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救世主の過去

 ――眠れない。

 線香の仄かな香りと、鈴虫のようなリーリーという虫の鳴き声を聞きながら、舞子は布団の中で寝返りを打つ。

 シロ星にも鈴虫はいるのだろうか。それとも別の虫の種類なのだろうか。そもそも虫ではなく謎の宇宙生命体だったりするのだろうか。

 もはや自分でも何を考えているのかわからなくなるほど、舞子は心に余裕がなかった。

 話し合いが終わり、そのまま長老の家に泊まることになったのだが、隣の部屋にいる京の存在は気になるし、明日は無事に生きて帰れるのかもわからなかった。

 そんな不安要素だらけの中、のうのうと寝ていられるわけもない。

 ――少し、外の空気を吸おう。

 布団から抜け出して、誰にも気付かれないよう忍び足で暗闇を歩く。何とか玄関まで辿り着き、舞子はほっとしながら外へと出た。

 空を見上げても、星一つ見えない曇り空。

 ここに来る途中、川原があったなと思い付く。ここからすぐ近くだったはずだ。そこで少し気分転換しようと、おぼつかない足取りで進んでいく。

 それにしても、初代救世主は一体どうしてしまったのだろうか。

 力を発動させたあの日から、救世主は一切話さなくなってしまった。彼女からシロ星に向かってほしいと言ってきたのに。

 こんな状態でまたあの力を使うことができるのか。

 それにどのような経緯で京と力を分かつことになったのかも不明のままだ。説明するのではなかったのか。

 悶々とする中、川のせせらぎが聞こえてきた。

 小走りで駆け寄ろうとすると、不意に腕を掴まれる。

 驚き振り向くと、金髪の女性が笑顔を向けていた。

 ――この人は、確かセイガさんの知り合い……?

「自分から外に出てくるなんて、バカね」

「え……?」

 悪寒がした。笑顔の裏に隠された異様な感情が舞子の不安を駆り立てる。

 彼女――ミーアは突然しゃがんで地面に手を付いた。

 何をするつもりなのかまったく検討がつかない舞子は、ただおろおろしながらその行動を見守るしかない。

 彼女の手から黒い煙のような物が湧き出てくると、地面一帯も真っ黒に染まる。

「……ぅっ!」

 苦しそうに見えるのは気のせいではないだろう。ミーアは荒い呼吸をしながら立ち上がり、再び舞子の腕を乱暴に掴んだ。

「あ、あの……!」

 逃れようとするのだが、引っ張られて黒く染まった地面の上に立たされる。

「セイガの前から消えて。あなた――目障りなのよ!」

 彼女は常軌を逸するほど恐ろしい形相で舞子を地面に押し倒し、すぐに立ち上がって黒い地面から遠ざかる。

 舞子は体を地面に強く打ち付けた痛みで立ち上がれそうになかった。

「うふふ、これでセイガはアタシのもの――」

 虚ろな瞳で彼女が呟いた瞬間。

 黒い地面は消えた。

「なっ……!?」

 地面の底は真っ暗闇。舞子は浮遊感に襲われ――

「馬鹿!」

 茶髪の恐ろしい形相の男が、突然舞子に向かって飛び出してきた。

 ――安久津くん……?

 そう思ったのも束の間、何故か彼に思い切り強く抱き締められる。

 訳がわからないが、今の舞子は京のことよりも、いつの間にか川原もミーアの姿も消え、景色は真っ暗闇へと変わり、浮遊感どころか確実にどこかへ落下しているだろう感覚に恐怖を覚えた。

 思わず京の背中に手を回して制服のシャツにギュッとしがみつく。

「笹森! そのまま手ぇ離すんじゃねえぞ!」

 頼まれても離せるものかと思いつつ、このまま死ぬのだろうかと気を失いそうにもなる。

『我が眠っている間に、面倒なことになったようだな』

 突然、初代救世主の声が聞こえた。

「余裕ぶっこいてんじゃねえよ! てめえはオレ達の体を守れ! オレは地球に方向を定める!」

『……お前に力を半分持ってかれているのだぞ。こちらの負担が大き過ぎないか?』

「こんな時に拗ねんな! 誰も全部任すとは言ってねえだろうが! 当然オレも力は出す!」

 初代救世主はそのまま無言になると、まるでシャボン玉のような透明のボールが現れ、舞子と京をすっぽりと包んでしまった。ほんのりと暖かい空気を感じる。

「あ、あの……!」

 がっちりとくっついているから京の顔が見えないが、気が動転している舞子はとにかく何か言わねばならない気がして何とか言葉を紡ぎ出したものの、舌打ちされた。

「お前は黙ってろ。いいか、これから大気圏に突入するが騒ぐなよ。耳元で叫ばれたら、たまったもんじゃねえ」

「た、大気圏!?」

「だからうるせえ!」

 こっちもうるさいのだ。

 というか、今いるこの場所はまさか――

 よくよく見ると、宇宙船に乗った時と同じ景色。周りにはいくつもの星が輝いている。

 ――なんてことだ。宇宙ではないか。

「い、息は!?」

「してんだろーが」

 確かに。

「で、でも何で宇宙なのに落下して……!?」

「変な力が働いてやがんだ。どっかの星に落っことして殺すつもりなんだろーな」

 そんな特殊な死に方は嫌だ。

「とにかく落ち着け。オレと初代の力で死なねーはずだから」

 それで落ち着けるほど、まだまだ人間はできていない。

 舞子は恐怖で、ますます強く京のシャツを掴んだ。

「しかしまあ……これはこれで役得か」

「え?」

 ぼそりと呟かれた言葉を聞き返すと、京は舞子の耳元に顔を寄せてきた。

「お前、意外と胸あるな」

「!?」

 やけに艶のある声色に、舞子は言葉を失う。

 人生二度目のセクハラ発言。

 しかも今回は言葉のみならず物理的にもセクハラされている。いや、自分から胸を押し付けているようなものなのだが。これはまさかの逆セクハラとなるのか。

「ごごごごご、ごめんなさ……!」

 自分のような女に胸を押し付けられても迷惑に違いないと、舞子は慌てて京を押し返す。目つきの悪い凶悪な顔と間近で視線が合うと、彼は突然「ぶっ」と吹き出した。

 何故か大声で笑われ、舞子は体が離れそうになったので慌ててまた京のシャツを掴む。

「顔が茹でダコみてー」

 ――し、失礼な。誰のせいで赤くなったと思っているのか。

 舞子は二度と顔を見せてやるものかと無理な誓いを立てて顔をぷいと背けた。胸を押し付けようがもう構うまい。舞子的には早く離れたくて仕方がないのだが、離れられる状況でもないので諦めるしかない。

『おい、セクハラは程々にして、方角を合わせるだけでなくスピードも上乗せしろ』

「セクハラとは心外だな。からかっただけだ」

 まだククッと笑いながらも、初代救世主の言う通り、スピードアップする。

 あまりの速さに頭がクラクラしてきた。

『あとどのくらいで地球に着く?』

「もう目の前にあるぜ。地球にかなり近いとこに放り出してくれたらしい。落とすつもりだったんだろーが、こっちとしてはありがたい限りだな」

 少し首を捻って京の見ている方向に視線を向けると、大きな星――壮大な地球が待ち構えていた。

 ――本当に青いんだ。

 思わず見入っていると、またもスピードが加速する。

「大気圏抜けるまでは気ぃ失うなよ。初代も力が使えなくなる」

「う……うん……」

 そうなのか。救世主は舞子の中にいるわけだから当たり前なのかもしれない。しかして正気でいられる自信はまったくない。

『舞子、心配することはない。我の力を信じろ』

「は、はい……」

 ここはもう信じるしかないのだろう。舞子も覚悟を決める。

 しばらく進むと、京が「そろそろだ」と耳打ちしてきた。

 ゴゴゴゴ……と何やら轟音が聞こえてきたと思ったら、急に激しい揺れを感じた。

 瞬間、周りが暗闇から真っ赤な色にパッと変化した。

「くっ……!」

 少し苦しそうな京の声を聞きながら、舞子は必死に揺れに耐える。

 ――怖い怖い怖い!

 恐怖に苛まれながらも、気をしっかり持たなくてはと京に一生懸命しがみつき、目をギュッと閉じた。

 それから――長いようで短いような時間が経ち、ふと揺れが収まる。

「……チッ、さすがに疲れたな……」

 怠そうに呟く京の声が聞こえ、そっと目を開くと、宇宙だったそこは白い景色に変わっていた。

 ――雲か。

 ほっと安堵すると、急に疲れが襲ってきた。

 ――あ、駄目だ。意識が……。

 目の前が暗転し、舞子は気を失ったのだった――



「笹森、起きろ」

 名前を呼ばれ、ぱっちりと目を開けた舞子は目の前の茶髪男の顔を見て跳ね起きた。

「あ、安久津くん……!」

 辺りを見渡せば、とても見覚えのある景色が広がっている。

「が、学校……?」

 舞子の学校にはプレハブ校舎もあるのだが、ここはその裏手の草っ原に酷似していた。

「お前の想像通りここは学校だ。とっさに思い付いたのがここだったんでな。時間も明け方だし、夏休みだ。生徒もあんまいねえだろうと踏んでここにした」

 京は草っ原に座り込んだまま空を見上げた。舞子もつられて空を見上げれば、確かにまだ日が昇り始めたばかりのような薄暗さだった。

 舞子は立ち上がって体に引っ付いた草を払った。しかし立ち眩みして転びそうになる。

「馬鹿、急に立ち上がんな。力をかなり使ったから、まだ休んでろ」

 京は立ち上がって舞子の腕を掴み支えてくれた。

 しかしここで長居をするわけにもいかない。夏休みとはいえ、部活はあるのだ。いつ教師や生徒が登校してくるかわかったものではない。

「あ、安久津くん……場所を変えない?」

 そう提案すると彼は顔をしかめ、「どこに」とぶっきらぼうに言った。

「う、うちに来てよ。ここじゃ、誰かに見られるかもしれないし、私制服じゃないし……。先生に見つかったら怒られる……」

 舞子なりに必死に説得しようと勇気を振り絞ると、京は「仕方ねえな」と茶髪頭をぼりぼりと掻いた。

「でも多分まだ五時くらいだぜ? こんな朝っぱらから学校に来る奴なんて……」

 ドサッ。

 その時、何かを落としたような物音が背後から聞こえた。

 驚き振り向くと、そこには制服を着た一人の女子生徒。

「…………いるもんだな」

「だ、だから言ったのに……!」

 感心したような様子の京に、舞子は泣きそうな声で訴える。

「あ、えと、なんか……お邪魔してごめんね?」

 ポニーテールの女の子は、落としたらしい鞄を慌てて拾い上げて困ったように笑った。

 ――く、九条(くじょう)さん!?

 最悪なことに、彼女は舞子のクラスメイトだった。確かバスケ部に所属していて副部長を務めていると聞いた気がする。とても明るい性格で、舞子に毎日挨拶をしてくれる数少ない貴重な人種でもある。

 何故か少し顔を赤らめている彼女の視線の先には、京に掴まれたままの舞子の腕。

 まずい。彼女は何かを勘違いしている。

「も、もう大丈夫だから……!」

 急いで京の手を振り払う。

「わ~、すごいびっくりしちゃった。笹森さんと安久津くんって意外な組み合わせだったから」

 彼女は胸に手を当ててマジマジとこちらを見てくる。

「あん? オレのこと知ってんのか」

 まさか目立つ彼女のことも知らなかったのか。

 九条は「ええ!?」と大きな声を発した。

「同じクラスの九条だよ! ねえ、笹森さん!」

「う、うん……」

 もしかしたらこの男、クラスメイトを誰一人知らないのではなかろうか。

 しかし彼女はスポーツ少女さながらの爽やかさで「まあいいや!」と笑い飛ばした。

「それより、二人はもしかして付き合ってたりするのっ?」

 ――直球過ぎるよ、九条さん!!

 彼女の瞳が好奇心に満ち溢れ過ぎてキラキラしている。

 舞子がすかさず否定しようとした時、京がズイッと前に出た。

「悪ぃけど、黙っててくれねえか?」

 いや、そうか。まずは二人で会っている状況を口止めしなければならないか。

 舞子は気付いてよかったと京に心の中で感謝したのだが、九条は「やっぱり!」と何故か嬉しそうに顔を綻ばせた。

「うん、大丈夫! 私、口堅いからさ! 絶対誰にも言わないよ!」

 胸を叩いて満面の笑みで約束してくれた。

 よかった。……いや、確かによかったのだが、何かが違う気がする。

 すると急に九条は小走りでこちらまで駆け寄り、舞子の両手をギュッと掴んで、キラキラの瞳で真っ直ぐ見つめてきた。

「実は前から笹森さんとちゃんとお話したいなって思ってたんだ! なかなか切っ掛けがなくて挨拶くらいしかできなかったんだけど」

 ――な、何故、私なんかと……。

「でも、もう私達、秘密共有しちゃったからね! 今度ゆっくり二人のこと聞かせてね!」

「へ!?」

「あ、じゃあ私、バスケの練習に行くから! 試合が近くてこんな早起きしたんだけど、笹森さんと話せてよかった! またね!」

「ちょ、ちょっと待っ……!」

 止める間もなく爽やかな笑顔で走り去っていく彼女。

 呆然としていると、京が後ろから肩をぽんと叩いてきた。

「よかったじゃねーか、お友達ができて」

 その顔は、まるでイタズラが成功した時の子供のような笑顔だった。

 ……いや、子供は子供でも、すごくすごく意地の悪い子供――と付け加えておきたい。



「また帰ってきたのかい」

 開口一番、伊代にそう言われ、もっともだと思いつつ、とりあえず家の中へと入れてもらう。

 ゆっくりと落ち着いたところで、今回は事情が違う旨を祖母に説明した。逃げ出してきたわけではなく、シロ星から落とされてしまったのだということを。

「そうかい。そりゃあ大変だったねえ」

 居間でお茶をすすりながら、伊代はニカッと笑う。

 ――笑い事じゃないのに。

 不満気に頬をふくらますと、伊代は「ああ、悪い悪い。違うんだよ」と言って京に視線を向けた。

「舞子が男を取っ替え引っ替え連れて来るもんだからさ」

「なっ……!」

 とんだ誤解である。

「へえ、純情そうに見えて意外とやるじゃねえか」

 これまでの説明には一切口を出してこなかったのに、何故こういう話題には積極的に口を出してくるのか。

 伊代は京の言葉に笑って「安久津君だったね」と声を掛けた。

「舞子を助けてくれてありがとう」

 京はひょいと肩を竦めた。

「どうってことねえさ。ああでも、どうせなら初代にも礼を言ってやってくれ」

「初代……?」

 伊代は京の視線の先にいる舞子を見た。

「あ、しょ、初代っていうのは、私の中にいる救世主さんのことで……!」

 舌足らずな説明に、伊代は「ほお」と感心して頷いた。

 そういえば、地球に戻ってから彼女はまた話さなくなってしまったようだ。

「どうもオレから離れたせいで一気に老け込んだらしい。疲れて眠る時間が多くなっちまってるようだな」

『老け込んではいない。温存しているだけだ』

 突然、初代救世主の声が頭に響いた。京の言葉に少し苛立っているようだ。

『大体、お前のせいで力が半減しているのだぞ』

「オレが蓄えてきた力も持ってってるだろうが。半減まではいってねえはずだぜ。それとも何か? オレの力は使えねえってのか?」

 鋭い視線が投げられ、自分に向けられていないのはわかっているのだが、舞子は怯える。

『同調できない。舞子はお前が苦手だ。無意識に力も拒んでいるのだ』

 ――わ、私のせい!?

 途端に他人事ではなくなってしまった。

 京は溜め息をつく。

「……そういうことかよ。オレがお前の存在に気付けなかったのもそのせいか?」

『そうだな。舞子が無意識に力を抑え付けていたのも原因の一つではある。だが、我とお前はあまりにも長く同化していたから、お前に波長を合わせ、気付かれないようにすることは造作もないことだった』

「結局はてめえの意思かよ」

『当たり前だ。お前に見つかってまた取り込まれるわけにはいかぬ』

「すでに人に宿ったお前を取り込めるわけねえだろ」

『舞子の魂ごと取り込めばいいだけだろう』

「ええ!?」

 大声を出してしまったが、それは死ぬということではないのだろうか。

『長年お前と共にいたが、未だ我にはお前が理解できぬ。どんな残酷な手も使う者と思い、常に警戒してきたのだ』

 京は黙り込んでしまう。

「……話が見えないねえ。安久津君は救世主さんと話してるのかい?」

 呑気な伊代の声に、そういえば救世主の声は自分にしか聞こえなかったはずだということを思い出した。

 しかし京は最初から聞こえているようだ。やはり元救世主だからなのだろうか。

 舞子はとりあえず伊代にコクコクと頷いた。伊代は納得すると、「じゃあ聞いててもよくわからないし、洗濯物干してくるよ」と立ち上がる。

 祖母がいなくなるのはかなり不安だったが、これ以上迷惑を掛けたくもないので致し方ないと名残惜しくも伊代を見送った。

 すると京が「……オレも成長はしてるのさ」と俯きながらぽそりと呟く。

 急に萎れたような様子におろおろしていると、彼はチラリと視線を向けてきた。

「笹森は……オレが嫌いか?」

 どう答えればいいというのか。好きか嫌いかで言えば嫌いな部類に入るだろう。だがそこまで拒否しているつもりはない。さっきだって助けてもらったことは感謝している。

 不良だけれど、そこまで悪い人でもないのだとも思う。

 やはり初代救世主も言った通り、苦手なのだ。それが一番しっくりくる。

 返事を待つのに飽きたのか、京は「同調できねえのはまずいよなあ」と面倒臭そうに言った。

 先程言っていた京が蓄えたという力のことだろう。

 非常に申し訳ないと思うが、どうしようもない。

『今はシロ星に戻ることが先決だ。我らを落としたあの女も気掛かりだからな。恐らくダーク星人に操られている。でなければ、宇宙へ空間転移させるなどという高度な術も使えないはずだ』

「ダーク星人の気配を追いかけたらあの女に辿り着いてお前らを助けられたんだ。操られてたのは間違いねえよ」

 そうだったのか。確かに少し異常な様子が見てとれた。

「シロ星に行く方法ならあるぜ。こんなこともあろうかと、シロ星へ繋がる秘密の通路を作っておいた」

『空間転移か……?』

 初代救世主は驚いているようだ。

「元キセキ星人なんでな。ダーク星人にできることができないわけないだろ」

 何となくジオとセイガから京のことについて説明は受けていたのだが、キセキ星人というのはすごい星人だと力説された気がする。

『ふん、ならまたキセキ星人に転生したほうが、都合が良かったんじゃないか?』

「冗談言えよ。あの星から出ていくのにどんだけ苦労したと思ってんだ。お前だって覚えてるだろ」

『……そうだな』

 二人とも声のトーンが下がる。一体どのような星なのか。

 質問したいが二人の会話に入れる気がしない舞子は結局、硬直したままになる。

 しかし舞子の様子に気付いたのか、京はジッと見つめてきた。何かを考えるように一度空中に視線を漂わせるが、再び彼と視線がぶつかる。

「……オレはな、キセキ星が大っ嫌いだった」

「っ!」

「だけどな――その中で一人だけ、気の合う仲間がいたんだ」

 一匹狼と噂されたいる京にそんな人がいたとは意外だったが、突然の告白に何をどう反応すればいいかわからない。

「そいつとは、いつか必ずキセキ星を出ようと約束していた」

「……その約束は、守れたの?」

 掠れた声となって出た質問に、京は苦笑する。

「オレだけな。そいつは自分を犠牲にして、オレをシロ星へ行かせてくれたんだ」

 ――犠牲。まさかその人は――

「多分殺されはしなかったはずだ。賢い奴だったからな。ただ、キセキ星を出ることは一生できなかっただろうよ」

「それからは……一度も会えなかったの?」

「ああ。キセキ星を出てもまだ邪魔してこようとする馬鹿がいたもんだから、面倒なんでキセキ星ごと宇宙の彼方に吹っ飛ばしちまったし」

「ええ!? そ、その仲間の方は…….」

「んあ? ああ、一緒に宇宙の彼方だったろうな」

 あっけらかんと答えているが、可哀想過ぎる対応な気がする。その人だってキセキ星を出たかったというのに、宇宙の彼方に吹っ飛ばしてしまうだなんて。

 呆然としていると、京は頭を掻きながら「いや、そうじゃなくてだな……」と何やら言い訳を始めた。

「あいつも同意の上っていうか……。代わりに救世主の役割をしっかり果たしてこいって言われてだな……」

 舞子は驚いた。つまり京はその仲間との約束の為に、長い間転生を続けてきたというのだろうか。

「一度目は封印しかできなかったからよ。あいつもキセキ星と一蓮托生な状態になっちまったし、中途半端に終われねえと思ったんだ」

 彼は少し決まり悪そうに視線を外す。

「すごい……ね」

 舞子は無意識にそう呟いていた。

 何と言っても五百年だ。相当の覚悟でないと、耐えられることではないだろう。

『……我も、あの者には感謝している。彼がいなければ、あの時シロ星は破滅していたかもしれぬ』

 初代救世主の言葉に、京はピクリと眉を吊り上げた。

「お前な、もう少しオレにも感謝しろよ」

『……もちろん、シロ星を助けてくれたことは礼を言う。だが、その後お前がしたことを、我は許すことはできぬ』

 初代救世主の力を独占していたことを怒っているのだろう。

「別にお前に不都合はなかったはずだ」

『ふざけるな。お前は力を手に入れる為に、数多の非道な行為を重ねてきた。我の力を無理矢理使いながら、な』

 初代救世主の怒りを感じ、一気に不穏な雰囲気になる。彼女にとっては相当、苦痛な出来事だったのだろう。

 だけど、やはり舞子は完全なる悪者として京を見ることができなかった。

 ――私はまだ安久津くんを拒否しているのかな。

 最初はそうだったに違いない。喧嘩ばかりする不良で怖くて一度も話したことがなかったし、救世主は一人で十分とまで言われたし、はっきり言って嫌な人だと思ってた。

 でも、仲間との約束を果たす為に五百年の日々を過ごしてきた彼は、尊敬に値するほどだ。

『……舞子、(ほだ)されるな』

「え……」

 初代救世主は鋭い声で咎めてきた。

「ま、いいさ」

 京はそう言って、畳の上にごろりと横になる。

「オレは疲れたから寝る。笹森、体力回復したらすぐシロ星に行くぞ」

「あ、う、うん」

『……お前も、少し眠れ』

「は、はい」

 京と初代救世主の言葉に素直に従うことにする。

 ――もしかすると、安久津くんの力を拒んでいるのは初代救世主さんなのかも……。

 舞子は少しだけ悩んだが、疲労と眠気には勝てず、とりあえず考えることを放棄したのだった。

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