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救世主達の攻防戦・その2

「ダーク星人って、マジでこんな暗い星に住んでんの?」

 動力源を探しに京の後をついて行きながら、ルイは薄暗い景色を眺めて項垂れる。

 ほぼ夜のような暗さだ。宙に浮いている光の球体が道を照らしているのだが、どうも宇宙生物のように見受けられる。恐らく知性はない虫みたいなもんなので、警戒する必要はなさそうだが。

「あいつらは負のエネルギーさえありゃ、他は何にもいらねえんだよ。オレ達とは生き方が違うんだ」

 先を行く京は振り返らずに答えた。

 確かに同じものを食べてる生物とは思えない形態ではある。

「ところで、京様は初代救世主様と仲直りはされましたの?」

 リョウカの質問に、彼は否定の意を込めてかパタパタ片手を振った。

「仲直りも何も、あっちが一方的に嫌ってるだけさ。オレの意志はしっかり伝えたつもりだ。あとはあいつ次第だな」

「ちょ、ちょっと! ここまできて動力源を破壊できないとか笑えないからね!?」

「安心しろ。こっちは命――いや、魂を懸けても破壊するつもりだ」

 そこまできっぱり言われるとそれはそれで困るのだが。

「初代の奴、意外と頑固だからな。オレの力を拒否ってんのも自分のクセに、笹森のせいにしやがるし」

 よくわからないが、それはやはりマズイ状況のような気がする。

「面倒だから、笹森が説得してくれりゃあと思って、とりあえずオレのこと全部ぶちまけといた。笹森だって死にたくねえだろうし、案外、初代を説得できるんじゃねえか」

 なんという人任せ。

 救世主に頼っている自分達も人のことは言えないが。

「ちなみに、ぶちまけたって何を?」

 そう聞くと、あからさまに嫌そうな顔をされる。

「オレにも今の行動に理由くらいある。ま、生きて帰ってこれたら話してやるよ」

 完全に死ぬ気じゃないか、こいつ。

「つまり――京様は決して悪者ではないと、そう仰るのですね?」

「そうだ」

 軽い返事にもリョウカは満足気に頷いて「やっぱり」とクスクス笑った。

 何がやっぱりなのか、ルイには理解できない。本人申告ほど信じられないものはないだろう。

 ここまで来て彼に対し疑心暗鬼になるのもどうかとは思うのだが、そうさせるだけのことをしているのである、京は。

 睨み付けていると、彼は急にこちらを振り向いた。

「なんつー顔してんだ、お前。救世主に向ける態度かよ?」

 そっちこそ救世主の態度として相応しいのか甚だ疑問である。

「もう少し殊勝な態度じゃねえと、あそこにいるガキも助けてやんねえぞ」

「へ?」

 京の指差した方向を見れば、遠くの暗がりにモヤッと人影らしきものが目に入る。

 クルクル天然パーマの頭を見て、誘拐されたチーム仲間だと気付いた。

「マルク!」

 駆け寄ると、彼はびくりと震えて後退する。

「待って、あたしだって! ルイだよ!」

 安心させるように笑顔で呼び掛けると、マルクはゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 ようやく表情が確認できるところまで近付いてきたのだが、どうも様子がおかしい。

 彼の瞳は虚ろだった。

「マルク……?」

「…………」

 呼び掛けるのだが反応はなく、ただ無言で佇んでいる。

 不意に彼の姿が掻き消えた。

「っ!?」

 ルイは足元から殺気を感じ取る。

 下を向くと天然パーマが目に入り、足蹴をかましてきたので瞬時に後ろへと飛び下がった。

 ――こんな速い動き、マルクじゃありえない!

 マルクは立ち上がるとすぐにルイを追いかけるように駆け出した。

 右手を掲げて左手は腰に引いて構え、ルイは臨戦態勢に入る。横目で京に視線だけ向けた。

「安久津京! どういうことなの!?」

「お前の日頃の行いだろ」

「んなわけあるかあ! マルクはあたしにチョーなついてんだからね!?」

「そうね。腰巾着、あるいは金魚のフンとも言うかしら」

「その言い方は悪意を感じるよ!?」

 思わず体も京とリョウカの方向に向けてしまったが、マルクがいつの間にやら近付いて拳を繰り出してきた。

「マ、マルク! あんたこんなことしてただで済むと思ってんの!?」

 怒鳴ってみせると、一瞬肩をびくりと揺らしたものの繰り出される拳が止まることはない。

「調教が足りねえな」

「してないわ!」

 未だ傍観し続ける京に突っ込みながら、ルイは瞬時にマルクの背後を取った。

「悪く思わないでよ!」

 マルクの首に右腕を絡めて羽交い締めにする。

 彼は微かに呻き、こちらに虚ろな視線を向け、何か言いたそうに唇を動かした。

 もしかして正気を取り戻しかけているのだろうか。ルイは少しだけ腕の力を緩め、「言いたいことがあるならはっきり言え」と声を掛けてやる。

「……い……んな」

 しかし声を発したものの、あまりにも掠れた声なのでまったく聞き取れない。

 思わず顔を覗き込むと、マルクは突然目を見開き、ニタリと厭らしい笑みを浮かべた。

 それは見る者を恐怖へと陥れるほどの憎悪を宿した表情。

 ルイは本能的に彼から離れようとするが、彼が再度言葉を発するほうが速かった。


「この…………ペチャパイ女!」


「………………は?」

 ルイは硬直する。

「今さら過ぎる感じもするが、実に的を得た言葉だな」

「さすが負のエネルギーですわね」

 いや、そこで負のエネルギーに感心されても。低レベル過ぎるだろう。

「っていうかリョーちゃん! さらっと言ってくれてるけど、マルクはダーク星人に乗っ取られてるの!?」

「それ以外に原因は思い付かないと思うけれど。ねえ、京様?」

「ああ。正確には動力源がそのガキの中に取り込まれてる。そいつごとぶっ殺すのが一番手っ取り早いっていう状況だな」

 京はニタリと笑い、とんでもないことを言い出した。

 不意にマルクに手を振り払われ、飛び退いて距離を取られた。ルイも構え直しながら京へと視線を向ける。

 操られているというのはミーアという前例があったからいいとして、動力源が人の中に取り込まれるというのは想定外である。

「ちょっと待ってよ! 他に方法は!?」

 京は面倒臭そうにその場に座り込むと、「そいつを正気に戻すしかねえだろうな」と暗い空を仰いだ。

「さっき、お前の脅しにそのガキ、一瞬だけ動きを止めただろ。調教が足りないせいですぐ元に戻っちまったが、方法としてはそんな感じだ」

「どんな感じ!?」

 問い質せば溜め息をつかれる。

「だから、そいつが正気に戻るくらいの弱点でもつけばいいって言ってんだよ」

 マルクの弱点――

 ピーマン。

 そんなものしか思い付かないが、これを突き付けた時のマルクは面白いほどに泣き出していた。緑色が気持ち悪いとか苦くて不味いとか言っていたが、もしかしたらアレルギーなのかもしれない。そう思うと面白がってマルクの鞄にピーマンを目一杯詰め込んだり、寝てる隙に口にピーマンを突っ込んだりなんかして、悪いことをしたかもしれない。

 まあ今さらである。とりあえずこれを脅しにして、マルクの正気を取り戻さねば。

 ルイは人差し指をビシリとマルクに突き付けた。

「マルク! 今すぐ正気に戻らなかったら、ピーマンの刑だからね! あんたの穴という穴にブチ込んでやる!!」

 さあどうだと彼の様子を見るが、先程と同じく僅かにピクリと体を動かすのみ。

「リアリティが足りないんじゃないかしら?」

 リョウカの言う通り、やはり実物を突き付けないと効果は得られないのだろうか。

「だったらリアルに説明すりゃいい」

 ここぞとばかりに京が口を挟む。

「まずは、ガキの手足を手錠で拘束する。警察からいくつか盗んだのを持ってるから、ルイに貸してやるよ」

「あんたマジで捕まるよ。っつーか、あたしにマルクを拘束しろと?」

「適任だろ? 信じてた奴から非道な仕打ちを受ければ相当のトラウマになると思うぜ」

 一体どんだけ非道な仕打ちを行わせるつもりなのか。ルイの呆れた視線も気にせず、京は続けた。

「拘束したら口にピーマンを丸々一個突っ込んでやる。ガムテープでしっかり固定してな。身動きが取れず、口には大嫌いなピーマンの苦味が広がって、吐き出すこともできない。その絶望的な状態にさらに追い討ちをかけてやるんだ。体の穴という穴にじっくりゆっくりピーマンを突っ込んでいってな。鼻の穴、耳の穴、あと尻の――」

「ストップ!! それ以上の発言はあたしが許さん!!」

 ピーマン嫌いでなくても気分が悪くなるというものだ。

 いや、人のことはまったく言えないくらいのイタズラをしている自覚はあるし、穴という穴に突っ込むと言ったのはルイ自身なのだが、そんな拷問めいた説明をされるとこちらまで精神的ダメージを喰らってしまう。

 マルクに視線を戻せば、青ざめた表情をしていた。効果はあったらしい。

「おいおい、あとちょっとで追い込めそうだったのによ。どうすんだ?」

 台詞とは裏腹に随分と楽しそうである。

 確かにいいアイデアは思い付かないのだが、奴の話はこちらも聞くに堪えない。ここはもう殴り飛ばすしか道はないだろうか。

 そう覚悟を決めていると、リョウカが「仕方ないわねえ」と前に出てきた。

「これだけは絶対にルイに言わないでくれって、マルクに口止めされてたのだけれど…….」

「な、何?」

 リョウカの表情は真剣そのもので、どこか憂いも帯びていた。マルクにそんな大層な隠し事があるとも思えないのだが、彼女の態度に不安が込み上げてくる。

 マルクも無表情だが、リョウカに視線を向けていた。

「あれは……そうね、一ヶ月前のことだったかしら」

 割りと最近ではないか。

「学校の訓練室に、わたしは扇子を忘れてしまったのを思い出したの。すぐ向かったのだけれど、あそこって休日は貸し切りにできるでしょう? で、邪魔されたくない場合は施錠もできるから、その日は残念ながら施錠されていたのよ。ノックもしたのだけれど返事がなくて」

 あそこの扉は意外と厚くて、ノックされても気付かない可能性は高い。

「無駄足になるのも嫌だし、先生に伝えたらマルクが利用してるはずだと聞いて合鍵をもらったの」

「…………っ」

 マルクが微かに呻いた気がする。

「マルクなら訓練中にお邪魔しても許してくれるかと思ってた。でもね――それが間違いだったのよ」

 リョウカは視線を逸らして俯いた。

 一体何が――?

 するとリョウカは意を決したように顔を上げた。

「扉を開けたら、マルクは部屋の隅にうずくまっていたわ。そして、ルイのパ――」

「それは言っちゃダメだああああ!!」

 突然、マルクが覚醒した。いや――正気に戻っていた。

 しかし、ルイはそれどころではない。

「あたしの『パ』って何!? 『パ』って!?」

 非常に気になって思わず叫び出す。

「リョーさん!! それだけは言わないって約束してくれたじゃないか!?」

 泣きそうな表情で叫ぶマルク。この慌てようタダゴトではない。

 リョウカは「大丈夫、これ以上は言わないわ」とクスクス笑いながら言った。

「ちょっと、あたしがそれで許すと思ってんの!?」

「ダメ!! 絶対ダメ!! ルイは聞いちゃダメー!!」

「あたしの名前出てんのに、聞かずにいられるかあ!!」

 マルクと言い合っていると、彼の頭上から真っ黒い煙のようなものが立ち上り始めた。するとニヤけた表情の京は腰を上げ、赤き剣を具現化した。

「オレの出番だな。リョウカ、後でその話詳しく聞かせろよ」

「あら京様だったら問題ないわね、マルク?」

「ありありだよ!?」

「その前にあたしに聞く権利があるっつーの!!」

 またも言い合っている内に京は赤き剣を黒煙へと向けた。その煙は徐々に形を成していき、三メートルはあるであろう巨大なダーク星人へと変貌した。

「キモッ!」

 本当にそのまま巨大化しただけなので、真っ黒い穴のような目が余計に怖く、そして気持ち悪かったので思わず声に出してしまう。

 しかしこれが動力源というのは納得である。背筋がゾッとするほどの力を秘めている。

「覚悟しろよ」

 京の瞳が鋭くなり、巨大なダーク星人に向かって走り出す。

 彼はそのまま飛び上がり、赤き剣を勢いよく振るった。

 巨体のせいか京の動きに間に合わないと判断したのかもしれない。ダーク星人は避けることはせず、剣を片腕で受け止めた。光が弾け飛び、金属の擦れ合うような音が響くと京はあっさりと身を引いた。

 何をしているのかと目を見張るが、迷うことなく彼はマルクのもとに走り寄り、その襟首を掴んだ。

「ええ!?」

「お前もやられっぱなしじゃムカつくだろ?」

 驚きの声を上げるマルクに構わず、京はダーク星人へと彼を勢いよく投げ飛ばす。

 ――な、何ぃ!?

 まさかの行動に硬直するが、ルイは慌ててマルクが投げ飛ばされた上空を見上げる。

 マルクはダーク星人の頭部に向かっていた。片腕のみで人一人をあそこまで投げ飛ばせる京の筋力にも驚きだが、とにかく行動が突飛過ぎてどうしたらいいかわからない。

 とにかく助けなければと駆け出そうとした時、マルクの体が真っ赤に光輝いた。

 あまりの眩しさに目を瞑ってしまうと、横でリョウカの「たーまやー」という呑気な声が聞こえた。

 それと同時に、ダーク星人の低い唸り声が大きく木霊する。

 目を開ければマルクの光はすでに消え、京の赤き剣がダーク星人の腹を背後から貫いていた。

「はああああ!」

 気合いの声と共に、赤き剣の光が一際激しく輝き出し、益々ダーク星人の唸り声は大きく響いた。やがて赤き剣の光はダーク星人を呑み込むほどに大きく輝き全身を包み込んでしまう。

「消えろ!」

 京が叫ぶと、ダーク星人は完全に赤い光の中へと消失する。

 そしてその光は台風の目のようにグルグルと渦を作ったかと思うと瞬時に収束していき、ダーク星人の姿も何もかもが消えてしまった。

 残るは京の手のみである。

「や、やったの……?」

 呆然としていると、どこからかボタリ、という何だか間の抜けたような音が聞こえた。

 音のした方向へ視線を漂わすと、それは先程投げ飛ばされたマルク以外の何者でもなかった。

 まずい。すっかり忘れていた。空から落ちてしまったのだろう。しかしそれにしては滞空時間が長かったような気もするが細かいことは置いておこう。

 ルイはダッシュで彼のもとへと向かい、様子を伺いつつ体を揺さぶった。

「うぅ……ん」

 よかった、死んでいない。息はある。

 大きなタンコブが額にできてるっぽいが問題あるまい。

 ルイはそう自己完結して京に向き直る。

「やっつけたんだよね!?」

「そうだな。何だか知らないが正気に戻って、動力源は完全にそいつから出てきたし、今見た通り完全に消滅した」

「マルクを目眩ましに使うとは思いませんでしたけど」

 クスクスと笑いながらリョウカは言うが、笑い事ではない。すっかりとルイもスルーしていたが、わざわざマルクを投げ飛ばす必要性があったのだろうか。

「ただ目眩ましを使うよりは、あいつを投げ飛ばしたほうがダーク星人の意表を突けて好都合だったんだよ」

 いやそれにしても扱いが雑過ぎる。

 しかしここで言い合いを始めても仕方がない。マルクは助かったのだ。一旦よしとするべきだろう。

 マルクとの間に大きな溝ができた気はするが、今はそれも置いておく。後で必ず吐かせるつもりだが。

「っ! ……へえ」

 突然、京は驚いたかと思うとニヤリとあくどい笑みを浮かべた。

「どしたの、気持ち悪い」

「どうやら、あっちも上手くいったらしいぜ」

 あっち……というのは、もしや舞子達のことだろうか。

「本当に?」

 半信半疑で問うと京は楽しそうに頷いた。

「あいつの居場所が手に取るようにわかるようになった。初代の奴、ようやくオレの力を受け入れたらしい」

「京様の思惑通り、舞子さんが上手くやってくれた、ということでしょうか」

 京が肯定すると、リョウカは「よかったわね」とルイに微笑む。

 確かによかったが、まだ油断はできない。

「で、あっちも動力源はやっつけたの?」

 京は少し考え込むように沈黙してから「ああ」とあっさり返事した。

「まあオレの力を受け入れさえすりゃ、倒せる相手だ」

 それはつまり、受け入れられなければバッドエンド直行だったということでもあるのだろう。

「マジでよくやったね、笹森舞子」

「終わったら盛大にお祝いしなくてはね」

「おいおい、まだ最後の動力源が残ってんのを忘れんなよ」

 少し呆れ気味の京にまあそれはそうだと思い直す。

「でも、これで準備は万全になったわけでしょ?」

 舞子の力は完全に解放されたのだ。あとは二人で協力すれば問題ない――と、京自身が言ったのである。

「とんだイレギュラーでもなければな。とにかく、早く笹森達と合流するぞ」

 言われるまでもない。

 ルイは急いで気を失ったままのマルクを担ぎ上げ、全員その場を後にしたのだった――

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