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救世主の目覚め

「おばあちゃん!」

 家に着いて早々、舞子は茶の間にいた伊代に抱き付いた。

「舞子、もう帰ってきたのかい?」

 伊代は驚きながらも舞子の様子に気付いたのか、しっかりと抱きとめ頭を撫でてくれた。

 やはり伊代の匂いは落ち着く。先程までの不安と緊張感が一気に消え、涙が溢れそうになる。

「連城君と福武君はどうしたんだい?」

「もう……会いたくない」

 伊代の胸の中で涙声で小さく呟いた。

「……まったくお前は。いつまでたっても甘えん坊だねぇ」

 伊代は苦笑しながら舞子をべりっと引き剥がしてしまう。

「ちゃんと何があったのか話してごらん」

 話したい。だけど伊代がどこまで知っているのかわからない以上、下手なことは話せない。セイガの脅しもあるし、巻き込みたくはないのだ。

 しかし伊代は舞子の心配を余所に快活に笑ってみせた。

「大丈夫。連城君から事情は聞いてるよ。信じろってのが無理な話だけど、宇宙人なんだろ?」

「し、知ってたの!?」

 溢れそうだった涙が一気に引っ込んだ。

「話半分に聞いてたけどね。だけど舞子が学校の、しかも男の子と接点ができるなんてことも同じくらい信じられなかったからねぇ」

 ――それは同列で並べられてしまうものなのか。

 しみじみと言う伊代に、自分はどれだけ消極的な性格だと思われているのかと若干切なくなる。

 もちろん否定はできなかったのだが。

「でも、これはチャンスだと思ったんだよ。舞子が何か少しでも変わってくれるんじゃないかって」

「お、おばあちゃん……」

 祖母にそんなことを思わせている自分が情けない。

 そう思って俯くと、「舞子が嫌なら仕方ないけどね」と頭を撫でられた。

「ほら、何があったのか話してごらん」

 舞子は再び涙を浮かべ、シロ星での出来事をとつとつと語った。

 シロ星やダーク星人のこと、救世主やクラスメイトの安久津京のこと、結局舞子には救世主としての力などなく、逃げ帰ってきたことなどを包み隠さず話した。

 伊代はうんうんと相槌を打ちながら、まったく驚くことなく静かに話を聞いてくれた。さすがは年の功と言うべきか。

 一通り話終えると、伊代はニカッと微笑む。

「青春だねぇ」

「……ど、どこが?」

 青春を感じる要素は一切ないと思われる。

「たけど、かなり危険なことに巻き込まれてるようだね」

 舞子の疑問はそのままに、話がガラリと変更される。

「え、あ……うん」

 危険は危険だろう。実際、あのダーク星人から攻撃を受けそうになった。京がいなければ死んでいたかもしれない。

 伊代は「これでよかったのかもね」と呟き、立ち上がる。

「とにかく、今日はもう休みなさい。お腹空いてるなら何か作ってあげるけど」

 舞子は「いらない」と首を振る。食欲なんてまるでわかなかった。

 ふと、別れ際のジオの顔が浮かぶ。

 とても――悲しそうだった。

 シロ星は、助かるのだろうか。

 いや、大丈夫だ。京がいる。彼は見た目も強そうだし、一人で十分とまで言っていたし、きっと問題ないだろう。自分がいたところでただの足手まといにしかならないのだから。

「……もう寝るね、お休みなさい」

 涙を拭って部屋へと戻る。

 明日からはまた、日常の生活に戻るのだ。



 ――というのは 、儚くも希望的観測であった。

 明けて翌日の午後。シロ星のことを引きずりながらも、何もすることがなかった舞子は、部屋で夏休みの宿題に取り掛かっていたのだが、階下から「茶の間に来なさい」と伊代の呼び声が聞こえた。

 何か家事の手伝いでも頼まれるのかと気楽な気持ちで向かった先には――

「やあ、舞子ちゃん。一日振りだね」

 大変身に覚えのある人物が二人待ち構えていた。

 一人はお茶を優雅にすするセイガと、もう一人は気まずそうにチラチラ視線を送ってくるジオだった。

 ――もう迎えに来た!

 舞子は青ざめ、絶望的な気持ちになる。

「わ、私はもう、戻りません……!」

 一歩後退りながらもどうにか言葉を紡ぐと、セイガは「友好的に話そうよ」と微笑み、立ち上がってこちらにスタスタと歩いてきた。

 がしりと両肩を掴まれ、思わずびくりと震えてしまう。

 彼の髪がサラリと頬を掠めるほどに端正な顔を近付けられる。

「悪いようにはしないからさ」

 その笑顔はとても爽やかとは言えない、とても腹黒い笑みだった。台詞だって悪人のような言い方である。

「おい、そういう脅しはやめろって言ってんだろ!」

 セイガの体が一瞬にして離れた。彼の背後に来たジオが引き剥がしてくれたらしい。

 セイガは半目でジオに視線を送る。

「……まだ脅し文句の一つも言ってないんだけど」

「もうその態度が脅しになってんだよ!」

 その通りだ。叫ぶジオに、舞子は心の中で同意する。

 するとセイガは舞子の後ろに視線を向けた。

「伊代さんはどっちについてくれるんです?」

 後ろを振り向けば祖母が立っていた。

「ははは、面白いことを言うねぇ。どっちも何も、私は最初から舞子の味方さ」

 笑っているけれど、どこか好戦的な雰囲気を醸し出している伊代。スーパーの特売開始十分前の気が立っている時と似ていると舞子は思う。

「人んちの孫を、随分と危険な目に遭わせてくれたようだしね」

「す、すみません!!」

 伊代の明らかな嫌味に、すかさずジオが頭を下げた。

 ――なんだ、この緊迫した空気は。

 舞子はアワアワしながら、その様子を見守ることしかできない。

「……確かに、返す言葉もありませんね」

 苦笑し、肩を竦めるセイガ。

「でも、シロ星を救ってもらうには、それは致し方のないことなんですよ。僕らでも歯が立たない奴らを相手にしてもらうわけですから」

「まあ、そっちも差し迫った状況だってのは理解してるつもりだよ。でも私にとっても大事な孫だからね。今のままじゃ、舞子は渡せないね」

 セイガは片眉をピクリと吊り上げ、何やらしばし考え込む。

 そして「……そういうことですね」と口角を上げて呟いた。

「ジオ、今日は退散しよう」

「おい!?」

「今のままじゃ、彼女を連れ帰ったって、こっちとしても無意味だからさ」

 セイガと目が合い、ウィンクされる。

「すぐに出直すから、待っててね、舞子ちゃん」

 そう言い残すと、すぐさま玄関へと歩き出す。

「マジで帰るのか!? ま、舞子さま、伊代さん、とにもかくにもご迷惑お掛けしてすみませんでした! 一旦失礼します!!」

 ジオも慌ててセイガの後を追った。

 まるで嵐が過ぎ去ったかのようだ。二人がいなくなると、急にしんとなる。

「……さて、どう出るかねぇ」

「お、おばあちゃん……今の会話は、どういうことなの……?」

 不気味に「ふふふ」と笑う祖母の様子を伺いながら、疑問を投げ掛ける。

「そのままの意味さ。今の舞子じゃ、必ず宇宙人に返り討ちに合う。本当に舞子が救世主だというなら、その証拠ぐらい見せてもらわないとね」

 さも当然、といった様子で伊代は胸を張った。

 嫌な予感がしてならない。

 その日の夜、舞子はよくわからない不安に襲われ、ほとんど眠れなかった。



 はたまた明けて翌日。

 起きたのは昼過ぎだった。舞子は休みの日でも九時には起きるのが習性だったのだが、昨日のせいで二度寝した為、こんな時間になってしまったのだ。

 ――眠い。

 軽く十時間以上は寝ているはずなのだが、二度寝のすっきりしなさは最悪である。

 服を着替え、顔を洗いに一階に降りると、

「やあ、舞子ちゃん。お寝坊さんだね」

 昨日見たばかりの人物が、相変わらず無駄に爽やかな笑顔を浮かべて目の前に現れた。

 思わず「ひぃっ!」と悲鳴がこぼれる。

「……女の子からそんな恐怖の悲鳴を上げられるなんて初めてだよ」

 わざとらしく肩を落とすと、彼の後ろから「お前の日頃の行いだろ」と不機嫌そうな声が聞こえた。

「日頃は黄色い悲鳴ばっかだけど?」

「……言ってろ」

 セイガとジオのやり取りも、恐怖に怯えた舞子の耳には入ってこない。

 一昨日の昨日で、昨日の今日だ。今度は何をしにきたのか。ジオがセイガを押しやり前に出てくる。

「舞子さま、度々お邪魔してすみません! 今日はですね、少しお話が……」

「散歩! 散歩しよう、舞子ちゃん!」

 にも関わらず、セイガが両手を広げて高らかに言った。

 ――な、何故、散歩?

 もちろん素直に頷けるわけもなく、一歩引くのだが、

「いいじゃないか。行っておやりよ、舞子」

 伊代が奥から顔を出して、軽い調子で許可を出された。

 しかし舞子としてはまったく行く気が起きない。すがるような気持ちで祖母を見つめると、こちらに近寄ってきた。

 断ってくれるのかなという淡い期待を抱くものの、「いってらっしゃい」と背中を押され、有無を言わせない雰囲気で強制的に送り出そうとしてきた。

「ま、待って……!」

「伊代さん、ありがとうございます。さあ、行くよ!」

 セイガは舞子の腕を掴み、外へと向かった。

 ジオは申し訳なさそうにしながらも止めてはくれず、後ろを黙ってついてくる。

 味方は誰もいない。嫌々ながら靴を履き替え玄関を出る。

 ――あ、顔洗ってないや。

 しかしそれを言い出せるような状況でもない。

「あまり長く連れ回さないでおくれよ」という祖母の何故か楽しそうに聞こえる言葉を背中越しに聞きながら、玄関の戸がバタリと閉じられた。

 外は相変わらず暑かった。

 夏の真っ昼間の中を起き抜けに歩くのはかなりキツいものがある。セイガに腕を掴まれているので、ほぼ彼に引きずられた形で歩いているようなものだ。だけど強引過ぎる行動には反発したい。

「……一人で歩けますので、離して下さい」

「離したら舞子ちゃんすぐへばりそうだから、気にしないで」

 失礼なような気もしたが、正直ありがたいような気もした。暑さで思考回路もままならない。涼しげなセイガの笑顔を眺め「はあ」とだけ頷く。

 どこへ向かうのかと思えば、学校近くの廃ビルだった。

 長らく放置されているので、幽霊とか変態が出るなどと妙な噂があり、ほとんど人が立ち寄らない場所である。

 初めて中へと入ったが、意外と広いビルだった。一階はロビーだったのか、壊れたソファーやテーブルがいくつか置いてあるが他は何もなく、だだっ広いホールのようだ。壁は煤けたように黒いシミがいくつもあり、昼間とはいえ薄暗くて気味が悪い。

 変な噂が立つのも納得できる雰囲気である。

「こ、ここで一体何をするつもりですか……?」

 思いもよらない場所に到着し、セイガを見上げる。

 彼は笑顔のままゆっくりとこちらを振り向いた。

「――死んでくれる?」

 ――え?

 とても暑いのに、寒気がした。

「な、何を……」

「もうこれしか方法がなくてさ。なあ、ジオ」

 ジオを見るが、俯いたまま視線を合わせてはくれなかった。

 掴まれた腕が痛い。体が震える。

「あ、あの……!」

「ごめんね、舞子ちゃん」

 セイガがもう片方の手を振り上げると、蒼白い光の球が生まれた。電気のようにパリパリと音を立てたそれを、一気に胸に押し付けられる。

「なっ……!」

 電流が走っているかのように全身が痺れるような感覚に陥る。

「セ、セイガ……!」

 後ろでジオが動揺の声を上げた。

 セイガは「今さら怖じ気づくなよ」と彼を一瞥し、

「……舞子ちゃん、悪いけど、まだこれは序の口なんだよね」

 冷たく言い放たれ、痺れはさらに強くなって痛みを伴うようになってくる。

 ――本当に、殺すつもりなの……?

 逃れようとはするのだが、掴まれた手を振りほどくほどの力も出ない。

 あまりの出来事に、どういう感情を抱けばいいのかもわからない。

 ――どくん、どくん。

 急に、心臓の鼓動が大きくなった。

『――舞子』

 どこからなのか、頭に声が響く。

「…………だ、れ?」

「余計なことをするナ、シロ星人ヨ」

 苦しいながらも紡ぎだした疑問の言葉に返ってきたのは、明らかに別の声だった。

 それも、できれば二度と会いたくない相手。

「ダーク星人!?」

 ジオの叫びに、セイガの手が止まる。

 舞子は痺れから解放され倒れそうになるが、腕を掴んでいたセイガに抱き寄せられる。

「タイミング最悪過ぎるだろ」

 舌打ちするセイガの腕の中で、舞子は体に残る痛みに耐えながらダーク星人に視線を合わせる。

 相変わらず表情も何も読めないツルテカの物体が一体だけ佇んでいた。

「セイガ、舞子さまを離すなよ!」

 ジオがダーク星人の前に立ち塞がる。

 セイガは苦虫を噛み潰したような表情で、舞子を見下ろす。

「……まだ、駄目なのか?」

「え……?」

 力も入らず頭も働かず、舞子は放心状態である。

『――舞子』

 ――まただ。また聞こえる。

 彼らには聞こえていないのだろうか。

 誰かが自分の名前を呼ぶ声が。

「はあっ!」

 ジオがダーク星人に向かって蹴りを入れた。しかし、ダーク星人はふわりと宙返りをして軽く避けてしまう。

「シロ星人ヨ、調子に乗るナ。救世主など、ワレワレの敵ではなイ。キサマ達はどう足掻いても、ワレワレには勝てなイ。それが――運命さだめなのダ」

「ふざけるな!」

 ジオは緑色の光を纏った拳や足をダーク星人へと豪快に繰り出すものの、ダーク星人は体を柔らかく変形させては、その攻撃をかわしてゆく。

「そういう割には、僕達の邪魔をしてくれるじゃないか」

 その様子を眺めながら、セイガは忌々しそうに吐き捨てた。

 舞子は体の痛みが段々と引いていき、少しずつまともな思考回路に戻りつつあった。

「な、何でダーク星人が地球に……?」

「『余計なことをするナ』って言われたから、僕達の狙いがわかってたってことだろうな」

「どういう……意味ですか」

 セイガの胸を少し押して離れ、舞子は問う。

「あのダーク星人と初めて会った時、何か言われなかった?」

 初めて会った時――

 そうだ。いきなり攻撃されそうになったのだ。

 京が助けてくれたおかげで命拾いしているのだが。

 ダーク星人は舞子を見て、何か驚いていたのは確かである。

「心当たりはあるのかな? 僕の予想では、舞子ちゃんに救世主の力があることを、あいつらは見抜いてるんだと思うよ。だからここまで監視に来たってところだろ」

 セイガは鼻で笑いながら「救世主を恐れてるクセに強がっちゃってさ」と文句を垂れた。

 確かに彼の言う通りならば、地球にまで現れた理由は納得できる。だが一つだけわからないことがある。

「……ちょっと、待って下さい。余計なことっていうのは、私を殺そうとすることですか……?」

 それはダーク星人にとっては寧ろ好都合なことではないのか。

「いや、それは――」

 セイガが何か言い掛けた時、ジオが床に思い切り叩きつけられ、苦悶の声が響いた。

「ジ、ジオくん……!」

 いつの間にか、ダーク星人は三体に増殖していた。

「……まずいな」

 セイガの表情が曇る。

 ダーク星人の一体が、床に倒れ伏したジオの腹を思い切り踏みつける。

「ぐはっ!」

 呻くジオの姿を見ていられず、舞子は目を背けた。

「危険分子だけを排除する予定であったが、キサマらシロ星人も、ここで朽ち果てるがいイ」

 ――だ、駄目だ。怖い。

 体がまた震えてきた。

 でも、このままではジオが殺されてしまう。

 ――嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。

『――舞子、お前には力がある。我を信じろ』

 今度ははっきりと声が聞こえた。

 凛々しい雰囲気の、女性の声だろうか。

「――だ、誰なの?」

「舞子ちゃん……?」

 訝しむセイガに、舞子もただ戸惑うしかない。

「――死ネ」

 その時、ダーク星人三体が両手を掲げ、巨大な黒い光が上空に現れた。

 彼らの力について知らない舞子でも、相当まずい状況であることは伺える。

「くそっ!」

 セイガはジオに駆け寄ろうと動き出す。

 ――駄目。駄目だよ!

 間に合うわけがない。避けられるわけがない。

「やめてぇ!!」

 舞子は力の限り叫んだ。

 その瞬間、体から熱い何かが湧き出てくるような感覚がし、強風が巻き起こる。

 ダーク星人は舞子に気を取られ、セイガはその隙を逃さず、ジオを担いで距離を取る。

「まさか、目覚めたのカ――?」

 黒い目が僅かに歪められる。

『己の右手に力を込めろ』

「え?」

 声に従って思わず右手を見る。

『力が欲しいと願え』

 ――願えと言われても。

『早くしろ!』

「は、はいぃ!」

 いきなり怒鳴られ、仕方なく「力が欲しい、力が欲しい」と右手を見続けながらひたすら呪文のように唱えた。

 すると徐々に右手が熱くなり、青く光輝き出す。それはすぐに大きくなり、形を成していく。

 そしていつの間にか青く輝く剣となり、舞子の右手に収まっていた。

「や、やったぜ、ジオ……! 舞子ちゃんが目覚めた!」

「……ああ!」

 二人は青い剣を持つ舞子に感動しているようだった。

『お前には我のサポートが必要だろう。構わぬ、その剣をあのダーク星人へ振り上げろ』

 ダーク星人三体は舞子の動向を伺っているようでまだ動く気配はないのだが、黒い目玉が六つ、一挙一動も見逃してなるものかという様子でこちらを凝視してくるので恐怖が湧く。

 ――構う、構いまくる!

 舞子は聞こえてくる声に突っ込みながら、足が竦んで動けなくなる。

『舞子、聞いているのか?』

「……き、聞こえません! っていうか、む、無理です!」

 しばし無言だったが、すぅっと息を吸う音が聞こえ、

『いいから早くしろ!!』

 またもや怒鳴られた。

 しかし舞子も譲れない。何せただの一般高校生なのだ。いや、一般よりも低レベルな分類であると自負できる。そんな自分が剣を持って、謎の宇宙人に立ち向かう度胸などあるわけもなく。

 幾度か怒鳴られながらも葛藤していると、「舞子さま!」とジオが走り寄ってきた。

 ダーク星人にひどくやられていたようだが、まったく怪我をしているとは感じられないほどに元気に動けるようだ。

「救世主様は――いえ、初代救世主様は、その剣で戦えと言ってるんですね?」

「え、えっと……」

 救世主と言われ一瞬何のことかと考えてしまったが、まさかこの声が救世主だというのか。初代というのは確か、最初にシロ星を救った人のことだったか。

『その少年の言う通り、我は救世主と呼ばれる者だ』

「そ、そうだったんですか……!?」

 まさかの女性。いや、驚くべきことは他にもある気はしたのだが。

「初代救世主様と会話をなさってるんですか?」

 不思議そうに首を傾げるジオに、もしかしてこの声は自分にしか聞こえていないのかと気付く。

「いつまで無駄口を叩いているつもりダ」

 肩がびくりと震えた。

 ダーク星人が苛立っている。いや、見た目では一切わからないのだが、声が明らかに不機嫌そうだ。

『舞子! とにかく剣を振れ、我を信じろ!』

「来ないのなら、こちらから攻めるまデ」

 同時に言われ、もう何をどうすればいいのか、危機感すらもあやふやだ。

 その時、剣を持った右手に温かな感触が伝わる。

「舞子さま、一人で戦う必要はありません。おれも一緒に戦います」

 ジオの手が舞子の手を包んでいた。

「ジ、ジオくん……」

 彼の笑顔がとても頼もしく映った。

『来るぞ!』

 振り向くとダーク星人がこちらに向かって駆け出していた。その途中で、三体は勢いよくぶつかり合う。

「分裂の次は、合体かよ……!」

 端の方で突っ込むセイガの言う通り、三体はぶつかり合った瞬間一つとなって、巨人となった。

 見た目にはただダーク星人が三倍の大きさになっているだけなのだが。

 とりあえず無表情で真っ直ぐに向かってくる姿は、ひたすら怖い。

「舞子さま、行きますよ!」

「う、うん……!」

 もう迷っている暇はない。ジオと一緒に走り出し、ダーク星人と向かい合う。

 青い剣を振り上げた。

『そのまま降り下ろせ!』

 ダーク星人と接触する直前、剣を二人で降り下ろす。

 ブワッと突風が巻き起こり、剣から青い光の衝撃波がダーク星人へと放たれた。

「があッ!?」

 ダーク星人の体は見事に半分に切り裂かれ、青い光はそのままダーク星人を包み込む。

 まるで削られるように、ステンレス製に見える体が散り散りに霧散していく。

 やがて、一欠片も残さず消えてしまった。

「……すごい。これが、舞子さまのパワー……」

 断じて違う。自分ではなく救世主だ。

『謙遜するな。お前だからこそ、ここまでのパワーを引き出せた。我にも相性があるのだ』

 それは喜ぶべきなのか嘆くべきなのか、判断に困る。

 しかしダーク星人は倒せた。舞子はふうと息を吐くと、手の中にあった剣は光が弱まり消えてしまった。

「いや~、二人とも素晴らしかったよ! 仲良く手を繋いで、ヒーローとヒロインって感じだね!」

 拍手しながら歩み寄ってきたセイガの言葉に、舞子とジオは慌てて繋いでいた手を離す。

「とりあえず、これで舞子ちゃんが救世主だってことは証明できたわけだ。ですよね、伊代さん?」

「え!?」

 舞子は再び慌てて、セイガの視線の先を追った。

 出口のところに、伊代は腰に手を当て立っていた。

「随分とヒヤヒヤさせてもらったけどね。確かに……納得はしたね」

「おばあちゃん!」

 舞子は驚きながら彼女のもとに駆け寄った。

「よく頑張ったね、舞子」

 頭を撫でてもらうと、また涙が込み上げてきた。

「これで私からは何も言うことはないよ。あとは舞子次第だ」

「え……」

 三人の視線が舞子に集まる。

 つまりはシロ星に戻るかどうか、ということだ。

「あ、先に誤解を解かせてもらおうかな」

 セイガはいつの間にか持っていたステッキをクルリと回転させた。

「僕、舞子ちゃんを殺す気なんてこれっぽっちもなかったからね」

「……本当ですか?」

 あれは完全に本気の目だった……ような気がしてならない。

「そんなに疑わしい目で見つめないでよ。救世主の力を目覚めさせようとしただけなんだからさ」

 どういう意味だ。

「すみません、舞子さま! 発案はおれなんです!」

 ジオは深く頭を下げた。

「舞子さまが何かしら極限状態になれば、救世主様の力も目覚めるだろうと推測したからなんです! セイガのやり方はおれも止めたんですが、他に方法も思い付かず……」

『結果、我はパワーを出すことができた。舞子がジオを死なせたくないという思いが、切っ掛けだったがな』

 ――そ、そうだったのか。

 ジオと救世主の言葉に、とりあえず理解を示す。

 自分に力があることを認めたくない舞子だったが、もう言い逃れできないところまで来てしまったということだ。

「舞子ちゃんは、シロ星を見捨てる覚悟があるのかな?」

 その聞き方はずるい。シロ星人である本人達を目の前にして、見捨てますなんて言えるわけがない。

『舞子、我からも頼みたい。シロ星を救わせてくれ』

「……でも、安久津くんは……」

 気掛かりなのは彼だ。自分の助けなど必要ないのではないか。

『……そうだな。奴のことも説明しなければなるまい。だがまずは、シロ星へ向かってくれないか』

 本音を言えば、怖い。戦いたくなどない。

 だけど、自分が動かないことで、他の誰かが犠牲になるのはもっと怖い。

 祖母を見上げると、ニッと笑顔を見せてくれた。舞子は頷き、ジオとセイガに向き直る。

「星を救うなんてすごいことができるかはわからないけど――私、シロ星へ行きます」

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