私を殺してください
「来たぞ」
ドルヒが緊張をにじませて呟く。
探知持ちでない僕にもわかる。この凄まじいほどのプレッシャー。間違いなく今までで一番の強敵だ。
「みなさん……」
エデルトルートはすでに脚がガタガタと震えている。僕たちの中でレベルが一番低い。やりあえば即死だろう。
「エデルトルート、お主はよくやった。逃げろ。霧も解除していい。能力を常に展開していると居場所がばれる危険があるからな」
ドルヒが恐怖をあらわにした小さな少女に告げる。
「そんな! 私も戦います! 悪魔化すれば私だって……」
だがドルヒは首を振った。
「はるかは別格だ。お前では即死だろう。死んでほしくない」
エデルトルートがドルヒの言葉を聞いて儚げに笑った。
「なにがおかしい?」
「いえ…… ドルヒさんの口から死んでほしくない、なんて言葉が出るなんて意外で」
「そ、それは死んでほしくないに決まっておろう。お主の力は有能だからな、うむ。それ以外の理由なぞない」
「そういうことにしておきます。でもドルヒさん、ムラさん。万一の時は私を殺してレベルアップしてください」
エデルトルートが恐ろしいことを平然と言い切る。
無理している様子はない。むしろそうするのが当然と言う感じだ。
「戦いでお役に立てないなら、私にできることはこれくらいしかありません。ムラさんのお役にたてることが私の全てです」
だがドルヒは笑って、こう言った。
「バカなことを言うものでない。貴様の経験値ごときなくとも、はるか…… 吾輩の復讐相手を殺してみせる」
「それに貴様程度のレベルでは殺してももう意味がない、無駄死にするだけだ。貴様が千人もいれば別だがな」
「そうですか…… では私は近くに隠れています。御武運を」
エデルトルートは近くの森にまぎれ、見えなくなった。徐々に霧も晴れていく。
その後姿を見届けて、ドルヒが自嘲気味につぶやいた。
「吾輩も、甘くなったな」
「別に、これからはるかとか言うのを殺すのに支障が無ければいいんじゃない?」
吉と出るか凶と出るか。それは誰にもわからないけど、結局は復讐が果たせればいい。それ以外のことなんて取るに足りないことだ。
友情も、愛情も、恩も、仲間も。
「お前らじゃん? しぐれやきりえを殺したのは?」
霧の中から、やや低い声がした。
「来たか」
ドルヒが構えを取った。真っ黒いドレスタイプのワンピースの裾が軽く揺れる。




