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『マン・ハンティング~異世界でクラスメイトへ復讐する』  作者:
無力編

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悪党から殺せ

嫌な思い出しかない村を早々と出て、ダッシュで後にする。

 風を切るように走れるので、あっという間に村も村の煙も見えなくなった。

「ああ、そういえばあの村の名前まだ聞いてなかったな」

 そんなことを思い出すけどいまさらどうでもいいか。どんな名前でも不愉快になることだけは間違いなさそうだ。

 それよりもまずはクラスメイト達の所在だ。隣にイエナという村があるそうだからそこに行ってみよう。

 情報収集だけはしておいてよかったといまさらながらに思った。

 そのまま道なりに歩いていく。疲労が回復したところで猛ダッシュで駆けようとしたが、大事なことを忘れていた。

「ドルヒ、剱田たちの中に索敵スキル持ちはいないかな?」

『吾輩の知る中ではおらんな。ゆえに情報と目視によるだけが頼りだ』

 それを聞いて安心した。先に発見されなければ不意を打って殺すという選択肢がとれる。

注意深く観察するためにもここからは歩いて進むべきだろう。

 歩いて適度な運動をすると頭が冴える。

 おかげで殺し方を色々と想像して楽しめるので、退屈なはずの道中も苦にならなかった。 

「はやく剱田たちに追いつけないかな」

『お楽しみ中のところ悪いがな、相棒』

 僕に水を差すかのようにドルヒが忠告してきた。

『相棒の今のレベルではクラスメイトで一番弱い桜井にすら勝てんぞ。あっさりと返り討ちにあうのがオチだ』

「なんで? なんで勝てないの?」

 僕は語調も荒くドルヒに詰め寄る。だがドルヒはあくまで冷淡に、事実のみを告げる。

『相棒が弱くあいつらが強いからだ』

「……ドルヒも役に立たないな。あいつら殺せないんじゃ意味ないじゃないか」

 僕は鞘に収まったドルヒを睨みつけながら言い捨てた。

『バカ者! 今のレベル、と言ったであろう。吾輩の使用をためらってスタートが遅れた相棒の責任でもあるのだぞ』

 ドルヒが強く言ってくれたので、かえって頭が冷えた。

 そうだよね。人のせいばかりにしたってしょうがない。

「ごめん。じゃあどうすれば殺せる?」

『二度と吾輩を役立たずなどと言うなよ、相棒。それにやることは単純だ』

「レベリング、か」

『その通りだ。吾輩の能力はそれしかないからな。だが大船に乗ったつもりで任せておけ』



 さらに道行くと、向かい側から経験値が歩いてきた。

 僕と同じような粗末な服に前掛けを着ている。

 僕の姿を認めると軽く会釈してきた。善良そうな笑顔だった。

 よし、殺そう。

 自然とそんな考えしか浮かんでこなくなった自分をどこかでもう一人の自分が驚いている気がする。だがそんなことは知ったことじゃない、とにかく早くレベリングすることだ。

 だがそんな僕の大志を止める存在がいた。

『やめておけ』

「なんで? なんで止めるの、ドルヒ」

 せっかく強くなれる機会を棒に振らせる気か。

「こんな場所で殺せば足がつくだろう。それに目立つ。お前のクラスメイトの耳に入ったり、官憲に目をつけられればお前の目的に支障が出る」

「そうだね。経験値を稼いでレベルアップすることしか考えていなかった。これからは気をつけるよ、ドルヒ」

 ドルヒは知恵があって思慮深い。僕一人ではたとえ経験値を得られたとしても復讐はおぼつかなかっただろう。

「ありがとう。それで、ドルヒお薦めの殺し方ってある?」

『無論だ。なるべくなら悪党から殺すのがよい』

 驚く。この短剣にも道徳やら倫理やらといったものが残っていたのだろうか。

『悪党なら殺しても恨みを買いにくい。親族からもうとまれているものも珍しくない。官憲からも遺族からも目をつけられにくいうえに相棒は経験値を稼ぎ放題だ。ウインウインの関係だろう』

「なるほど、そういうことか。さすがドルヒ、年の功だね」

『吾輩はこう見ても女だぞ。その言い方はやめんか、相棒』

 ドルヒが初めて拗ねたような声を出したので僕は驚いたけど、この短剣なりのジョークだろうと思って聞き流した。

「あの~、大丈夫ですかね、旅の人?」

 そういえばドルヒの声は僕以外には聞こえなかったんだった。電波系って自分がなってみるとえらく恥ずかしいな……

「大丈夫です、御親切にどうも。それより、ここら一帯に悪党が固まっているような場所はありませんかね?」

『聞き方がストレートすぎるぞ、相棒』

 まだ焦りがあったようだ。ドルヒの声を聞いて、村人の怪訝な顔が目に入ったので咄嗟に付け加える。

「できるだけそう言うところには近づかないようにしたいので、聞いておきたいんですよ」

「そういうことでしたか。それなら……」

村人の情報によれば、丁度小規模な盗賊団がこの近くに本拠地を構えているとのこと。町からも遠いうえ人口の少ないこの地域では軍や官憲も本腰を入れてくれず困っているらしい。また、この近くのイエナという村の村長はシュティラ―さんというらしく、娘が朝近くの森へ山菜摘みに出かけたきり昼になっても戻って来ないらしく心配しているそうだ。

盗賊団にさらわれたのかな?

まあどうでもいいか。復讐には関係なさそうだ。

ちょうどいい、退治してきますと言おうとするとドルヒに止められた。

『バカ正直すぎるぞ、相棒。貴様の年齢で盗賊団を壊滅させたとなっては目立ちすぎる』

「でも旅をするお金がないよ?」

 賞金首もかけられているらしいから、名乗り出ないと賞金がもらえない。気周をかけることを考えれば長期戦になる可能性が高いし、そうなると食料や宿を取るための金がいるだろう。略奪を繰り返して官憲に目をつけられるのは避けたい。

『頭を使え、盗賊が貯め込んだ金を有り難く頂戴すればいいだろうが。賞金首分の金をそこから頂けば賞金をもらうのと変わらん。そうすれば上の人間が損をすることもない』

「どうかしたんですか?」

 ぶつぶつと話し始めた僕を村人が怪訝な顔で見ていた。ドルヒの声は他の人には聞こえないんだったな、気をつけないと。

「いえ、独り言です。それじゃ僕はもういきます」

 気を付けなよー、と村人は手を振りながら見送ってくれた。


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