巨大機動兵器の世界 実戦編
近い。
今、俺は奴とほぼ同じ場所に居る。そう感じた。
だがいない。少なくともモニターには。
何処だ? この感じ............上?
「見つけた!」
長距離狙撃モードで両腕を構える。全身の小型スラスターをふかし、姿勢制御。最初の状態から見れば、機体を仰向けの姿勢にした俺は、そのままモニターに写る青い機影をターゲットカーソルに捉える。
距離はまぁまぁ離れている。どうやら俺のレーダーは立方的な察知は苦手らしい。まぁそれはともかく。
「今度こそ捕まえてやるぞ、ワド!」
両方のレバー上部のスイッチを、同時にカチリ。
モニターの両脇から突き出ていた機体の両腕から白いビームが二秒ほど照射され、画面が真っ白に染まる。
無音。なんの反応も無く、再び黒い宇宙を写すだけのモニター。
まさか、今の一撃で倒しちゃったか? まぁ不意討ちの攻撃に、今使える攻撃の中でもトップクラスの威力がある分を使ったからな......
どうすればいいとも分からず、その場に立ち尽くしたのはほんの数秒。
突然、ピコンという音がコックピット内に響き、一瞬の砂嵐の後、俺ではない人間の声がスピーカーを通して聞こえ始める。
『全く、良くないなぁ。君はさっきアンノウンの尾の一撃をコックピットに喰らって機能停止してた機体の子じゃないか。いきなり味方を撃つなんて、良くないよ? うん、良くない良くない良いはずない。それが例え『君』であっても、ね。礼儀はわきまえてほしいなぁ』
このおちゃらけた態度、間違いない。ワドだ。
クソ、やっぱさっきのは外したのか......
「――それじゃあ礼儀をわきまえて......捕まえに来たぞ、ワド」
..................
『あぁ、ごめん。通信のやり方分からないのかな? 僕が指示するからその通りにやったら僕と通信できるよ』
顔から火が出そうである。いや、もうそんなレベルじゃない。全身から火が吹き出そうである。
恥ずかしすぎて大道芸になるさま。そんな言葉は無い!
~しばらくお待ち下さい~
「――捕まえに来たぞ、ワド」
ドヤ。
『やぁトリプ、また会ったね。さっきの静かな時間の間にその台詞を言ってたのかな?』
「それだけは絶対ありえない」
アセアセ。
『ふーん、そっか。ならそれはそれでいいわけじゃないんだけど......』
いいわけじゃないのか。
『どうする? 続き、やる?』
「当たり前だ!」
左は連射モード、右は長距離狙撃モードで固定。
カメラが搭載されている頭部を稼働させ、俺の機体と恐らく同じの、カラーリングが青い機体を見つけると、再び姿勢制御。スラスターを全開で噴射して急接近しつつ、連射モードの左腕で狙いをつける。
『はぁ、相変わらず血の気が多いねぇ、君は。まぁそういうところも、僕は大好きなんだけれども!』
ワドも、逆さになっている機体を反転させ、こちらへ急接近。
当たれ!
そう念じつつ、左腕のビームを五連射する。
だが、ワドは機体を自分の体のように操り、俺が放ったビームをひらりひらりと避けては、全くスピードを減衰させずにこちらへ向かってきた。左腕にはビームの刃。
これだけ近距離になると、長距離狙撃モードは使えない。そう判断した俺は、右腕を近距離モードに変更。機体の半分ほどあるビームの刃を形成し、機体の中央で構えさせた。
バシイィン!!
「外した!」
『へぇ、結構上手に動かせるじゃないかぁ!』
互いの機体がすれ違うように激突し、それぞれ相手の一撃を刃で受け止めるようにし、そのまま慣性で飛行。
再び互いの機体の距離が空く。
「くそ、おぉぉ......!!」
体に掛かるGの負荷に耐えながら、機体を反転。全力でスラスターを噴かし、減速する。
このまま狙ってやる......!
左腕を長距離狙撃モードで固定。
『いやぁ楽しいねぇ! 生身で君とふれ合いながらの死もいいけど、こういう機械を通じた感じも、素晴らしい!』
大きく旋回して、スピードを落とさずにこちらへ向かうワドの機体を狙い......発射。
左腕から再び白いビームが放たれ、対象を貫かんと襲い掛かる。
だが、そのビームをワドはきりもみ回転で避け、お返しとばかりに両腕のビームを連射。
「気味が悪いんだよ、一々お前はァ......!」
まだ逃れられないGの負荷に耐えつつ、一気に両ふくらはぎのスラスターを噴かして上へ逃げる。そしてそのまま全身の小型スラスターで姿勢を制御し、再びワドの機体へ急接近。
『でもねぇ、この世界では僕も自発的に動けないからさぁ。生身で君と戦うのって無理なんだよねぇ!』
「そいつは良いことを聞いたよ!」
再び接触する二機。今度はすれ違わず、ガッシリと互いに近距離モードのビーム刃を展開し、鍔迫り合いとなる。
激しい火花が散り、ワドの機体の頭部がモニター越しに良く見えるようになった。
二機はまるで人間のように睨み合う。
『どうやらさ、宇宙に生息する未確認の生命体、アンノウンを撃破する以外で僕たちは生きてちゃいけないらしいだ。それ以外の行動は禁じられていて、自分の命を存続させるために必要なことしかできない。自殺すらできないんだよ?』
「へぇ、それは素晴らしいな! 今ここでお前を殺さず捕まえれば、お前は今度こそ死ねないんだろ? なら、俺にとってそれはお前から真実を聞き出すために使える都合のいい設定になる!」
左腕のビーム刃を展開。
右腕でワドの機体の左腕のビーム刃を封じている間に、右腕を切り落としてやる。
『ハッハッハ――!! でも、君と戦えば僕は死を感じることができる! この緊張感がっ、僕は大好きなんだぁ――!!』
しかし、ワドは右腕のマニピュレーターを稼働させると、今まさに斬りかかろうとしていた俺の機体の左腕を受け止めた。そのままがっしりと掴む。
「お前は随分と好きなものが多いんだな!」
身動きを封じられた俺は、背部スラスターを噴かして前進する。
『ん? どういうつもりなのかな?』
俺の行動を訝しんだのか、ワドは不思議そうな声を出した。
「こういうつもりだ!」
『なっ!?』
ワドの機体後方にあった、比較的巨大な岩に機体を衝突させ、衝撃でワドの機体の右腕を強制的に離れさせる。
その際の衝撃がこちらの機体にも伝わり、コックピット内が弾けたように揺らいだ。
「よし、貰った!」
それでも一瞬の隙を逃さず、左腕のビーム刃でワドの機体の右腕を切り落とす。
そのまま、未だ鍔迫り合いをしている左腕も切り落とそうと、ビーム刃を近付ける。
しかし、ワドは機体左足を持ち上げると、
『それ以上はやらせないよ!!』
俺の機体の腹部を思いっきり蹴り飛ばした。一気に加速し、俺の機体は後方へ吹っ飛ぶ。
再びの強い衝撃に、一瞬意識を奪われかけながらも、なんとかスラスターを噴かせて減速。
『今度は僕の番だね! 行くよぉ!!』
「あ、ぐ......マズイ!」
急速に接近するワドの機体を見て、回避を断念。
直ぐ様右腕のビーム刃と左腕のビーム刃をクロスするようにして、簡易的な防御の姿勢を取る。
だが、運の悪いことに、伸ばされたビーム刃は通常時の半分程度の長さだった。
それと同時に、赤色に染まるコックピット。
「このタイミングでエネルギー切れ!? ヤバイ!」
『エネルギー残量くらいちゃんと確認しなきゃ駄目だよぉ!!』
隻腕にビーム刃を生やしたワドの機体が目前まで近付き、俺の機体の左腕を思いっきり斬り飛ばす。
『ハッハッハッハ――!!』
「早く、回復をぉ......!」
再び襲い掛かるビーム刃を半分しかない右腕のビーム刃で受け止め、俺はうめき声を漏らす。
俺に受け止められたビーム刃をすかさず引き戻し、ワドは何度も斬撃を加えてくる。
『さぁトリプ! 見せておくれよ! 僕に! 世界に! 君の大好きな女神様に!』
「このままじゃ押し負ける......早く、早く!」
俺の念が通じたのか、宇宙の遥か彼方から細いビームが伸びてくる。
この絶体絶命の状況でのそれは、天から伸びる蜘蛛の糸のように思えた。
「来た!」
『させないよぉ!!』
ワドは遠くから飛来するビームを目にすると、丁度俺の機体とビームの間に挟まるよう機体を傾けた。
これじゃあビームを受信出来ない......だが!
「――それじゃあ俺は止められないぜ!」
俺は機体前方にあるスラスターを噴かし、ワドの機体の頭部カメラを焼く。
その間に背部スラスターを上部で噴射し、一気に下方へ加速する。
「さっきの蹴りを倍で返してやるよ!!」
姿勢制御でワドの機体下方で横になった俺の機体は、次は前方に加速し、そのままの勢いでワドの機体を蹴りつけた。
『ぐぅぅ......!』
吹っ飛んでいくワドの機体に向けて右腕を伸ばし、長距離狙撃モードで固定する。
しっかり狙って......今!
「これで終わりだァァ!!」
ピコーン、とビームが俺の機体に着弾。みるみる内にエネルギー残量が回復し、それと同時に俺は、レバー上部のスイッチをカチッと押し込んだ。
瞬間、機体の腕ほどの太さのビームが未だ減速出来ていないワドの機体に襲い掛かり、機体の右足を蒸発させた。
「まだまだァァ!!」
俺の攻撃はそれだけでは終わらず、そのまま右腕を横にずらし、従って横に切り裂く形となった白いビームが、ワドの機体の左足をも斬り飛ばす。
「チェェストォ――!!」
そして加速。もはや背部スラスターしか残っていないワドの機体がこちらの急接近から逃れられるはずもなく、最後の抵抗で繰り出された左腕のビーム刃を容易く避け、後ろへ回り込んだ俺は、右腕のビーム刃を展開し......
『――トリプ、ようやく君は――』
左腕を、下から上に、斬り飛ばした。
四肢を失い、もはやワドの機体は何もできない。
「やった、遂に、やったァ――!!」
俺の、勝利だった。




