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救世主達の攻防戦・その1

 死相が出ているという長老に笑顔が戻った。

 オババ様も初代救世主と挨拶を交わせたことをとても喜んでくれた。

 舞子は戻ってきてよかったと心底ほっとした。

 でも、本番はこれからなのだ。

 無事に生きて帰ってこれるのか、それは誰にもわからない。

 だけど、それは舞子に限ったことではない。京やジオ、セイガ、ルイ、リョウカ、そしてシロ星の住民も全員同じ思いでいるのだ。

 ジオが舞子の笑顔を見て幸せな気持ちになったと言ってくれた時、すごく嬉しかった。舞子も、皆の笑顔が見たいと思った。こんな自分が役に立てるのであれば、それは喜ぶべきことなのだと思った。

 ――頑張らなくちゃ。

 舞子は宇宙船の窓から宙に浮いた星々を眺めつつ、気合いを入れた。

 ようやくダーク星へと向かう準備ができ、今はルイのどぎついピンク色の宇宙船に乗っている。ちなみに、この船には舞子とルイとリョウカの三人だけしかいない。男三人はジオの船に乗っているのだ。人質を回収する予定なので宇宙船が多く必要になる。その為、二つの宇宙船に乗っていき、尚且つ小型の宇宙船も一台ずつ備え付けている。

「緊張してんの?」

 操縦席にいるルイが、前を向いたまま聞いてきた。

「え、あ、す、少し……」

 聞けば彼女は年下らしいのだが、かなり気が強そうなのでちょっぴり怖かったりする。さっきもかなり突っ込まれた。だけど気を使って宇宙船の案内をしてくれたり、飲み物を用意してくれたりと、とても面倒見の良い性格のようで尊敬してしまった。

「ルイったら、怖がらせたらダメじゃない」

 リョウカの笑顔は癒される。だが、とても美人なのでまともに顔を見れない。

 宇宙船に乗るメンバーもリョウカが男と女に別れようと提案してくれた。正直、そのほうが気楽だった。

 ジオとは先程の件で少し恥ずかしいし、セイガはミーアとのことで気を使ってしまいそうだし、京は一緒にいるとすごく疲れるからだ。

 恐らく自分の様子を見て彼女が考えてくれたのだろうと思う。

「いや、聞いただけだし!?」

「こ、怖がってはないです……!」

 ルイと言葉が被ってしまうと、リョウカはクスクスと笑った。

「舞子さんったら慌てちゃって可愛い。食べてしまいたいくらいだわ」

 美しい笑顔を近付けられ、舞子は思わず息を呑む。

「リョーちゃんが言うと冗談に聞こえないっつの!」

「あら、本気よ?」

「笹森舞子、あたしから離れないでね!」

「ひどいわ。独り占めする気?」

「違うわ!」

 二人のやり取りを見て、舞子は少し吹き出してしまう。

「あら、やっと笑ってくれましたわ」

「……それが狙いかい」

 ルイはイジけたようにエンジンを吹かす。

「決戦に備えて今はリラックスしなくっちゃ。ね、舞子さん」

「あ、ありがとうございます」

 リョウカにつられて舞子もほっこりした気持ちになり微笑んだのだが、

「で、舞子さんの本命は誰なのかしら?」

「……え?」

 舞子の目は点になる。

「確か京様が抱き締め合った仲とか何とか仰ってたみたいだし、詳しく聞かせて下さらない?」

 何か黒いオーラが見えるのは気のせいだろうか。

「リョーちゃんの狙いはそっちか!?」

「嫌ね、気分がリラックスしたついでに、ただガールズトークの鉄板を話してるだけよ」

「笹森舞子、リョーちゃんを敵に回したくなければ、安久津京はやめといたほうがいいよ」

 リョウカは京のことが好きなのだろうか。

 舞子としては彼といても生きた心地がしないので「それはないです!」とキッパリ答えた。

「あら残念。せっかくライバルができたと思ってましたのに」

 言葉とは裏腹に黒いオーラは消え失せた……ように見える。

 これでこの話は終わりだと安堵したのだが、その後もリョウカの言うガールズトークというものは続けられてしまう。

 リョウカの質問攻めを、ルイのフォローによって何とか潜り抜けていくのだが、ダーク星に着く頃には、舞子の精神的疲労はピークを迎えていたのだった。



「お疲れのように見えますが大丈夫ですか?」

 宇宙船を降りて早々、目ざといジオに心配されてしまった。

 舞子は「だ、大丈夫!」とどもりながらも気丈に振る舞う。

「これからが本番だってのに、気ぃ引き締めろよー」

 自分が一番引き締まってないだろうに。あくび混じりの京を見て理不尽に思う舞子。

 しかし、本当にダーク星に到着してしまった。

 改めて景色を眺めるが、とにかく黒い。それでいて草木一本生えていないような殺風景さ。

 上空にほんわりと黄色に輝く球体が浮いている為、かろうじて道はわかるのだが。

 本当にダーク星という名前を裏切らない星である。

「じゃあ作戦通り、まずは二手に分かれて動力源の破壊だね!」

 張り切るルイに、京は頷いた。

「ああ。その途中で人質も探せよ。見つけたら宇宙船に向かえ。最後の一つの動力源はオレと笹森だけで破壊しに行く」

 動力源を全て破壊した後、ダーク星自体が消滅してしまう可能性があるらしい。その時には全員を守れるほどの力が残ってるとも思えない為、救世主以外は宇宙船で避難させておきたいそうだ。

「動力源の場所はオレと初代なら感知できる。何か意見ある奴は今のうちに言っとけ」

 と言いつつ、視線は舞子のみに注がれている。

『問題ない』

 それを察して、初代救世主は返事をした。

 満足そうにニヤつく京は、ルイとリョウカを呼んで右手方向に進んでいく。

「オレ達が来たことはもうダーク星人に気付かれてるだろうが、武運を祈ってるぜ」

 そう言って背を向けたまま片手をヒラヒラ振り、セイガが「そっちも頑張ってね」と陽気に返す。

「笹森舞子! なんかあったらジオとセイガに思いっきり頼っちゃいなよ!」

「う、うん! ありがとう!」

 心配してくれてありがたいとルイに感謝する。

 リョウカも一礼して京についていった。

 チーム分けはジオが舞子に付くと言った時点で簡単に決まった。彼らの相棒をシャッフルしても、慣れないコンビでは戦力に期待できないということで結果、最初の三人組になったのだ。

「舞子さま。ルイに先を越されましたが、精一杯サポートしますので何でも言って下さい」

 ジオは人懐っこい笑顔を浮かべる。

「もちろん僕も同じ気持ちだからね」

 セイガは相変わらず胡散臭いのだが、ありがたい言葉には違いない。

「二人とも、ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げる。

『では、参ろうか』

 初代救世主の声に従い、舞子は進むべき道を選択してゆく。

 暗すぎて一人だったら確実に道に迷っていることだろう。しかしダーク星人に一人も出会わないのは何故なのか。そもそも彼らは一体どのような暮らしをしているのだろう。

『奴らの糧は生命の負の感情のみ。人々に恐怖を与え、それを喰うだけの存在だ。シロ星や地球のような人々の営みはありえない。今もシロ星の民の負の感情を喰っているのだろう』

 舞子の心の中の疑問に答えてくれる初代救世主。

「ふうん。ちなみに、シロ星が狙われる理由は?」

 セイガはステッキをクルリと回して舞子に視線を送る。

『……我が原因だ』

「どういうことですか……?」

 ジオはいぶかしむ。

『これまでシロ星を守る為、多くの命を奪ってきた。そいつらの負の感情が、ダーク星人の人格形成に影響を及ぼしているようなのだ』

 それはつまり、どういうことなのだ。

『簡潔に言おう。我が滅ぼしてきた宇宙人の怨念がダーク星人となり、シロ星へ復讐しに来たのだ』

 なるほど、わかりやすい。

『しかし、我は後悔はしていない。生命を奪うということは自然の摂理に逆らうということだ。リスクを背負うのは百も承知。それでも我は――』

 初代救世主は、そこで言葉を切る。

 一体どうしたのか、言葉を掛けようとしたその時、

「ジ、ジオさんですか!?」

 聞き覚えのある野太い声が響き渡る。

 目を凝らして声のした方角を見ると、巨大な黒い檻がそびえ立っていた。

 薄暗かったのでまったく気付かなかった。

 舞子達はその檻へ駆け寄ると、誘拐されたボウが中に幽閉されていた。

「ほ、本当にジオさんなんスねっ!?」

 無駄に大きな瞳を潤ませ、鉄格子にしがみついた。

 しかしジオは冷めた瞳を向けて「なんだ、無事だったのか」と感情のない声で告げる。

「ひどいッスよ、ジオさん! どんだけ心細かったか……!」

「ジオとセイガなのか?」

 叫ぶボウの後ろから、別の声が聞こえた。薄暗くてよく見えないが、一人ではない。複数人いるようだ。

「もしかして、先発組の……?」

 セイガの言葉に、最初にシロ星へ突入し行方不明となっていた人達だろうかと当たりをつけていると、檻の中が突如騒がしくなる。

「お前達も捕まったのかい!?」

「だったら檻の外にいるかよ!」

「まさか助けに来てくれたのか!?」

 中年の男達が、鉄格子に飛び掛かるように寄ってきた。あまりの勢いにボウは床に潰されてしまっている。

「皆さん、落ち着いて下さい!」

 ジオは前に出る。

「とにかくご無事で何よりです。おれ達は救世主様と共に、皆さんを助けに来ました」

 おおお!――と感嘆の声が上がる。

「まさか、そこにいるお嬢さんが……?」

 皆の視線が一気に集まり、舞子は体を固くしていると、セイガが肩に手を置いてきてグイッと引き寄せられた。

「そうです。この子がシロ星の救世主様です」と言って彼らに笑顔で告げたのである。

 すると檻の中で再び歓声が沸き起こる。

「とにかく、今檻を開けます」

 ジオは鍵穴を手に取り、右手をかざした。パワーを使ったのか、程なくしてパキリッと壊れる音がすると、ギギギ、と重そうな音を立ててゆっくりと鉄格子の扉が開く。

「よっしゃー! 久し振りのシャバだー!」

 いつの間にか起き上がっていたボウが、一番に外へと飛び出した。後からシロ星の住民達もぞろぞろと嬉しそうに出てくる。

「ジオさん! ジブンにはやっぱジオさんしかいないッスー!」

 突然抱き付こうとしてきたボウを、ジオは躊躇うことなく蹴り飛ばす。

「ぐはあ!」と呻きながら倒れ込むボウに少しだけ同情した。

『……簡単過ぎるな』

 初代救世主が呟いた。

 確かに、大事な人質を監視もせずに放っておくものだろうか。

 瞬間、舞子の首に誰かの腕が回された。

「!?」

 見上げると人質となっていたシロ星人の一人だった。

 彼の瞳は虚ろで、恐ろしい異様な雰囲気を放っている。

 まるでダーク星人に操られていたミーアと同じような――

『正解だ! ダーク星人に操られているぞ! しかもこの男だけではない!』

「え!?」

 初代救世主の言葉に周りを見渡すと、数人の男達がジオやセイガ達を取り押さえようとしている。

 操られている人達は皆、虚ろな瞳をしているようだ。

「やりにくいな。彼らに怪我をさせるわけにはいかないし……!」

 セイガは舌打ちしながら、何とか攻撃をかわしていく。

「救世主様! 彼らを元に戻すにはどうすれば!?」

『奴は人の脳に寄生する! 舞子、ミーアの時と同様に彼らの頭に触れろ!』

「は、はい!」

 触れれば浄化が可能らしいのだ。現にミーアもすぐに元に戻った。

 とはいえ、後ろの男が邪魔しているので動けない。

 ――あ、あれ、何か苦しくなって……?!

 首に回された腕が、急に締め上げてきたのだ。

 するとジオが正面からこちらにすごい勢いで迫ってきた。

 思わず目を瞑ると、ヒュッと風が唸る音が聞こえ、鈍い音が頭上から聞こえてきた。

 男の腕の力が弱まり、舞子はチャンスとばかりに地べたに這いつくばりながらも、無我夢中で逃げ出す。

 振り返ると、男は顔面を真っ赤にして床に倒れ伏し、ジオがスタッと地面に着地した。

 ――け、蹴りを顔面に!?

『舞子! 早くあの男の頭に手を置け!』

 そうだった。痛そうとか思っている暇はないのだ。

 慌てて彼のもとに戻り、頭に手を置いてやる。

 スッと黒い邪念のようなものが頭から立ち上ぼり消えてゆく。浄化されたのだろう。

「舞子ちゃん、早くこっちにも!」

「は、はい!」

 セイガの呼び掛けに、舞子はまた走り出す。操られていないシロ星人達も奮闘して、幾人か取り押さえてくれているようだ。

 しかし向かう先にまた男達が三人立ち塞がる。

「舞子さま! 伏せて下さい!」

 ジオは背後から再び駆け寄ってきて、舞子の頭上を跳んだ。

「わぁ!」

 ぶつかりやしないかと慌てて屈む。ジオは舞子の前に着地すると、そのまま男達に突っ込んでいき、右足を男の顔面に叩き込む。しかしすぐに残りの二人が両側から殴り掛かってきた。

 ジオは体勢を立て直し、殴り掛かってきた男の腕を掴んで背負い投げをする。もう一人の男は投げられた男にぶつかり昏倒した。

 流れるような連続技に思わず見入ってしまう。

「うわ、容赦ないなー」

  男を押さえ込みながら呆れている様子のセイガに、舞子はハッとする。座り込んでいる場合ではない。

 大急ぎで彼らの頭に触れていき、セイガ達が捕まえている男達にも触れていく。

 浄化し終え、もう終わったかと安堵していると、「ふぎゃあ!」と野太い悲鳴が上がった。

 見ればいつの間に現れたのか、ダーク星人がボウを足蹴にしていた。

「どこまでも足を引っ張る奴だな」

 セイガの溜め息が聞こえた。

 ダーク星人は痙攣する。

「まさか生きていたとはナ。ここまで来れたことは褒めてやろウ」

 ざわり。

 急にプレッシャーを感じ、鳥肌が立った。

「今までのダーク星人とは、力が違う……?」

『フッ、どうやら動力源を取り込んでいるようだな。自分からやって来てくれるとは、こちらとしては都合がいい』

 ジオの言葉に、初代救世主は不敵に笑う。

『舞子、また青き剣を出すのだ』

 まさかあのダーク星人と戦わなければならないのか。

 てっきり動力源というから、動かない物体を壊すだけのつもりでいたというのに。

 いやもちろん、戦闘なしに乗り越えられるとも思ってはいなかったのだが。

 とにかく、また怒鳴られる前に「力が欲しい、力が欲しい」と再び呪文のように唱える。

 願い通りに右手に青き剣が現れ、舞子はほっとする。

 まったく重さが感じられないただの光に見えるのに、手に持つことができる不思議な剣。

 舞子は覚悟を決め、両手で剣を持ち身構えた。

「あの男よりも力が弱いようだナ」

『我が力だけで十分だ!』

 目を細めるダーク星人に、初代救世主は怒鳴った。

 恐らく京の力が使えていないからなのだろう。

 やはり拒んでいるのは、舞子ではなく初代救世主が――

『舞子、あいつに精神を集中しろ』

「……はい」

 疑問は尽きないが、それどころではないのも事実。使えた方が戦いも楽だとは思うのだが、怒られそうなのでそれも一旦置いておこう。

「ボウが邪魔だろう?」

 いつの間に近付いていたのか、セイガが隣に立っていた。

 確かに足蹴にされて可哀想だし、あのままでは攻撃しても巻き込んでしまいそうで怖い。

 しかし舞子が返事をする前にセイガはジオの名前を呼び、ダーク星人へとダッシュをかけた。

  手持ちのステッキが光輝き、ダーク星人の細長い足へと素早く突き刺す。

『グッ!?』

 よろめいた瞬間を狙って今度はジオが駆け寄っていく。滑り込むようにボウの服を掴んで引きずり、ダーク星人から一気に距離を取った。

「い、痛ってえ~……!」

 引きずられた体が痛かったのだろう。ボウは倒れたまま呻いている。

 だがこれで、ダーク星人は一人になった。

『チャンスだ、走れ!』

 初代救世主の言葉に従い、剣を振り上げダーク星人へと走り向かう。

 瞬間、痛みに歪んだと思われる虚空の瞳が大きく見開いたが、目の前に辿り着き、舞子は構わず剣を降り下ろす。

「えい!」

 青き剣は――空を切った。

「舞子さま! 後ろです!」

「!?」

 ジオの声に後ろを振り向くが遅かった。

 ツルテカの細長いダーク星人の足と思われるものが、腹にめり込む。

 ――痛っ!

 大きな衝撃と強い痛みが襲い、気付いた時には吹っ飛ばされて床に叩き付けられていた。そのせいで、腹だけでなく全身にも痛みが走る。

 腹に穴が開いたんじゃないかと思うほど痛いのは人生で初めての経験である。仰向けのまま、立ち上がれない。

『大丈夫か』

 ――大丈夫じゃないです。

 返事をしようとしたが、代わりに涙が出そうになってしまう。だけどここで泣けば、もう頑張れない気がする。

「そんな動きでワレワレに勝てるとでモ?」

 愉快そうに言うダーク星人に、言い返すこともできない。舞子はどちらかというと運動音痴だ。

「や、やっぱ、あの女じゃシロ星は救えないんだ!」

 ――そんなこと、自分が一番よくわかっていたことなのに。

 ボウの言葉にも、舞子は反論どころか同意してしまう。

「あ、ボウ! どこに行くつもりだ!」

 セイガが呼び止めるが、ボウは一人で明後日の方向へと駆け出してしまう。

「ま、舞子さま! 大丈夫ですか!?」

 ジオはボウには目もくれず、こちらに駆け寄ってくる。

「理解に苦しむナ。一人で逃げ出すような者が生きる星を、守りたいと思う精神ガ」

 ダーク星人はボウに向かって手をかざす。

『っ! まずい!』

 ステンレスのような手のひらから黒い球が生まれた。

 ボウを狙っているのは明らかだ。

 ――殺されちゃう。

 自分が役立たずなばっかりに。一人の命がなくなってしまう。

 そんなのは、嫌だ。

 それならば、自分の命がなくなったほうがマシだ。

『舞子……!』

 名前を呼ばれるが、舞子は答えない。

 その間に、とうとう黒い球が放たれる。

「ぎゃあ!?」

 狙われていることに気付いたボウは、その場で腰を抜かしてしまう。

 ――守ってみせる!

 舞子は上半身だけ起き上がり、青き剣を黒い球へと掲げる。

 すると剣から光球が飛び出し、ボウに届く直前、黒い球と衝突する。二つの球は弾け、一瞬で霧散した。

『よくやった!』

 初代救世主に褒められ、舞子は深い溜め息をつく。立ち上がろうとすると、ジオが手を差し伸べてくれた。

「舞子さま。まだ、いけますか?」

 少し心配そうなジオに、舞子は精一杯笑って見せる。

 お腹は痛いけど、内臓破裂とかはしてなさそうなのでいけるはず。

「今度はしっかり奴の動きを止めてあげるよ!」

 セイガはそう叫んで、シロ星の人達に声を掛けた。

「まだ動ける人達は、ありったけのパワーをダーク星人へ向けて下さい!」

「わかった!」

「任せろ!」

 彼らは快く承諾し身構える。

「ボウ! お前もだ!」

「ふへ!? お、オッス!!」

 腰を抜かしたまま、手だけダーク星人へとかざす。

「舞子さま、おれが合図した瞬間に、その剣を奴へ叩き込んで下さい」

 ギュッと手を握られ、舞子は何だか力をもらった気がした。

 力強く頷くと、ジオも身構える。

「救世主ヨ。お前はこいつらに守る価値があると思うのカ?」

『完璧な人間など存在しない。人々はお互い補い合いながら生きてゆくもの。我とて、元はただの人。我はただ――』

 ダーク星人は無言のまま目を細める。


『我はただ、生まれ育った故郷であるシロ星を愛しているだけだ』


 彼女の気持ちが舞子にも感じられる。彼女は本当に、シロ星を愛しているのだ。理由はそれだけで十分なのだと。

「やはリ、理解に苦しム」

 どうやらダーク星人には伝わらなかったようだ。

「皆、今だ! 一斉にパワーを打ち込んで!」

 セイガの呼び掛けに、シロ星の人達は「おお!」と応え、様々な色のパワーが光線となって、ダーク星人へと放たれた。

 バチバチと激しい音を立てながら、ダーク星人の動きが止まる。

「舞子さま!」

 ジオの合図に頷き、青き剣を構える。

『行くぞ、舞子!』

「はい!」

 今度こそと、人生で初めて全身全霊をかけて駆け出した。

「無駄ダ。今のお前の力でハ……」

 ダーク星人が何か言い掛けるが、迷ってなどいられない。

 舞子は剣を振り上げる。

「はあ!」

 初めて出した気合いの声と共に斬りつけた。

 ダーク星人の体に触れるとガキンッと金属音が鳴り響く。

 先程のセイガの攻撃は効いていたので、体を硬くして防御することができるのかもしれない。

 落ち着いて考察している場合ではないのだが、体が硬くて斬り裂けない。

「ハ、ハ、ハ、この程度カ?」

『くっ……!』

 ダーク星人は余裕そうだ。このままでは皆のパワーが尽き、返り討ちにされてしまう。

 今の力では倒せないのか――つまりは、京の力さえ使えれば倒せるはずなのだ。

 初代救世主が拒んでいることはもう間違いない。

 そう考えるとだんだんと理不尽な気がしてきた。シロ星を救いたいと思っているのに、意固地になって京の力を使わず、結果、皆まで危険に晒そうとしているのだ。

 剣にグッと力を込めて、舞子は決心する。

「しょ、初代さん!」

『何だっ……?』

「こ、この……意地っ張りぃ!」

『んな!?』

「初代さんがどれだけ安久津くんにひどいことをされたのかは知りません! でも私も安久津くんが苦手だから、少しは気持ちがわかると思います! だけどこの状況になってまで意地を張り続けてどうすんですか!?」

 もう自分でも抑えがきかない。そろそろ腕も限界にきているのだ。ダーク星人の体はまったく傷付けられそうにもない。

『わ、我は……』

「安久津くんも、反省はしてるんじゃないでしょうか!?」

『な、に……?』

 ヤケクソになって適当なことを言っているつもりはない。だって彼は――

「安久津くんが本当にひどい人なら、私をとっくに殺して、また初代さんを取り込んでいたはずです!」

『!』

「でもそれをせず、わざわざ私と協力する道を選んだ! 非道な人だったなら、初代さんを見つけた時点で私を殺して取り込んで、人質になっているシロ星人もまとめてダーク星を破壊すると思います!」

 自分で言っといて何だが、京なら本当にやってもおかしくないと思える。初代救世主も『どんな残酷な手も使う者と思い、常に警戒してきた』と以前言っていたのを思い出す。

 でも実際、彼はそんなことはしなかった。

 それが彼の本質なのではないだろうか。

「仲間割れとは愚かナ。そろそろ終わりにしてやろウ」

 ダーク星人は剣を押し返してくる。剣はバチバチと閃光し、舞子は一歩後退する。

「しょ、初代さん!」

『…………確かに、ここで死んでは無意味となるか』

 その声は悔しそうではあったが、とても力強くもあった。

 途端、舞子は体が熱くなる。

 どくん。

 鼓動が一際大きく鳴り、ぶわっと髪も逆立つ。

「なニ!?」

 青き剣の輝きが増し、ダーク星人に焦りが見え始める。

 ――いける!

 今ならダーク星人の体を斬りつけられる。舞子はそう確信し、剣を再度振り上げた。

「くぅっ!」

 剣に力を込め、ダーク星人へ向けて青き剣を勢いよく降り下ろす。

 ガキン! ――と、一際高く金属音が鳴り響いた。

「ぐあああああア!?」

 苦痛の叫び声が上がり、剣はものの見事にダーク星人の体を引き裂いた。

 その体は一瞬にして黒い霧と化し、跡形もなく消え去ってゆく。

「い、いやったあ! ほ、本物の救世主様だあ!」

 尻餅をついたままのボウは興奮冷めやらぬといった状態で叫び出す。

 それを皮切りに他のシロ星人達も歓喜の声を上げた。

 ――お、終わった。

 手から青き剣は消え、舞子は腰が抜けたように床にペタリと座り込む。

 すぐにジオとセイガが駆け寄ってきた。

「舞子さま! お怪我は!?」

「よく事情がわからなかったけど、救世主様を丸め込むだなんてさすがだね、舞子ちゃん!」

 舞子はあまりの疲れで二人の言葉が頭に入らず返事もできなかった。

『舞子、感謝する』

 しかし不意に発された初代救世主の言葉はしっかりと頭に入ってきた。

「初代さん……?」

『お前のおかげで少しだけ吹っ切れたようだ』

 とても穏やかな声だ。

『……確かに、あやつを誤解していた部分も多少はあったかもしれぬしな』

 少し照れたような物言いに、舞子はクスリと笑う。

『今は、あの男を受け入れよう』

  彼女の言葉にほっとする。これで、気掛かりも消えて三つ目の動力源の破壊に臨めるというものだ。

 だから、「今は」の部分がやけに強調されていたことはとりあえず置いておこうと舞子は思ったのだった。

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