイレン』、っと」
突如現れた背中に黒い羽根を生やした少女が手を一振りするとエデルトルートの傷がたちまちのうちにふさがった。
血色も戻り、生気に満ちた目を開ける。
完全に元通りだ。
一方エデルトルートの傷を治したその女の子は、映像の中でしか見たことのない美少女だった。
同時に、これまでに感じたことのない邪悪さを感じる。なんというか、子供が羽虫の羽を千切って遊ぶような、そんな純真な邪悪さ。
「貴様…… いまさら何しに来た?」
ドルヒが警戒心をあらわにしている。これほどの反応はさっきまでのなぎなた女のときにもしていなかった。
ドルヒは彼女を知っているのか。
「何しに来た、とはご挨拶だなー。私を呼ぶ声が聞こえたから力を貸してあげたんだよ。それにせっかく復讐が完了したから、神様自らお祝いの言葉を述べに来てあげたのに」
「……頼んでおらぬ」
「つれない態度―。でもそんなところも神様、大好きだぞっ」
なんなんだ、この存在は?
ドルヒと険悪な感じだけど彼女のほうはドルヒの敵意を涼しい顔で受け流している。それに全身から漂うオーラが違う。
今まで戦ったどの相手とも比べ物にならない。いや、同じ土俵に立ってすらいない。
そう感じるほどの、断崖絶壁に隔てられているような差があった。
「私は、神様だぞっ」
自称神様はアイドルがやるように、肘を高く掲げて顔の横で折るピースを決めた。
「神様…… ということは、このクラフトとかいう力も、この世界に呼び寄せたのも、あなたのやったことか」
「そうだ、相棒。しかし神よ、しばらく見ないうちに随分と芸が達者になったな」
「君たちの世界を見て、色々と勉強したんだぞー。神様にだってお勉強はだ・い・じ」
気持ち悪い。しぐさと言うより、内面とポーズがあまりに一致してない。
その気になれば、いや気分しだいで僕たちをなぎなた女と同じ目に合わせるはずなのにぶりっこの真似をしているのが気色悪い。
「とりあえず、みなもちゃん」
「……吾輩をその名で呼ぶな!」
「じゃあ、ドルヒちゃん。ちょーっと態度が悪くないかなー? 私がいなければあなたは今頃男たちの慰み者だったんだよ?」
ドルヒが黙りこくってしまった。何の話だ? 自称神様の冗談かと思ったが、ドルヒの様子から見るにそうではないようだ。
「……その点に関しては、感謝している」
ドルヒが血に染まった拳を握りしめて、渋々と言った感じで首肯した。
「うんうん、人間素直が一番だぞー。そうしてめでたくあなたの心からの望みがかなったわけだ。おめでとー。どんどん! ぱふぱふ~。ってわけで、私に対していうことはないのかな~?」
「大変、心の底より、感謝申し上げる」
「それならよし。では褒美を与えよ―」
自称神様の全身に膨大な力が集まっていくのを感じる。
天を揺さぶり、地を震わせ、人を畏れさせる桁違いの迫力を感じた。彼女が神様と名乗るのもハッタリではないようだ。
ご褒美というと、元の世界に帰してくれるというやつだろうか?
『そんな甘いわけないでしょー? 君にあんな力を与えるような存在なんだよ、私?』
僕の思考を読み取ったかのように頭に彼女の声が響いてくる。ドルヒの方を見るが聞こえていない様子だ。
じゃあ、何をする気だ?
この状況で、僕たちが一番嫌で、困ることか?
まさか!
「もう、遅いよー。すでに私のターン、ってやつー」
僕の腕の中で、何かはじけたような音がする。
同時にバラバラになった肉のかけらと、ちぎれ飛んだプラチナブロンドの髪。そしてエ
デルトルートがいつも握って離さなかったオ―ブの欠片がバラバラと振ってきた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
声にならない、声になったかもわからない悲鳴が僕の口の中から聞こえた。
最後に、黒い羽の生えた女の声がおかしくなった頭でもはっきりとわかるように聞こえ
た。
「私は神でも、悪魔でもあるんだー。それに因果応報、って知ってるよね?」




