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暴君な救世主と卑屈な救世主・終

「ああ、太陽って素晴らしい!」

 ルイは燦々と輝く真っ赤な太陽を見上げて、腕を大きく広げた。

 ――あったかい。気持ちいい。光合成してますって感じ!

「ルイったら、光合成は基本的に植物しかできないのよ」

 いつものことながら完璧にルイの心を読んで突っ込んできたのは、扇子を仰いでいるリョウカだった。

 ルイは「わかってるっつーの」と少し不機嫌に返事をする。

 京達と別れてから、ルイ達はあのキセキ星のカルムという青年によって、シロ星へと帰ってきた。どのように帰ってきたのか、何故かそれは四人とも記憶がなく、気付けばシロ星に辿り着いていた。

 カルムという青年もすでにどこかに消えてしまっており、ほとんど会話を交わすこともできなかった。

 あとはひたすら京と舞子の無事を祈り、再び始まったボウとマルクの喧嘩の仲裁をしつつ、彼らの帰還を待った。

 そしてダーク星人との戦いから一夜明け、救世主二人はシロ星へと帰ってきたのだった。二人は力を使い果たしたのか、シロ星に着いた途端に眠りこけてしまった。

 そしてその翌日である今日――ダーク星人の消滅を証明するかのように、シロ星に太陽の光が降り注いだのだ。

 これからシロ星総出で、救世主を讃えたパーティーが行われる予定なのである。その準備を手伝う為、ルイとリョウカも広場へと向かっていた。

「ん? 安久津京と笹森舞子じゃん」

 人の気配を感じ後ろを振り向くと、色々な意味でシロ星を救った救世主だとはまったく思えない二人が、何やら会話をしながらルイ達と同じ方向に向かってきていた。

 目が合うと、舞子がおどおどしながらぺこりと一礼する。

「あら、お二人とも。もう体調はよろしいんですの?」

「は、はい……何とか」

「さすがに今回はまだ怠いけどなぁ」

 確かに、二人にはまだ疲れた様子が見てとれる。

 リョウカは「パーティーはまだ延期したほうがいいかしら」と心配そうに呟く。

「その前に、悪いがオレ達はもう地球に帰るぜ」

「はあ!?」

 京の突然の宣言に、ルイは唖然とする。

「ご、ごめんなさい! でも、そんなパーティーなんてしてもらうほどのことはしてないし……」

「いやいやいや!? あんた死んでもおかしくない状況の中で戦ったんだよ!? 寧ろパーティーくらいで済まそうとしてるシロ星を責めてもいいくらいだよ!?」

 あまりに低姿勢過ぎる舞子の発言に、思わずシロ星に対する本音を漏らすルイ。

「……まあ、何となく予想はしてましたわ。お二人とも、あまりパーティー好きにも見えませんし」

 リョウカは苦笑する。

『すまないな、ルイ、リョウカ。我も止めたのだが、言っても聞かんのだ』

「あら、初代救世主様でも止められないのなら、致し方ありませんわね」

「ちょっとリョーちゃん!?」

 すでに諦めた様子のリョウカに慌てていると、「舞子さま!」と叫ぶジオの声が聞こえた。

「あ……ジオくん――と、セイガさん……」

「人をオマケみたいに言わないでよね、舞子ちゃん」

 真剣な表情のジオとにっこり笑顔のセイガが、いつの間にか側にやって来ていた。

 二人は舞子を囲んで何やら話し込み始める。

「ところで京様。ダーク星人を倒した今、初代救世主様の力はどうするおつもりですの?」

 リョウカの問いに、京は「この体が死んだら返すってことで初代と話はつけた」とあくび混じりに答えた。

「ってか、死ぬまで返さないわけ?」

「返せねえんだよ、もうオレの魂とくっついちまってるから。この体が死ねば、その時に魂と初代の力を引き剥がせる。前回、初代もそうしたようにな」

 無理矢理京から分離したことを言っているのだろう。

「それなら……京様はまだ力を持ったまま、ということですわね」

 何か含みのある言い方だ。ルイは首を傾げる。

「よろしければ京様、今後もシロ星にお力を貸して頂けませんか?」

「リョ、リョーちゃん……?」

 一体何を言い出すのか。

 京はピクリと眉を跳ね上げる。

「これでお別れだなんて、ルイだって寂しいでしょう? 失恋もしたのだし」

 ――は?

「いや何言ってんの? 失恋とかしてないし」

「何だよ、お前いっちょ前に失恋したのか」

「いやだから、してな――」

「そうなんですの、可哀想でしょう? わたしも京様とまだまだお会いしたいですし」

 リョウカに言葉を遮られる。

「ちょ、ちょっと! だから失恋なんてして――」

 尚もルイが否定しようとすると、京はニヤリと笑みを浮かべた。

「しょうがねえなあ。まあ、シロ星は細かいイザコザが結構あるらしいしな。たまになら手伝ってやってもいいぜ。リョウカにも会ってやる」

「ふふ、嬉しいですわ」

「あ、あのねえ、話を勝手に……」

「ついでにルイ。お前のことも慰めてやるぜ?」

「マジで必要ないから!?」

「よかったわね、ルイ。これで失恋の痛手も癒せるわ」

「ってゆーか、リョーちゃんはあたしが安久津京に慰められてもいいわけ!? こいつのお嫁さん狙ってるんでしょう!?」

「あら、ライバルがいたほうが盛り上がるじゃない」

「誰がライバルになるかー!? ってか、失恋なんかしてないってばー!! 」

 ルイの叫びは虚しく木霊する。

 どうやらこの先も、残念ながら京との面倒な関係は続くらしい。



「ま、舞子さま! 婆ちゃんに聞いたんですけど、本当にもう地球に戻るんですか!?」

「う、うん……」

 舞子は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 すでに長老とオババ様には了承をもらっている。とても残念そうにしていたが、やはりパーティーの主役だなんて目立つのは性に合わない。

 それに京も面倒だから出ないと言う。一人では余計に注目されてしまうので、それならばと、京と一緒に地球に帰ることにしたのだ。

「残念だなあ。ボウにも謝らせるつもりだったのに。なあ、ジオ?」

 セイガはジオに振るが、彼は俯いてしまう。

「舞子さま。おれ、本当に何もできなくて……」

「そんなことないよ!」

 思わず大声を出してしまう。

 ジオには本当に感謝しているのだ。こんな自分のことを気に掛けてくれる人間なんて祖母くらいしかいなかった。いつも励ましてくれ、一緒に戦ってくれた。彼がいなかったら、途中で本当に挫けていただろうと思う。

 しかしジオはまだ俯いたままだ。

 するとセイガが「おい、ジオ」と彼の背中を押した。

 舞子の間近に接近し、ジオは頬が赤くなる。つられて舞子も頬を染めた。

「あ、あの、舞子さま!」

「は、はい!」

 ジオは一瞬間を置いてから、舞子を真っ直ぐに見つめた。

「また、会いに行ってもいいでしょうか!」

「あ…………う、うん」

 どう反応していいのか困りながら、舞子は照れながらもとりあえず頷いた。

 だけど、こんな自分に会いたいと言ってくれ、とても嬉しい気持ちになる。

 それに、舞子も同じようなお願いをするつもりだったのだ。

「あの、私もシロ星にまた来てもいいかな?」

「も、もちろんです!」

「へえ、僕の為に会いに来てくれるのかな?」

 セイガの冗談に、舞子は乾いた笑いを浮かべる。

「え、と……初代さんはシロ星に来たいんじゃないかと思って……」

『舞子…………』

 初代救世主はこれからも舞子の中に居続けるのだ。シロ星のことを愛している彼女の為にも、たまにはシロ星に来てあげたいと思った。

『舞子、ありがとう』

「い、いえ……」

 初代救世主の優しい声に、少しはにかむ。

「な~んだ、ジオに会いたいからってわけでもなさそうだな」

「さすがは舞子さまだ!」

 セイガの嫌味にもジオはまったく気付いていないようで一人感動している。

 セイガはつまらなそうに「でも、遠距離恋愛かぁ」とわざとらしく肩を竦めた。

「舞子ちゃん、辛くなったらいつでも言ってね。すぐにジオと別れさせてあげるから」

 その言葉に、突如ジオは慌て出す。

「おま……! おれ達はまだそういう関係じゃ……!」

「っていうかさ、舞子ちゃん。僕のお嫁さんになるつもりない? 結構本気だよ」

「ば、馬鹿言え! お前と一緒になったら絶対不幸になる!」

「そうかなぁ。舞子ちゃんと一緒になったら、何か変わりそうな気がするんだよね、僕」

「ありえない!」

「何だよ、ジオ。だったら、しっかり舞子ちゃんを鎖で繋いどかないと奪っちゃうよ?」

「もういい黙れお前……!」

 二人のやり取りに舞子は苦笑するしかない。

『若いというのは、いいものだな――』

 頭に響いた初代救世主の声は、どこか羨ましそうに聞こえる。

 というか、発言が年寄り染みている。

「……初代さん。私、今回のことで少し自信が持てたような気がします」

 ウジウジして、何もできなかった自分。だけど、まさか救世主として誰かを救うことになるだなんて、まったく想像していなかったことだ。

 祖母にもたくさん心配を掛けてしまっているから、これからはもうちょっとしっかりしなければならない。

『お前の人生はまだまだこれからだ。もっと変われる。我も見守っていこう』

「――はい! ありがとうございます!」

 舞子は久し振りに心の底から笑えた気がした。

『それに』

「はい?」

 まだ話が続くとは思わず、声が上擦る。

『またいつシロ星が危機的状況に陥るかわからないからな。それまでに戦闘のスキルも上げておいたほうがいいだろう。覚悟をしておけ、舞子』

「……………………は、はい」

 またこんなことに巻き込まれる可能性があるのだろうか。そうなったら次は死ねる自信がある。

 どうか平穏に暮らせますように。

 切実に願いながら、一気に気持ちが沈む舞子であった。

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