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銃撃の世界 中編

 厳密に言えば、全く武器が使えない訳では無い。

 そもそも、さっきワドが皮肉げに言った通り、弾が目標......つまりワドに当たりさえすれば、他のコンテナやら壁やら地面やらに当たって危険な事になったりはしないのだから。

 だが、数々の世界を生きる中で銃を使う機会もあり、それなりに自分の射撃能力を自負している俺であっても、こんな狭い空間で動き回る的を百発百中で当てる事など出来ない。断言出来る。絶対に無理だ。



 これでアサルトライフルは使えない事が分かって貰えたと思うが、それでも俺はまだもう一つの武器を持っている。

 そう、拳銃だ。今俺の後ろ腰でホルスターにしっかり入っている拳銃だ。

 これならば跳弾は起きないし、コンテナを貫く事も無い。だがもちろん問題もある。



 簡単な話、今度は火力不足なのだ。拳銃ではサブマシンガンに手数で負ける。同じ拳銃弾を使用している互いでは、手数で負けるというのはつまり、火力で負けるということ。

 ならば技術で勝てるか......と問われれば、もちろん勝てない。

 俺とワドは同じ力、《ワールドトリッパー》を持っているのだ。そして恐らく、ワドの方がその力を使いこなし、俺よりも長い年月を生きている。

 当然、技術にも差が出るというもの。



 ならば、どうするか。使えない訳では無いが、使った所で大した効果の無い拳銃を使って戦うか、それとも使う毎にヒヤヒヤするようなスリルを味わうハメになるアサルトライフルを使って戦うか。



「八方塞がり、か......?」



 この倉庫内で響いてワドに届かないくらいの小さな声で、俺は嘆息しつつ呟く。声に出すことで、これが何らかのフラグになると思ったりした訳では無いのだが、思いがけず、という奴だ。



「あ、でも......!」



 もちろん、天から何か俺が有利になるアイテムが降って来たりはするはず無かったのだが、しかし俺の頭には天から何かが降りたようである。

 もっとも、これは『もっと早く気付けよ!』というような非常に簡単なアイデアであり、今まで気付かなかったというだけで、多分さっきの言葉を言わなかったところで近い内に気付くようなアイデアであったのだが。



 要は、この倉庫の中に居るから駄目なのだ。倉庫に居るから跳弾が起きるし、倉庫に居るから粉塵爆発に怯えなければならない。



 なら、ここから出ればいい。まさかこの世界は倉庫の世界で、この倉庫だけで世界が出来ている......なんてわけが無いのだから、外はあるはずだ。



 問題は、どうやって出るか。見たところ、扉らしきものは無い......が、それはあくまでここから見た時の話だ。

 最初の所から結構進んだので、直線距離にして残り百八十メートル。その全てを見れた訳では無いのだから、何処かに外へ続く道はあるはず......!



 さて、やることは決まった。ひたすらワドの攻撃を避けながら直線に走り続け、出口を探す。

 出口が見つかってもワドが出てこないなら意味は無いのだが......いや、ワドは今、俺を裁く事で頭が一杯だ。ああいう狂人系の人間は、自分が不利になろうと目的を優先する。恐らく出てくるはずだ。



「よし、やるぞ」



 現在、俺とワド間の距離は二つのコンテナを挟んでおよそ三十メートル。ワド側が俺の走る方向に居るから、俺は絶対にワドの居る所を通らなければならない。



 となると、やはりここで閃光手榴弾を使うしか無いだろう。モロに喰らえば動けなくなるが、多分ワドは上手く避けてくる。

 だが、それでも一瞬の隙は生まれるはず。そこを何とか走り抜ければ......



「知ってたか~いトリプ~? さっきのアサルトライフルの一撃で、僕の肋骨って一本折れてるんだよぉ~!」



 それなのにそうまで飄々としているのか......化け物め。そう心の中で呟きながら、右腰の紐を無理矢理引きちぎり、閃光手榴弾を手に取り出す。

 そして安全ピンを抜き、放物線を描いて上手くコンテナの裏側に手榴弾が転がるように投げる。



「それじゃあこいつは置き土産だ!」



 閃光と爆音を散らすほんの寸秒前に、それだけを叫んでから、俺は耳を塞ぎ、目を瞑ったままの状態で先程記憶した道を走り始めた。

 迷い無く、恐れ無く。



「――くっ!!」



 ピカ、と、瞼越しでも目を焼くような凄まじい光が、走り出した俺に光速で追い付いて来る。しかし俺はそれを気にも止めず、一見はただがむしゃらに、内心では慎重に足を動かした。



「あぁもう! やってくれるねぇ!!」



 パパパパパパパパパ。



 瞼を開け、耳から手を離す。この間に、ワドから十メートルは距離を離した。後は拳銃で牽制を入れながらひたすら奥に進むのみ。



 リズミカルな破裂音と共に、背後から何発もの弾が飛翔するが、もろに喰らったわけでは無いとはいえ、閃光手榴弾の一撃を受けた後の射撃という事もあり、てんで当たらない。



 自分も少し眩む視界の中で、必死にふらつかないように走り続け、適度にコンテナに隠れては後ろへ撃つ。



「どうせ出口から出て自分が有利な状況にしようとか考えてるんだろうけど、そうはさせないよ!」



「お前に俺の行動を決定する権利は無いっつーの!」



 走り、コンテナに隠れては後ろへ牽制。その隙に周りを見渡し出口を探す。それの繰り返し。

 現在最初の地点から五十メートルは進んだ。残り百五十メートル。



「待てトリプぅ~! いてててて......」



「無理せずそこらで休んどけよ!」



 アサルトライフルの射撃を防ぐ程の重い防弾チョッキを着ている上、肋骨が折れているのだ。

 自然、俺との距離はどんどん離れて行く。



 まぁ俺のも重いのだが。多分今なら小学生の徒競走に参加してもビリは確定だろう。

 ワドはクレームが来るレベル。それほどの遅々とした亀さんのような速度で、俺達の進軍は続く。といってもワドは敵だが。



「僕の心配をしてくれるなんてぇ! なんて優しく慈愛に溢れた善人なんだ、君はぁ!!」



「あぁそうだ! だからお前は休んどけって!」



「だけれども! その心配は要らないよぉ! 君の一言一言がっ、僕に力を与えるのだからぁ――!! いてててて......」



「わざとやってんのか!」



 現在百メートル。残り百メートル。あと半分と捉えるべきか、まだ半分と捉えるべきか。されど半分なのだが。

 自分で勝手に叫び、勝手に傷を広げるアホな堕神のアホな声を背中で聞きながら、俺の口も自然と軽口を叩く。



 やっぱ俺、ツッコミの立場なんだよな。あいつが相手だと。仕方ない......っちゃ仕方ないけど。



「あー! 今僕のサブマシンガン君の背中に当たったよね! なんで止まらないのさぁ! 痛くないの!?」



「痛ぇよ!! すげぇ痛ぇよ!! その痛みを原動力に走ってんだよ!!」



 なんか格言っぽいな。やっぱ痛いけど。



 現在百五十メートル。残り五十メートル。ここまで出口の姿は無し。代わりに天井に続く梯子があった。あれを登って天井に張り付いてたんだろう、ワドは。



 背中を擦る事も出来ず、俺は一心乱々に走り続ける。

 一つの事に集中しつつ、他の事に気を奪われまくってるさま。そんな言葉は無い!



 因みに、俺とワドとの距離はもう八十メートル近くにもなるので、さっきサブマシンガンが当たったのは中々奇跡的な事だったのである。どちらにとってもあまり嬉しくない奇跡であったが。不必要可欠。

 必要ではなく、欠けてよいさま。そんな言葉は無い!



「あぁ、もう君の姿が米粒より小さく、埃より大きく見えるよぉ!! 僕の声は届いているかぁーい!?」



「埃要らねーだろ!! 大きく感じんじゃん!!」



 現在百八十メートル。残り二十メートル。ようやく出口が見えた。本当に端の端、俺のスポーン地点から真反対の、端の中の端、ザ・端に出口はあった。



 最早弾は当たらないと判断したのか、後ろも叫ぶワドの声が聞こえるのみとなり、俺は猛ダッシュで残りの距離を詰める。



「ふぅ、ふぅ......ひー、疲れたぁ......」



 疲れた。アスリートが足に重り下げてダッシュする気持ちが良く分かった。これからは自分がどれだけ体力に優れていても、絶対にアスリートにはならないでおこう。今決めた。俺は絶対この誓いを破らない事をここに誓います!



 誓いを誓うって、なんかまた堂々巡りな話になりそうだから割愛するとして、それでアスリートの世界が今後出るのか、俺の発言がフラグになっているのかという事も全て割愛して、現在。



 目の前にある両開きの鉄の扉を見つめるというよりは睨むようにして、俺は肩で息をしていた。



「おーい!! おーい!! 返事をしてくれぇー!! いーきてーるかぁーい!?」



 遥か後方、具体的には百メートル位後ろにはワドの声。もうあいつは俺に追い付く事も射撃する事も諦め、ただの散歩のようなゆっくりとした足取りで、しかし着実に俺の所に向かっていた。



「あぁ!! 安心しろ! 俺は生きてるぞー!!」



 自分を殺そうとしている相手に『生きてるぞー』って言うのはおかしくはなかろうか。いや、俺もあいつを捕らえようとして逃げているのだから、どちらにしろおかしいのだが。



 まるで本末転倒。しかしワドがこちらに向かう事で、転倒しきってはいない。さながら本末転傾といったところか。

 物事の根本的な事と、そうでない事とを微妙に傾け、ギリギリの関係で成り立っているさま。そんな言葉は無い!



 ......さて、俺に二重人格の疑いが発生した件についてや、ワドが何故頭を使わずこちらにゆっくりながらも近寄って来ているのかという事については置いといて。



「よし、開けるぞ......」



 汗ばんだ手で、扉の取っ手に手をかける。

 引くのか押すのか一瞬悩んだ後、取り敢えず勢い良く引いてみる。



 ガタッ。



 間違えた。俺は判断を間違えたようだ......



 ギギィ......



 そう、俺はこの扉を引いた時、この反応が欲しかったんだ......決して押した時に欲しかったわけじゃないんだ......



 まぁ扉の押し引きについて愚痴ってもしょうがない。そもそもコンテナが積まれてるのに、引いて開く扉だったらコンテナに扉が当たるじゃないか......少し考えれば分かる事だろ。



 それより、扉が開いた先。その先に見えたのは......



「外じゃ、無い? 階段?」



 見えたのは灰色の、螺旋ではなく普通に斜めへ伸びる階段。



 となると、ここは地下だったのか。なら、ここをのぼれば地上へ出られるはず......!



「イヤッホォ!」



 タッタッタッタッ、と二段飛ばしで勢い良く階段を駆けのぼる。すると、俺の体力も勢い良く削れていった。



「......やめとこ」



 ......という様が見えたので、大人しく一歩ずつ階段をのぼる。



「..................」



 もうワドの声も聞こえない。

 ただ無言で階段をのぼりきり、その先のこれまた灰色の部屋から外への扉を探して辺りを見回す。



「あった......!」



 幸い、この部屋はさっきの馬鹿デカイ倉庫のように広いわけではなく、ほんの十かけ十かけ五くらいの小さな部屋であったため、直ぐに扉を見つける事が出来た。小走りで駆け寄り、その扉のドアノブに手をかける。



 ようやく、外に――!



「......ん」



 今度は間違えず、扉を外に押して開いた俺は、瞬間俺の鼻腔をくすぐったツンとした匂いに、少し違和感を感じた。



 新鮮な空気ってこんな匂いだっけか? いや、これは何処かで嗅いだ事のある匂いだな......うーんと、そうだ、これは......!



「お、おぉ......ここって、まさか......!」



 見るだけで爽快な程に澄んだ、青い空。



 そして、見るほどに心が癒される、青い海。



 潮の香り。



「船だったのかぁ――!!」



 俺は、超巨大な貨物船の上に居た。

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