天国はブラックか?
「全く良くありませんよ、働いている時点で地獄じゃないですか」
「なぜ働くことが地獄なのか。私を見なさい、給料も出ないのに年中無休で働いているが、苦しそうに見えるかね? むしろ仕事ができて幸福だよ」
「皆が皆、神様のように変態ではありません。考え直してください」
「変態に変態と言われるとは、世も末だ。私もくだらない御託を並べるのはいささか疲れた。拒否権はない、君は今から働いてもらうぞ」
ガイダンスもなしにいきなり働けとは、神は神でも鬼神である。しかしここまできたら、観念するしかなさそうだ。なあに、齢十八の若造にもできる仕事だ、難しい仕事は回ってこないだろ。
「今日から貴方には指導課に所属して貰うわ」
俺は金髪ロリババアから与えられたスーツを身にまとうと、指導課たる部署に案内された。この部署にいる天使達も、パソコンの前でカタカタ仕事をするだけで、こっちを見ようとすらしない。こんなコミュ障の集まりみたいな職場で仕事ができるかどうか、俺には不安だ。そんな不安を無視するかのように、金髪ロリババアはつらつらと話を続ける。
「ここ指導課は、死者の案内と、迷える子羊に罪を悔い改めるように導くのが仕事よ。ほら、よく現世のテレビに神の声を聞いた、なんて言ってる人がいるじゃない?
あれは、私達が現地派遣されて、罪を犯さないように指導しているのよ。私はこの部署の部長だから、わからないことがあったら気軽に部長室に相談に来てね」
「わかりました。では早速質問なのですが、私の初仕事は一体何すればいいんですか?」
「無論貴方にも早速迷える子羊のために現場に行ってもらうわ。でも、いきなり一人で行っても仕事にならないから、先輩天使もついていくことになってるわ。くれぐれも仲良くね?
じゃ、私は仕事に戻るから」
そう言うと、金髪ロリババアはスタスタと去り、俺は置き去りとなってしまった。しかし、先輩天使か。ここの無愛想な天使の中から、一体誰が来るのだろうか。見てくれは皆、思わず抱きしめたくなるような容姿なのだから、その容姿に合った性格の天使がいたっていいではないか、このくそったれめ。
「あ、あのう………」
そうだ、いっそのこと俺が神になればいいのではないだろうか?
今の神をなんだかの方法で失脚させれば、特に確信はないが、俺も神になれるはずだ。俺の考える天国構想ならば、多くの人間から(天使達からとは言っていない)支持を得られるのは言うまでもないだろう。そもそも天国は、少々性癖に難のある人間には住みにくい環境この上ない。俺のような少女趣味の人間にも優しい天国を作るべきなのだ。ふふふ待っていろよ同士諸君、偉大なる指導者野村孝二の名の下に、今日この瞬間から新しい天国が建国されるのだ!
「あ、あのう!」
「うるさい! 今俺は新しい天国改革案を構想中だ! 口を閉じろ!」
「ひぃ、ご、ごめんなさい……」
……んん? こいつは誰だ?
俺は少し天国改革案を取り止め、声の主に顔を向けた。今まで愛くるしいロリ天使達とは相反して、今度は少しむっちりした黒髪メガネのお姉さんがいるではないか。俺の友達の笹原氏なら迷わず赤ちゃんプレイを依頼するに違いないだろう。しかし残念だ、俺のように洗練されし人間には貴様の容姿に惑わされたりなどしない。だが、どうしてもと言うのなら私とSMプレイをしてくださいオナシャス。
「うう………先輩に対してなんでそんな口の利き方なの? なんだか不安になるなぁ…」
「失礼しました。少し思案に明け暮れておりましたので、それより、貴女が私と仕事をする先輩天使ですか?」
「ごほん、そうです、今日は私と一緒に仕事をして貰います。君のような如何にも使えなさそうな後輩をもって大変遺憾ですが、よろしくお願いします」
「調子のんじゃねえぞデブ、犯したるぞ」
「ひぃ!ごめんなさいごめんなさい!」
ふむ、この先輩いじるとなかなか楽しいぞ。こりゃ当分楽しめそうだ。
「って誰がデブなの! 私はデブじゃないよ、グラマーさんなんだから! 私が現世の電車に乗ったら十人に六人は視姦してるんだからね!」
「そうですか、ところでいつ頃仕事に行くんですか淫乱先輩」
「もう行くよ! 貴方が話をそらすのがいけないんでしょ!」
淫乱呼ばわりしたのは許すのか、笹原氏なら大興奮だろうな。笹原氏よ、もし死んだらこの部署に来るが良い。
「じゃあ、仕事に行くからついてきて。あんまりほかの天使をジロジロ見て仕事の邪魔しちゃだめだよ」
言われんでもその位解っている。俺は舐め回すように周りの天使を視姦しながら淫乱先輩の後ろをついていくと、派遣用と書かれた扉の向こうに、無機質なタイルの床にぽっかりと大きな穴が空いた部屋にたどり着いた。穴を覗いてみると、都会のコンクリートジャングルがコメ粒のように見えるではないか。この穴はかなり高い位置にあるようだ。
「では、ここから飛び降りてもらいます」
「はん?」
飛び降りる? ここから?
確かに俺は死んだ身ではあるが、こんな高高度から飛び降りるのは足がすくむ。そんな俺の様子に気づいたのか、淫乱先輩はニヤニヤしながら俺を凝視し始めた。
「なに〜死んだくせに怖いの〜? 情けな〜い」
「うるせえデブ、じゃあてめえから飛び下りろ」
ドン!
「え!? ちょっといきなりはァァァァァ………………!」
淫乱先輩は自らの自重により、あっという間に米粒のひとつになった。ふむ、淫乱先輩の言葉を聞く限り、体制を整えさえすれば、安全に地上に着地出来るようだ。俺は意を決し、穴の中へと身を投げ出した。