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ケモノの世界 後日談

「......ッ! くぅ......」



「お帰りなさい、トリプ」



 いつものように微笑み、俺の帰還を迎える女神様。うん、どんな辛い死に方をしても、女神様のこの笑顔だけで元気になれるぜ。



「ただいま、女神様」



 まぁ今回はそこまで酷い死に方って訳でも無かった。珍しく人の腕の中で死ねた分、俺の内心は穏やかだ。

 俺もまたいつものように微笑み返し、一足遅く帰還を伝えた。



「今回もまた、随分と大変な世界でしたね」



「そうだな......ちゃんとあのウイルスは皆消えると......あ、でもあのケモ耳は可愛かったなぁ......うーん、やっぱウイルスは捨てがたい......!」



「もうトリプはまた変な事考えて......」



 帰って来て早々ケモっ娘の妄想を始めた俺に呆れたのか、少し怒った風な様子を見せる女神様。女神様にぞっこんな俺は直ぐにその女神様の態度の変化に気付き、機嫌を取る為に行動を始める。



「ごめんごめん。だけど、女神様の猫耳はヤバかったぜ? 俺の理性が吹っ飛ぶ位には可愛かった。もうずっとあのままでいいんじゃないか?」



「駄目です! いつトリプに襲われるか分かったものじゃないので、もう付けません!」



 キッパリとそう言い放つ女神様。



 そんな全裸同然の格好しといてよく言うぜ......なんて事は絶対に言わない。

 言ったらもしかすると着替えちゃうかもしれないしな。ウイルスを自分で再現出来るんだ。服の再現なんて女神様の手にかかれば造作も無いだろう。



 俺は何だかんだ言って女神様はこの格好ってイメージが定着してるし。凄まじい色気を全身から噴き出しまくってるこの格好が。



 ......でも、オシャレしている女神様も悪くない気がする。



「え~、もったいないなぁ。スッゲー可愛いのに」



 まぁ女神様は天真爛漫な女神なので、少し褒めたり可愛いって言ってあげると......



「......でも、たまになら付けてあげてもいいですけど......」



 こうやって目を背けて照れを隠しながらOKしてくれる。本当にいい子だよ。いい子と言えば――



「――あのトリプの幼なじみさん、あれで良かったんでしょうかね......?」



「あぁ、俺も丁度、それについて話そうと思ってた」



 今までの何処かおふざけ感の漂っていた空気を一変させて、女神様が呟く。

 その内容は奇しくも俺が話そうとしていた話と同一で、俺もそれに釣られるようにして口を開いた。



「良くは無かった、んだろうな、多分。俺はいつの間にか、自分には沢山の人生があるから、自分の分の幸せを削ってでも他人を幸せにしたいって思ってたみたいだ」



「確かに、そういう感じはありましたよね......」



「そうだな。でも、あいつもそう思ってたんだ。自分の幸せを削ってでも、俺を幸せにしたいって......」



「どうしてそこまで......あなたもですけど、自分を卑下出来るんですか? 残念ながら私には理解出来ません」



 言われてみてハッとする。

 女神様は今まで、人間達の様子は観察して来ていたけど、自分の人生というものを歩いた事が無いのだ。ずっと一人で、ただ毎日観察を続ける日々......当然、他人との接触なんて俺以外には無い。

 彼女にとっては、自分という存在が全てなのだ。だから、他の人間達の自分自身の存在を貶めてまでも他人の為に、という感覚が理解出来ないのだろう。



 そうか......俺が遠くて、届かない存在だと思っていた女神様でも、分からない事や出来ない事ってあるんだな......

 不謹慎だけど、ちょっとホッとした。壁が少し低くなった気がする。



 まぁそれはともかく、女神様は俺に対して質問をしているのだ。それにはしっかり答えねばならない。

 俺にとって女神様は全てなのだから。



「簡単な事だよ。自分より相手が幸せだと感じた方が、自分も幸せだと感じられる......変な話だけど、他人の幸せを自分の幸せだと思える人って沢山居るんだぜ?」



「やっぱり私には......理解出来ません」



 少し寂しそうな表情で、女神様はそう言った。



 ......なんか、嫌だな。やっぱり女神様がそういう表情をするのは。ここは逸れてしまった話題をさっさと戻して、話題転換にするとしよう。



「いやでも、本当にあいつはいい子だった。俺があいつの性格に気付いてやれれば、もっと違う人生を歩めたのかもしれないけどな......でも、俺は後悔してない。これからあいつは長生きして、幸せになるんだろうからな。俺を殺した事からも立ち直ってくれると......俺は信じてる」



「そうですね......なんて言っても、トリプが恋をした相手ですしね!」



 上手い事話に乗ってくれたようだ。

 先程の寂しそうな表情を微塵も見せない明るい笑顔で、俺にそう言う女神様。

 しかし......元気になってくれたのはいいんだが、逆にそんなに元気が良いと......



「怒って、無いのか?」



「え? 何がですか?」



 俺の問いに、女神様は一瞬きょとんとした表情を見せてから、次に顎を掴んでムムム、と考え始める。本当に、どうにも思っていないようだ。



 眼中に無し、か。唯一自分と話せる相手だから親しく話しているだけという事であって、別に恋愛対象とかそういうのでは無いみたいだな。



 うん、もしかしたら......とは思ってたけど、結構ショックだ。恥ずかしがったりするから尚の事紛らわしい。



 女神様に気付かれないように、内心溜め息を吐く。俺の恋は前途多難だぜ......



「――あ、分かりました! あの時、トリプが私の事を、届かないんだ、とか、遠すぎる、とか......ちょっと酷いんじゃないですか? 私はずっとトリプと一緒なのに!」



「え......?」



 何故そこに怒る? 俺が眼中に入って無いなら、別にそんな所に怒る必要は無いはずだ。別にどういう風に思われようと、どうだっていいのだから。



 つまりこれは......期待していいのだろうか。



「あ、あぁごめんごめん。いややっぱ女神様って凄いな~っていっつも思ってるからさ。つい思っちゃうんだよ」



 少し、いや、結構嬉しかったので、自然俺の顔は笑顔になりつつも謝罪する。しかし......



「もう......私だってトリプの事は誰にも負けない位大好きなんですから、もうちょっと自信を持って下さい!」



 ......成る程、これはやっぱり......



「――全く、俺の恋が叶う日は一体いつになるのやら......」



 先が心配になりながらも、また一つ、死ねない(魂的な奴が)理由が増えてしまった俺であった。

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