彼女の笑いは向日葵のように
僕の隣の部屋に、変な女の人が来た。その人は、毎晩、花瓶を持って、このアパートにやってくるのだ。この、ボロアパート。汚い。グロテスク。ああ。汚い、アパート。ああ、片田舎のアパート。ああ、そこに変な女の隣人がいる。憂鬱だ。ああ。憂鬱。
この僕は、高校生で、学校には行ってない。そういうわけで、なんせこのアパートはボロアパートなので、彼女が二階への階段を上がってくる音が分かる。毎晩、分かる。
あと……また、何故、彼女が花瓶を持っているのが毎晩分かるのかというと、見えるのだ、開けている窓の隙間から。少しだけ開けている。
その晩、彼女はいつものごとく花瓶を持ってきた。人のような向日葵がささっていた。僕は驚いた。
彼女は僕を睨めつける。
「なんだい、この、ストーカー」
や、僕はしどろもどろになる。どうしよう。毎晩見てたのがばれたのかな、不安だ、どうしよう。
彼女はこちらを見ている。
風が夜風が吹いている。
彼女が僕を睨めつける。
「ふっ」と、彼女は笑い、部屋に戻った。ふらふらと、人のような向日葵がささった花瓶を、部屋に持っていく。ふう。なんだこれ。変な人だなあ。うん。……うん。僕は翌日から窓を閉めることにした。階段の音は聞こえてしまうけれど。まあ、それはいいだろう。
「花瓶」
と、彼女は言った。あの彼女は、僕の部屋に来ていた。そしてアネモネの花とそれをさした花瓶をくれた。「うふふ」と彼女は笑う。
「私ね、花道してたの。だから、君にもこの美しさを見て欲しい」
彼女はうふふと笑う。彼女は向日葵のように笑った。




