謀られる救世主
「ねえ舞子ちゃん。初代救世主様はこれからどうするって言ってるんだい?」
シロ星に向かう途中の宇宙船の中、セイガは操縦席の真ん中に座る彼女に疑問を投げ掛ける。
「えっと……とにかくシロ星に向かいたいと言ってます」
「それだけ?」
「はあ、あとは着いてから説明すると言って、声が聞こえなくなりました」
おずおずと答える舞子。
――シロ星を救う気はあるんだろうな。
セイガは多少不安になる。
せっかく力が目覚めても救世主の意思がなければ、舞子一人では恐らくうまく力を使えないだろう。
先程の一件がいい例だ。青い剣は初代救世主の呼び掛けで使えていた様子がありありとわかった。例え、声は聞こえずとも。
せっかく悪役を買って出たのだから、思い通りになってもらわなくては困る。舞子への罪悪感もないわけではないが、何より自分の労力を無駄にしたくないのだ。
「随分とテキトーな救世主様だねぇ。信用していいのかな。舞子ちゃんはどう思う?」
「……どう、と言われましても」
困ったように首を傾げる。
「おい、舞子さまを困らせるな。シロ星に行けばわかることだろ」
運転席のジオは前を向いたまま話に割って入ってくる。
「なんだよ、重要なことだろ?」
「お前は自分よがりで考え過ぎだ」
それは当然だ。セイガはいつだって自分の為に生きてきた。富豪の家に生まれたセイガは小さな頃から厳しい教育を受けており、父親からは『他人の為ではなく、自分の為に生きろ』という教えを受けてきたのだ。もちろんそれを表に出すことはなく、外面は良くしている。
別に父親を尊敬し従っているわけではない。その生き方は非常に合理的であるとセイガは判断し、彼に倣っているだけのことである。
セイガの女好きも、もとを正すのであれば父親が原因かもしれない。母親も少し変わった人で、モテる父親を自慢するくらい浮気に寛容なのだ。だから父親は常にオープンに浮気をしていた。
そんな環境だったからこそ、セイガも女性に対して見境がなくなってしまった――というのを、女性に詰め寄られた時の言い訳に活用していたりする。
「自分の命優先で何が悪い」
そう言うとジオは押し黙った。恐らく呆れているのだろう。
人間は誰だって自分よがりだというのに理不尽だなと、セイガは頬杖をついた。
ふと、居心地悪そうにしている舞子を改めて見つめる。
邪魔そうな長い前髪とボサッとしたワンピース姿はかなり陰気な印象を与えている。性格も見た目に反さず、ネガティブ思考だ。
そんな彼女がどうしてまたシロ星に来てくれたのかが気になった。
連れて来ておいてなんだが、一度は嫌がって帰ってしまったはずだというのに。
「舞子ちゃんはさあ、シロ星を救いたいって思ってくれてるの?」
思いもよらない質問だったのだろうか。前髪から覗く瞳が大きく見開く。
それから何かを見定めるように顔をしかめて、「あー」だの「うー」だの言葉にならない声を発している。
もしかしたら、返答次第では何かされると思っているのかもしれない。
まるで、怯えた小動物を見ているようだ。
セイガの周りには華やかな女性ばかりが集まるから、舞子のようなタイプはかなり新鮮だったりする。彼女のオロオロとした様は、ついつい抱き締めて頭を撫でてあげたくなったりするのだが、ジオの前でやれば確実に殺されそうだし、舞子には余計に怯えられそうなのでやらないが。
自分では華やかな女性がタイプだと思ってきたが、舞子のような大人しいタイプもいいかもしれないと思いつつある。
思ったよりも、自分のストライクゾーンは広いらしい。
ただし、あくまでも優先順位は自分が上なので、敵対すべき相手が女性だとしても簡単に裏切ることができる。
舞子だって、必要ならば本当に息の根を止めていたかもしれない。
「嫌だな、舞子ちゃん。僕は純粋に聞いてるだけさ。シロ星は君にとって大した価値がないこともわかってるから」
安心させる為に笑顔を浮かべてやるが、舞子は慌てたように首を横に振った。
「そ、そんなことは……! わ、私なんかより、よっぽど価値があるかと……」
さすがネガティブ思考は返し方もネガティブである。面白い。
セイガの生暖かい視線に気付いてか、彼女はハッとして俯いてしまった。
操縦をそっちのけで声を掛けようとするジオを手で制し、セイガは舞子の名前を呼んだ。
沈黙が続いたが、やがて彼女は少しだけ顔を上げて口を開いた。
「……ただ、怖かっただけです」
「え?」
理由を答えたのだろうか。しかし謎過ぎる理由だ。
「えーと……それ理由になってないような?」
怖かったのならば、普通来ないだろう。
「ダーク星人は怖いです。というかもう……皆さん怖いんですけど」
「ああ~、ジオが素の時とかすんごいビビってたもんね」
ガクンッと宇宙船が小さく揺れる。明らかにジオが動揺した為だろう。本人は真顔だが、操縦している間は奴をイジるのはやめようと誓うセイガだった。
「あの、でも……もっと怖いことがあったんです」
椅子に座り直して舞子はぼそりと呟く。
「ふうん? どんなこと?」
セイガも座り直して続きを促すと、舞子は俯いたまま自分の腕をギュッと掴んだ。
「ジオくんが……死んじゃうと思った時、です」
ガクンッ。
またもや機体が揺れた。
「ま、舞子さま……」
ジオは信じられないものでも見るような顔で彼女を見た。
すっかりとハンドルを離して。
「って、おい!? 前見ろ、操縦忘れんな!」
慌ててセイガは立ち上がり、舞子の頭上でジオの頭をひっぱたく。
ジオは放心したままハンドルを握り直す。
――どんだけ精神弱いんだよ。
昔から舞子のことになると馬鹿になることは知っていたが、本人を目の前にするとこんなにも腰抜けになるとは想像していなかった。
溜め息をつきながら髪を掻き上げ、座っている二人を見下ろす。舞子は少し慌てていた。
「あ、あの……つまり、ですね。私が何もしなかったせいで、誰かが死んでしまうことが……すごく、怖いんです」
何となく、わかるような気がした。
自分の責任になるのが怖いのだろう。
「だってさ、ジオ。お前が心配だったからってわけじゃなさそうだ」
「ええ!? い、いえ、一概にそうというわけでは……も、もちろん、心配はしてて、ですね!」
「舞子さま……こんなおれのことを……ありがとうございます!」
言い訳がましい彼女の言葉にも、ジオは感動しているようだ。さすがドン引きの救世主マニアである。
「ところでさあ、舞子ちゃんって京君と同級生なんだよね?」
オババ様に聞いた情報と、ジオの今までのストーカー紛いの行動から判明している情報だ。
何の偶然か、救世主の力を持った二人は、同じ学校の生徒だった。いや、救世主が意図したこととも考えられるのだが。
「もしかすると京君と対立しなくちゃならない可能性もあるからさ。舞子ちゃん、大丈夫?」
舞子は首を傾げて「はあ」と呟いた。
「……同級生と言っても、一度も話したことないですし……対立と言われても、ピンとこないですし……正直、よくわかりません……」
「ふ~ん、そっか」
京について粗方は舞子に説明はした。まあ、救世主の力を独り占めして転生を続けていたなどと言っても、彼女はピンとこない様子ではあったが。
しかし一度も話したことがないならただの他人も同然なわけで問題なしということだ。
外に視線を移せば、暗雲の立ち込めたシロ星が見えてきた。 あとは救世主と京がどう出るか――
セイガは面倒だなと思いながらシロ星を見つめたのだった。
シロ星に着くと、何がどうしてそうなったのか、ルイと男数人がダーク星へ向かおうとしていたところだった。
皆は広場に集まり、宇宙船に乗り込もうとしていたのだ。
「ふふ、最高のタイミングで帰ってきて下さいましたわね、舞子さん」
リョウカは舞子に歩み寄って扇子を口元に寄せ、したり顔で微笑んだ。
ルイ達も驚いたように舞子を見て、宇宙船に乗り込もうとする足を止めた。
セイガは京の姿を探すが、彼は見当たらない。
「京君の姿が見えないけど」
「長老の家にいるわ」
「……彼を置いてダーク星へ?」
「あなた達が来るのがあと数分遅ければ、出立していたわね」
京がダーク星を救うことになったのではないのか。彼なしにダーク星に乗り込むなんて無謀過ぎる。
「僕達がいない間に何があったんだ?」
半ば呆れながらリョウカに問うが、彼女はお構いなしに「京様のところへご案内します」とおどおどする舞子の手を取り、ルイ達を振り返る。
「ルイ。舞子さんが戻ったのだから、一旦中止にしましょう」
ルイは表情を歪めた。
「はあ!? ここまできてやめるとか……! ってゆーか、救世主の力を持ってないんじゃ無意味――」
「救世主の力なら目覚めてる。シロ星を救う協力もして下さるそうだ。お前が行くより可能性は断然高い」
ルイの言葉を遮り、ジオが淡々と告げると町民はざわついた。
「本当か、ジオ!?」
「それじゃあ、彼女が本物の救世主様だったのか!」
「俺は最初からそう思ってたんだよなあ!」
手のひらを返したように舞子へ期待の視線を向けてくる。
「ちょ、ちょっと皆!?」
唖然とするルイだが、誰も彼女のことには目もくれない。
「哀れなルイちゃん」
「うっさいわ!!」
同情してあげたのに怒られた。
何はともあれ京のもとへ行かねば話は進みそうにないと判断したセイガは、やむなくリョウカに従うことにする。
「後でちゃんと説明してくれよ」
「あら、もちろんよ」
抜け目がない性格のリョウカのことだから間違いはないだろうと思うのだが、これまで色々と出し抜かれることもあったので素直に従いたくないのが本音だったりする。
結局、ルイも渋々承知したらしく、前を歩くリョウカと舞子に恨みがましい視線を向けながらついてきた。
しかし大勢が集まってしまうとさすがに収拾がつかない為、セイガ、ジオ、リョウカ、ルイ、舞子の五人のみで長老の家へと向かうことで町民達と話をつけた。セイガ達の実力は認められている為、反対する者は誰もいなかった。
セイガはルイの横につく。
「聞きたいんだけど、ルイちゃんは何でダーク星なんかに行こうとしたの?」
相当苛立っているらしい彼女は唇を尖らせ拳を握り締めた。
「ダーク星人の奴ら、マルクを誘拐しやがったの。あと、行方不明になってたシロ星人も人質として囚われてるって」
マルクは確かルイのチームメイトだったか。ご愁傷様である。しかし行方不明になっていた人達が生け捕りにされていたのなら、喜ぶ者達もいただろう。
「……吉報と凶報が一気に舞い降りた感じだね」
「確かに行方不明の皆が生きてたことは吉報だけど、ただ人質が増えただけだよ。何も状況は変わってない」
「うーん、それもそうか。それで京君は? 」
キッと睨み付けられ、突然胸ぐらを掴まれた。
「人質ごとダーク星をぶっ壊すって宣言しやがったの!」
自分のせいではないので八つ当たりは勘弁してほしい。どうにか彼女の手から抜け出そうとした時、横から彼女の手をやんわりと抑える手が現れた。
「落ち着け」
ジオだった。
「……あたしは冷静だけど」
セイガの胸ぐらから手を離して、ジオの手も振り払う。
「だったら、マルクのことでお前が責任を感じることはない。たまたまダーク星人に目を付けられた。ただそれだけのことだ。冷静なら理解できるだろ?」
ルイは図星を突かれたのか絶句し、妙な呻き声を上げて鼻息荒く顔を逸らした。
すると前を歩いていたリョウカがやれやれといった様子で振り返る。
「せっかちね、着いたら全部説明しようと思っていたのに。でも一つだけ追加しておくわ。ボウも誘拐されたのよ。可哀想だから覚えておいてあげてね、特にジオ」
そう言ってウィンクを投げ掛ける。
「……あの馬鹿」
頭に手を当て疲れたように溜め息をつくジオを見てこちらもご愁傷様だなとセイガは同情した。
「まあ、何となく状況は掴めたよ。その様子なら京君にも話はつけてるんだろ?」
「ええ。あとは舞子さんと京様に懸かってますの」
「……は、はあ」
事情が飲み込めていないのだろう。相変わらず覇気のない返事をする舞子だが、リョウカは気に留める様子もなく歩を進める。
「さあ、あそこが長老の家ですわ」
古びた、けれども大きく立派な木造の屋敷。
中へ入ると随分と深刻そうな表情の長老が迎えてくれた。
「舞子殿、よくぞ戻られた」
「す、すみませんでした……」
重々しい雰囲気に気圧されたのか、舞子は引き気味に謝罪の言葉を述べる。
「舞子さま、謝る必要はありません」
ジオは彼女をフォローしつつ、長老にオババ様の所在を問うと「舞子殿の力を感知し、すでに奥におる」と言って長老は全員を中へ誘う。
大部屋へと通され、すでに待機していたオババ様へ挨拶をしながら中央にある囲炉裏を囲んでそれぞれ座った。
しかし、京の姿はない。
「お初にお目にかかります、舞子殿」
オババ様は相変わらずマイペースな調子で微笑み掛けた。
舞子は少し上擦った声で「初めまして」と返す。
「妾は初代救世主様の子孫でございます。そこのジオは孫ですじゃ」
「そ、そうなんですか」
舞子の動揺もそのままに、長老は咳払いをした。
「顔合わせも済んだことですし、さっそく本題に入らせて頂いてもよろしいか」
長老の言葉に誰も反対する者はいない。彼は舞子を見据えてそのまま言葉を続ける。
「単刀直入に伺いますが、舞子殿の救世主様の力は目覚めておられるのか」
「もちろん、ガッツリと」
雰囲気に呑まれている舞子の代わりにセイガは答えた。
「そうか……」
長老はほっとした表情でひげを撫でる。
「で、とりあえず舞子ちゃんを連れて来たのはいいとして、結局京君だとシロ星の安泰は望めない状況ということですか?」
ルイの話では人質ごと破壊するつもりらしいから当然ではあろう。セイガとしては多少の犠牲もやむを得ない、と思ったりもしてしまうのだが、長老の立場ではそれもできまい。
長老は沈んだ顔で頷くと、リョウカが「ただ――」と付け加える。
「京様は舞子さんを連れて来れば別の方法を取る、と仰っていたわ」
それはつまり、共同戦線をするつもりなのだろうか。
「ちょっと待ってよ。肝心の安久津京はどこなのさ」
苛立つルイの疑問はもっともだ。
その時、襖の向こうから呑気なあくびをする声が聞こえた。
「あ~よく寝たぜ」
噂をすればなんとやら。襖を開いて入ってきたのは京だった。
「お、全員揃ってんじゃねえか。……へえ。本当に救世主は笹森の中で巣食ってたわけか」
彼が不敵な笑みを浮かべると、舞子は萎縮する。
「舞子ちゃん、救世主様はまだ何も話さないのかい?」
もうシロ星に着いたのだ。この星を救う手立てなどについて考えてもらわねばならない。京と救世主の意見の擦り合わせが必要だろう。
彼女を見ると、その表情は曇り首を横に振るのみ。
「オレと話す気はねえってことだろ」
「だったら京君が進行してくれれば問題ないよ。方法はちゃんと考えてあるんだろう?」
鼻で笑う京にセイガは話を促すと、彼は肩を竦めて襖に背を預けた。
「ダーク星には三つの動力源が存在する」
「……それはダーク星人の命、と置き換えてもいいのかな」
「構わねえよ。奴らの本体みたいなもんか。あれが存在する限り、いくら殺しても奴らは簡単に増殖する」
ルイは眉をひそめた。
「動力源って……一体何でできてるの?」
「あいつらは負のエネルギーの集合体だ」
「どういう……ことだね?」
動揺を隠しきれない様子の長老。
「そのままの意味さ。定義にもよるかもしれねえけど、無機生命体と言えばしっくりくるか」
負のエネルギーに意思が宿った、ということなのか。
「前回は二つまで破壊できたんだが、色々あって最後の一個だけは封印するに止めた」
「じゃあ、残りはあと一つなんですの?」
リョウカの問いに、しかし京は否定した。
「復活して三つに戻ってるみたいだぜ。恐らく、全部破壊しなきゃ意味ないんだろうよ」
「今回はそれができるっての?」
疑わし気に訪ねるルイに、京は「もちろんだ」と難なく答える。
「オレが長年蓄えた力がある。だが残念ながら、笹森に力を半分持ってかれてるから、協力しなくちゃなんねえけど」
「………………」
舞子は居たたまれなさそうに俯く。京は仁王立ちに佇んだ。
「まず、メンバーはオレと笹森。あとはお前ら四人でいい」
四人――セイガ、ジオ、ルイ、リョウカのことだろう。
「そんな人数で足りるのか?」
「足りる。お前らはこの星では実力者なんだろ?」
小馬鹿にするような言い方にムッとするジオだったが、特に言い返すつもりはないらしい。
「人質も連れ出さなくちゃなんねえから、足手まといはどうしたって増える。それなのにわざわざ足手まといを連れてく必要はないだろ」
先程誘拐されたのはマルクとボウ、行方不明者は十数人いる。 助け出しても疲労と精神的ダメージで役立つ者はいないかもしれない。
今の京の台詞を公言したら確実に非難されるだろうが、セイガも異論はなかった。
「いいか、あくまで目的は動力源の破壊であって、ダーク星人の全滅じゃねえ。動力源を破壊できるのはオレと笹森の力だけだ。お前ら四人はオレ達のフォローをすればそれでいい」
「なんかムカつくんですけど」
「ルイったら、心が狭いわよ」
セイガとしては自分が助かるならそれでいい。自ら矢面に立つのはもちろん嫌なのだが、それで勝算が上がるのであれば何ら問題はない。
というわけでルイの気持ちはわかるのだが、今はリョウカに乗っかるべきなのだろう。
「ルイちゃん。心を豊かにすれば自然と胸も豊かになるはずだよ」
「大きなお世話だから!?」
期待を裏切らないいい反応である。
「ま、そいつの貧乳は置いといて」
「置いといていいけどなんか納得したくないぃ!」
頭を抱えるルイだが、京はそのまま説明を続ける。
「動力源の二つはルイの胸並みの小ささだから、オレと笹森で二手に別れても破壊できるはずだ。その途中で人質も探す。三つ目は二人の力が必要だから、その後合流してから破壊する」
「置いといたクセにさらっとあたしの胸で例えんなぁ!!」
苦痛の叫び声が上がるが、哀れなことに誰も反応を示さない。
「本当に……成功できますか」
長老は険しい表情を京に向けた。
京も視線を返し一瞬無言になるが、すぐに不敵な笑みを浮かべて言った。
「オレは救世主だからな」
少し不安そうな長老であったが、オババ様が「ほほほ」と笑った。
「このお二方ならば大丈夫じゃろう。妾達はただ皆の無事を祈り待つだけじゃ」
そう言ってゆっくりと立ち上がって舞子の前に座り、シワシワの手で彼女の手を包み込む。
「気負うな、というのは無理なことかもしれませぬが、どうぞ無理だけはなさらぬように。いざという時は、ジオが舞子殿の盾になりましょう。のう、ジオ?」
「当たり前だろ、婆ちゃん!」
大きな声にビクつく舞子だが、「あ、ありがとう」とか細い声で答え、オババ様は「ほほほ」と笑う。
「妾達の我が儘に付き合って下さり、本当に感謝しております」
ゆっくりと頭を下げる彼女に、舞子はおろおろし出す。
「だ、大丈夫です! 正直、自信はありませんけど……私は、おばあさん達を助けたいと思ってますから……!」
今までで一番頼もしい返事を聞いた気がする。
相手がオババ様だからか。さすがはおばあちゃん子とでも言うべきなのだろうか。
オババ様が微笑むと、舞子も少し照れながら微笑んだ。
長老も「ご武運をお祈りしています」とだけ告げ、話し合いは終わったのだった。
京の計画はすぐに町民達に知れ渡った。自分達も行くと言ってきかない連中が多く出てきたが、長老の説得により何とか納得してくれたようだった。
事態は一刻を争う為、明日にはダーク星へ出立することになっている。
舞子と京は長老宅に世話になるらしい。他の皆も自宅へと向かったので、セイガも帰ろうとしていた途中、何か異様な視線を感じた。
振り返ると、枯れ果てた巨木が目に入る。
そしてその木の下には、見覚えのある人物が佇んでいた。
ブロンドの髪に大きなわっかのピアス――
「ミーアじゃないか」
彼女はどこか虚ろな眼差しをセイガに向けていた。
「セイガ……ダーク星に行くの?」
様子がおかしい。いつもならキャピキャピしたテンションだというのに、まるで抜け殻のようである。
「ああ、町で聞いた? 舞子ちゃんも随分と頼もしい返事をしてくれたし、これでようやく明るい空を取り戻せるかな」
ニコリと微笑むが、いつも喜ぶはずの彼女の表情は逆に泣きそうなほどに表情を歪めた。
「そう…………」
「ミーア?」
顔を覗き込もうとすると、彼女はサッと身を引く。
「……どうして……他の女の名前を、呼ぶの……」
「え……?」
聞き返す前に、彼女は身を翻して駆け出してしまった。
頑張れば追い付けるかもしれないが、そこまでする必要性も感じられなかった。
――ミーアにもそろそろ嫌われたのかな。
近付いてくる女は最終的には必ず離れてゆく。理由は解りきっている。セイガは決して、彼女達の手を取らないからだ。
不意に、オババ様に見せた舞子の笑顔が頭に浮かぶ。
「……彼女に手を出さなければいいんだけど」
ミーアの様子だとあり得ない事態ではないかもしれない。
とはいえ長老の家にいるのだから、そうそう手も出せないだろう。
しかし、その考えが甘かった。
舞子と京が行方不明になったと聞かされたのは、その翌日のことだった――




