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謝恩歌【ありがとう】

サブタイトルの雰囲気をぶち壊す前書きへようこそ。

急いで書き上げたので、誤字や脱字が激しいかと思います。

前回からの更新間隔が短くなったからって、次も期待しないでください。頭の中は真っ白ですから。


では、後書きにて。

 周囲よりも少しだけ高い視線が気になる。

 本当なら、こんな高い場所から伝える言葉ではないけれど、足が悪いから畳には座りにくい。それに、せっかく出してもらった椅子だから。

 「えーとですね、本日は竹下さんご両親に確認したいことと、感謝をお伝えにあがりました」

 「あら、何かしら?」

 「私と渡さんが、一緒に暮らしている部屋のことです」

 正確には建物だけど、意味が伝われば構わない。鼻息で大きな溜息を吐いた洋さんが、その証拠だ。

 「おい渡。バレとるぞ」

 「俺からも素直に受け取るように言ったんだけどな……」

 気まずそうに視線を外す男性陣を他所(よそ)に、佳代さんだけが私をしっかりと見ている。いつかこんな日が来ると思っていた、そんな目だ。

 「明日香ちゃん。気に入ってもらえたかしら? 渡から頭下げられて少しだけ(・・・・)お手伝いしたんだけどねぇ……」

 「はい。とても快適で、毎日が楽しいです。移動も随分と楽になりましたし。特に洋さんと佳代さんには、感謝を伝えきれないほどです。こんな高いところから申し訳ありませんが、言わせてください。あのような快適な暮らしを提供していただきまして、ありがとうございます」

 「そう……、気に入ってもらえて何よりだわ。ねぇ、あなた」

 「ああ、そうだな。これまで辛い思いをしたこともあっただろうに、その分はこれからの快適な生活で満たしてほしくてな。ささやかな(・・・・・)プレゼントということで」

 こんなにも大切に思われている。涙を堪えるのが大変だ。こんな私のためにお金を工面する人は、母以外に知らなかったから。

 「ありがとう……ございます。……こんなに私、思われていたなんて……。渡さんにも、たくさん助けてもらってます」

 ほら、堪えるから。私は竹下の血筋に何度泣かされるのだろうか。……嫌な気持ちなんて、これっぽっちもないけれど。私は優しさに、弱すぎだ。

 「そりゃぁ、明日香ちゃんの男になろうという奴が意地悪するわけないよな、渡?」

 「当たり前だろ! 俺が明日香と付き合えて、どれだけ嬉しいか分からないから言えるんだそんなこと……あっ」

 口が滑ったと、今更出どころを隠しても遅い。しっかりと聞いた。

 「渡も言ってるから、何も気にせず二人で幸せになってね。私はそれだけで嬉しいわ」

 「そうだな、こんな馬鹿といっしょになってくれるだけでも、俺は嬉しいがね」

 『嬉しい』

 その言葉は、いつも私の口から出ていた。今はそれを聞いている。私からできることは、お返しのジャムを渡すくらいだけど、それとは別の、物とは違う、目に見えない温かいものがこの空間を包んでいるような気がした。


 私、幸せになります。(この人)と必ず。


 ◇


 台所から洋の仰天する声が家に響く。

 ジャムの銘柄を見て震えたらしい。

 気になった渡も台所に急ぐと、二人そろって声を上げていた。

 「いやぁ……あの二人、少しは静かにできないのかしら……」

 「あはは……男の人って、あんな風だと思いますよ?」

 「向こうでも渡ってば、あんな感じ?」

 「いえ、もう少し落ち着いてますけど。きっと久々の実家だからですね。子どもっぽくもなりますよ」

 台所の男性陣に届かないように笑いを抑える。

 「実家と言えば、明日香ちゃんのお母さんにもいつか、挨拶にあがらないと失礼ね」

 「あー……、すっかり忘れてました。いつか母といっしょに、こちらまで伺っても?」

 「そんな、私たちから出向くわ。お邪魔じゃなければね。それに、二人の結婚についても……ね」

 「……え!? いや、まだそれは先のお話といいますか、もう少しあの部屋で暮らして渡と話し合ってからといいますか……」

 突然、佳代が身を乗り出して明日香に迫った。

 「最近、渡が妙に明日香ちゃんの指先を気にしだした……」

 「!!」

 「最近、一緒に外に居ると、なぜか渡が女性用のアクセサリーに目が止まる」

 「佳代さん、どうして……」

 姿勢を戻して、また柔らかく笑う。

 「期待していいんじゃないかしら?」

 ジャムの銘柄で騒いでいる台所に目を向けて、少し恥ずかしくなった。


 ◇


 「それじゃ、そろそろ帰るわ」

 「おう、そうか。元気でな。またいつでも来いよ」

 バイクのある場所で見送ると、洋と佳代が外まで出てきた。明日香をバイクに跨がせながら、もう一度実家を眺める。

 「二人も元気で。次に来た時にヨボヨボになってるなよ?」

 「はっ! まだ死んでやるか。明日香ちゃんの花嫁衣装を見るまでは、絶対に生きててやる」

 「親父、となり」

 「ん?」

 おっとりが似合う佳代……のはずだ、一瞬だけ見えた般若は気のせいだろう。

 「今日はありがとうございました。もしもまた伺うようなことがありましたら、ジャムをお持ちしますね」

 「ちょっと、あなたがあんなに騒ぐから明日香ちゃんに気を使わせちゃったじゃない!」

 「いいんですよ、喜んでくれて嬉しかったですから」

 「……いや、すまなかった……」

 四人で笑って、今日はお開きとなった。少しの暖気を済ませて、両親に手を振るだけの挨拶を交わして、地面から足を離した。


 ◇


 結構な有名店のジャムである。

 地が厚い紙に細密な装飾が見える製品パンフレットこそ、高級感の極みである。

 「なぁ、佳代」

 「どうしたの?」

 「明日香ちゃんからラブレターをもらった」

 「イチゴジャムにラー油が入っても、あなたら許してくれるわよね」

 「冗談に決まってるだろう」

 二つ折りにされた、メモ帳の一ページ。

 それは、(まご)うことなきラブレターであった。

 「……いつ受け取ったんですか?」

 「包装紙を外したら、箱の上に置いてあったんだ。渡にはバレずに回収できたから、老後の楽しみに家宝にしよう」




           --------------------

    竹下 洋  様

       佳代 様


      住居空間を提供していただき、ありがとうございます。

      このような物では追いつかないほど金銭的援助を受け、

      私の人生は大きく変わりました。不躾ではございますが、

      これからも見守っていただければ幸いです。


      必ず渡さんと、幸せになります。渡さんと巡り会えた

      ことも含め、お二人からの御恩は忘れません。


                          上浦 明日香

           --------------------

お読みいただき、ありがとうございます。


なかなか粋なことをする明日香さんですが、渡さんにバレずに回収するあたり、洋さんも手練れです。

そろそろスイーツたち(渡と明日香のことです)の結婚に関するお話を書きたいですが。はてさて、どのように切り出すべきか。


それでは、次話でお会いしましょう。

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