三人目
久しぶりの更新です。
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それぞれMF文庫J一次選考、HJ文庫二次選考、まで通過しました。
「隣国の軍が進んできた?」
客の入りもすっかり戻った店で、ヒロイーゼさんが困ったように言った。
「そうなのよ、以前敗走してきたこの国の軍がいたでしょう? それ以降は動きが無かったんだけど、ふたたび活動し始めたらしいわ。今度こそ、この国の首都を狙ってくるはず」
「戦争、怖いです」
エデルトルートが自分の体を抱きかかえ、身を震わせた。
まあ飲食店は戦争が起こっても売り上げが激増するようなものじゃないし、この店は兵隊相手って言う感じでもないしな。
それに敵国の兵隊が駐留してくれば真っ先にこのお店の女性は慰み者だろう。
ヒロイーゼさんやエデルトルートがそんな目に遭うのを考えると、怒りがこみ上げて来た。
「ど、どうしたの?」
ウエイトレスさんの一人が怯えたような目で僕を見ていた。気がつくと、僕の手の中に遭ったコップがばらばらに砕けている。
今の僕のレベルだと砂粒ほどの痛みもゴム風船のような抵抗もないから、握りつぶしたことに気がつかなかった。
「ヒロイーゼ殿。隣国の軍はどこまで進んできている?」
ガラス窓を拭いていたドルヒが、ヒロイーゼさんに声をかけた。ドルヒが窓を拭くのは、彼女の容姿が通りからでも見えることで店の宣伝になるかららしい。
さらにドルヒは高い位置の窓ガラスを拭くために、椅子に立っている。スカートはロングなので通りを歩く人に下からのぞかれることはないが、女の子が爪先立ちになって一生懸命高いところを拭いているというのは庇護欲を誘う。
「そうね。ここから歩いて一週間くらいの位置らしいけれど。一気に首都を目指すか、先にこのミュンヘンの町を落として拠点に使うかはわからないわ。もしこの町に向かってくるようなら、逃げられるように馬車の手配や荷物をある程度まとめてあるけど」
「そうか。荷づくりには吾輩も協力しよう」
ドルヒはそう言った後、ぞうきんを絞ってくると言ってバックヤードへ引っ込んだ。僕も当然それに続く。
「奴だろうな」
ドルヒはバックヤードに僕を連れ込んだ開口一番、こう言った。
「はるかという名で、なぎなた部に所属していた。クラフトもそれに関連したものであろう」
でも数万という軍の中にいるので、どこにいるかはわからないらしい。
「どうする? 兵隊をレベルアップついでに殺しながら進む?」
僕たちの能力からすればそれが妥当だと思うけど、ドルヒは首を横に振った。
「いや。最後だからこそ万全を期したい。別のクラフト持ちが軍の中におらんともかぎらんからな」
「じゃあ、どうするの?」
「利用できるものはすべて利用するとしよう」
初めから全てを聞いていたように、エデルトルートがひょっこり顔を出した。