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救世主達の邂逅

 シロ星に降り立ったのはどのくらい振りだろう。

 シロ星人には転生したことがないから、つまりは初めて救世主として戦ったあの日以来ということになる。

 あの頃はまだシロ星も近未来的な建物が多くあったものだが、今ではすっかりと江戸時代に様変わりしていた。別に他星の趣味にとやかく言うつもりはないが。

 しかしそれも、ダーク星人の厄介な霧のおかげで随分と寂れた雰囲気を漂わせてしまっている。

 思えば長い年月を過ごしてきたものだ。安久津京としての人生はまだ十七年と浅いが、合計で言えば五百年以上生きてきたことになる。

 しかし力を衰退させない為、大概は三十年経つ手前で転生してしまっていたので、老人として過ごしたことはない。だからか精神年齢もまだまだ未熟な部分はあるかもしれない。

 力を溜めること以外は自由気ままに生きてきたのだ。ただ、意思を持つ生物達の醜い部分はこの長い人生で十分に見てきたので、そこら辺のひよっこ共よりは卓越しているだろうと自負している。

 つまり何が言いたいのかといえば、目の前にいる女が救世主として役に立つことができるのか、いやできまいと、京はそう言いたかったのである。

「こんな攻撃も避けられねえのかよ?」

 鼻で笑いながら問い掛けてやるが、女は唖然としたまま京を見つめ続けるのみ。

 ――まさか一目惚れでもされたかな。

 なんて冗談を考えてから、京も彼女を見つめ返した。

 無駄に長い髪のせいで顔が少し隠れているが、悪くはない。痩せてるし磨けば光らなくもないかもしれない。

 あくまで京の趣味に基づいた主観である。

 ちなみに今の状況を説明しよう。京はシロ星に着いて早々、ルイとリョウカを振り切ってシロ星を一人探索していた。そうしたら町から離れた森の奥にダーク星人の気配を感じたのである。その気配を追ってみれば、女がダーク星人に襲われていたので、とりあえずパワーを使って攻撃を相殺してやった、という状況である。

 そして襲われていたこの女は、見たところ自分と同じ地球人のようだった。力はまったく感じられないが、ルイ達が言っていたもう一人の救世主候補というのは彼女のことだろうと即座に判断した。他に地球人がいる理由も考えられない。

「……今日は厄日だナ。キサマまで現れるとは思わなかったゾ」

 ダーク星人は小刻みに震えた。この動きは彼らが相手を馬鹿にしている時にするものだ。

 言葉とは裏腹な態度が非常に気に食わない。

「すでに同胞を一人殺ってくれたようだが、無駄な労力だったナ。ワレワレは個で成り立つ存在ではなイ。群れを成してこそ、本当のダーク星人という存在に成り得るのダ」

 女はダーク星人を不思議そうに見つめた。

 まあ言っている意味がわからないのだろう。

 人間も含め、普通の生物ならば個々に特徴を見出すことができるが、彼らは個性が一切なく、意思疎通の力も大変優れている生命体だ。しかし彼らの本体は姿形のないただのとあるエネルギーの集合体なのである。宇宙の何かしらの異変で、あるエネルギーに意思が宿り、ダーク星人という姿をとったに過ぎない。

 つまり彼らの意思は巨大なエネルギー源の意思であり、個々の意思というものは存在しない。いくら増殖したとしても、意志は一つなのだ。だからその内の一体を殺ったところで「あれ、一人減った?」ぐらいの感覚しかない。生殖方法もミドリムシやゾウリムシのように分裂してるだけなので個を重んじることはしないのである。

 とにかく、敵に回すには厄介な存在であるということだけは間違いない。

「じゃあ見逃してやるから、さっさと消えろ。また改めてぶっ殺しに行ってやるから首洗って待ってろ」

 投げやりに言うと、ダーク星人はまたも痙攣した。

「……キサマ一人で勝てると思うなヨ」

「うるせえよ」

 京は舌打ちする。奴にはわかったのだろう。目の前の女の正体が。

 ダーク星人は瞬時に鉄の塊になると、上空へと飛んで行った。彼らは変形するのもお手の物なのだ。

 気配が消えたことを確認し、京は再び女を見た。声を掛けようとするが、女が先に口を開いた。

「な、何で――」

 ひどく掠れた声だった。

「何で――安久津くんが、いるの?」

「ああ?」

 まさか名前を言い当てられるとは思わなかったので、京は警戒心から相当凶悪な顔になった。

 女はびくりと肩を揺らす。

「あ、あの、覚えてる…………わけ、ないか……」

 言葉尻がすぼみ、自虐的に苦笑した。

 まったく見覚えがないのだが、考えられる可能性としては同じ学校の生徒という線だ。

「オレを知ってんのか」

「が、学校、同じだから……クラスも、一緒なんだけどね……」

 やはり。というか、そんな近くに救世主候補が存在したことに驚く。そしてまったく気付かなかった自分に呆れた。

「……悪ぃな。授業なんざ寝てるだけから、喧嘩吹っ掛けてくる奴しか覚えてねえんだ」

 いや、喧嘩の相手すら覚えてない場合もあるが。

「い、いいの。私なんて、地味だし……話したこともないし。……席も、隣なんだけどね……」

 恨めしい視線を感じる。しかしそうは言われても知らないものは知らない。

「まあどうでもいいだろ、そんなことは。今知ったんだから、全部チャラにしろ。お前、名前は?」

 彼女は不満気に京を見上げた。

「…………笹森」

 下の名前を答える気はないらしい。さして興味もないので構わなかったが。

「笹森、ね」

 京は彼女の側に大股で歩み寄り、ズイッと顔を近付けた。

「いいか。今重要なのは、お前がここにいる理由だ」

 彼女は怪訝な表情になり、一歩引いた。

「何しにここへ来た?」

 問い掛けると、顔をプイッと背けられる。

「……別に、ただ連れて来られただけだから――」

 見たところ、救世主の力は一切発現していない。どころか、本当に力が宿っているのかも京には見えない。

 ――同調し過ぎて感じられないのか、あるいは相当、救世主に嫌われているのか。

「……後者の可能性は高ぇか」

 京の言葉に、彼女が不思議そうに首を傾げる。

 その時、背後から殺気を感じた。

 瞬時に京が横へ飛ぶと、ヒュッ――と誰かの足蹴りが空を切った。

 ――いい蹴りだな。

 呑気にそんなことを思いながら、その蹴りの犯人を見やる。

 萌葱色の髪の男だ。

「舞子さま! 大丈夫ですか!?」

 京には見向きもせず、彼女――笹森舞子に駆け寄る。

「う、うん……」

 舞子は気まずそうに俯いた。

 ――シロ星人か。

「おい、オレを狙っといてシカトすんなよ」

 振り向かせれば、彼から敵意に満ちた眼差しを受ける。

「……お前が、安久津京か」

 京はその態度に疑問を持つ。自分の名前を知っているということは、シロ星人が言うところの救世主候補だということも知っているのだろう。

 敬われるならば理解できるが、敵意を向けられる意味がわからない。

 彼は舞子を背中に隠すように対峙する。

 確かに彼女に対しては、相当大事に扱っているようだが。

「ふん。救世主にガンを飛ばすとはいい度胸じゃねえか」

「……救世主様の名を語るな。救世主様はお前じゃない。舞子さまだ」

 何の迷いもなく断言され、何やら面白くない。

 一体、何を根拠にしているのか。

 そういえば、救世主の子孫は力を宿した者を見つけることができると言っていたか。この五百年はシロ星に危機が訪れていない為、ダーク星人を封印した時以来、ほとんどシロ星人と接触する機会もなかったので忘れていた。

 だとすれば、目の前の男が子孫なのか、あるいはその子孫からの情報か。とりあえず厄介な状況ではある。

 舞子は「ま、待って、ジオくん」と、か細い声で彼――ジオの服の裾を掴んだ。

「ジオくんの知り合いの人も言ってたでしょ……。やっぱりどう考えたって、私は違うんだよ……」

「舞子さま! あいつは馬鹿なだけです! 舞子さまは本当に――」

 舞子は強い視線をジオに向けた。

「だったら安久津くんは何なの!? さっきいた宇宙人の攻撃を跳ね返せたんだよ!? 私はそんな力、持ってない!」

「う、宇宙人って……もしかして、ダーク星人がいたんですか?」

「ああ、様子でも見に来てたんだろ。あいつら結構、小心者だからな」

 狼狽えるジオに、京がすかさず答える。

「で、どうする? 笹森の言う通り、オレには力があるがそいつにはねえ。どっちが救世主かなんざ、丸わかりだろ?」

 ジオは押し黙る。

 ――強情な野郎だ。

 京は肩を竦めた。

「安心しろよ。オレは必ずダーク星人を全滅させる。仮に笹森が力を発現させたところで、そいつじゃ扱いきれねえ可能性は高い。オレに任せときゃ、シロ星だって安泰だ」

「やっぱ、その女は偽物なんだ!」

 急に野太い声がアホみたいに馬鹿でかく響いた。

 無駄に筋肉質な男だった。一見おっさんのようだが、大きな目が本来の若さを主張していると思われる。

「ジオさん! 悪いッスけど話は聞きました! 救世主様、お待ちしておりました! ジブンはボウって言うッス!」

 ずんずんと走り寄ってきたのだが、非常にウザかった。

 が、ジオとの話は決着が付けられそうだと、京はこのボウという男を利用することにする。

「おう、オレが本物の救世主だ。お前、町の奴らに言いふらして……いや、報告してこい。安久津京が本物の救世主だった、ってな」

「合点ッス!!」

 ボウは敬礼すると、すぐさま町のほうへ走り去ろうとするが、ジオが呼び止め怒鳴った。

「おれより、あいつの言うことに従うのか!」

 一瞬ボウは怯んだようだが、グッと拳を握り締め、

「スンマセン! でも、救世主様の言うことは絶対ッス!」

 捨て台詞のような言葉を残して駆け出した。

 京は勝ったとばかりに鼻を鳴らす。

「残念だったなあ、ジオさんよ。これでシロ星人は全員オレの味方だ」

 こちらを一瞥した後、腰に手を当てて溜め息をつくジオを見て満足し、舞子に視線を移す。

「おい、笹森。お前は地球に帰れ」

「え……?」

 呆けた顔を向けた。

「星を救うヒーローってのは、二人もいらねえんだよ。だから――」

 京は舞子を見下すように続ける。


「救世主は、オレ一人で十分だ」


 そう告げると、舞子は表情を歪めて俯いた。

 ジオは京を睨み付けてから、舞子の背中にそっと手を置いた。

「舞子さま、とにかく長老のところへ行きましょう。おれはボウを捕まえるので……」

「…………ごめんなさい」

 彼女は疲れ果てた声を発し、ジオの手を振り払う。

「舞子さま……?」

「お願い、ジオくん」

 少し青ざめ、思い詰めた表情の舞子。

「私――地球に帰りたい」

 その言葉を聞いて、京はしてやったりとほくそ笑んだのだった。

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