築城歌【ちくじょうか】
不定期更新という予防線は偉大ですね。
どうも、赤依です。就職活動の荒波に揉まれてます。
今回の内容はこれまでから突然に飛んでいるように感じると思われますが、すべてはダラダラ回避のためなのです。決して私が設定を忘れているわけではないことは確実です。
では、あとがきにて。
時間の流れは早い。
かつて不運に足を砕かれた女性は、他人の邪魔にならないようにと自身を殺した。
かつて鉄の馬に心奪われた男性は、偶然に見かけた女性を救った。
――――それも今では。
自身に欠けたものを取り返せないことを知り、他人に頼ることを覚えた女性。
自身の技術で豊かな心を取り返せることが、何よりも喜ばしいと感じた男性。
二人は互いに惹かれ合い、恋人となった。
明日香は渡よりも一年だけ早く就職し、渡にはそんな彼女がさらに魅力的に映っている。
「仕事は順調?」
「……本当だったらその台詞、私が一番に使いたかったよ」
「……無茶言うなよ」
卒業研究が終わった渡は、残す学生期間は卒業式までの少しだけの期間のみ。既に今年の春から働いている明日香に対し、これまでとは異なる雰囲気を見ていた。
「さすが、『積極採用』って言ってるだけあると思う。私と同じように車いす利用者の方が居るし、待遇は最高。働いてる間は、足のことなんか忘れてる時もあるし」
「そ、そんなにいいのか……。どんな仕事だっけ?」
「食品会社の事務作業。内定もらった時には驚いたけど」
ベッドに仰向けになって天井を見る明日香に、床へと座り静かに話しかける渡。時々、渡の頭には明日香の手櫛がやってくる。
「優しい人ばっかりで心配になってくるよ、本当に。ちゃんと給料は頂けるし、定時には仕事終わりになるし……」
「全然問題ないな。心配なんて、するだけ無駄だぞ?」
「そうだねー、前例がここに座ってるもんねー」
手櫛が少しだけ強くなり、渡の髪を乱す。
「俺は給料出さないし、仕事も言いつけませんが? だいたい、そんな心配をするのは俺の方だと思ってたんだけど」
「え、どうして? 渡はどこに就職するだっけ?」
「二輪メーカーの本社ビル。場所は――――」
本社の場所を伝えて、これから独り暮らしだと漏らすと、突然、明日香が飛び起きた。上半身だけ。そして渡の首を捻って自分に向けさせた。
「渡……近いっ!」
「……あぁ、お前の顔がな」
「違う違う! 私の職場と、本社ビルまでの距離が近いの。なんて偶然……」
「あ……あす、か……」
「あ、ごめん」
首が正常な位置に戻ったことを確認して、渡は明日香に向いた。
「そんなに近いのか?」
「だってほら。これ見てよ」
スマートフォンに乗り換えた明日香が慣れた操作で地図アプリを開き、自分が勤めているビルの場所をマップの中央に据えた。渡の勤め先となるビルは、画面下側の端に存在している。縮尺率はかなり低いようだ。
「うわ、近いなこれ。偶然って恐ろしいな」
「そうでしょう! 嬉しいなぁ~」
「そうだな、上手くいけば昼休みに会える……のは、難しいか」
「それは難しいかもね。でも、朝と夜には会えるね」
痛めた首を笑顔で傾げ、明日香の発した言葉の意味を考えた。
「あー……、毎日ここまで来るのは難しいかなぁー、なんて。俺も残業とかあるだろうし」
今度は明日香が真顔で首を傾げた。
「ここまで来なくても会えるよ? だって同じ家? 部屋の方が正しいかな?」
「まさか、明日香さん」
「ん~? どうしたの?」
どうやら、“独り”ではないようだ。
「一緒に……住む?」
嬉しさのあまり飛び込んできた明日香を、渡は抱き止めた。こんな簡単に決めてしまってよいものか迷ったが、ベットの上から降ってきた女性と二人で同居できるならば、この上ない幸せだと思った。
「独り暮らしの経験のない俺たちが、いきなり二人で同居って、実際にどうなんだろう?」
「そうは言っても、日中は二人とも部屋にいないから、朝食と夕食の心配だけだね」
「俺は料理が出来ません!」
「それじゃぁ、これから覚えよう。渡にも簡単な料理が出来るようになってもらわないと、こっちも困るからね」
まだ部屋も借りていないが、二人で入れる部屋にしよう。そう決意した渡であった。
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「明日香、お母さんに許可をもらわないと」
「そうだね。……ん? ねぇ渡、扉に紙が挟まってない?」
「紙? あ、なんだこれ?」
『私が様子を見に行ったら、一人増えていることを願う。だから広い部屋を借りなさい。 母』
お読みいただきありがとうございます。
お母さんの了解を得た二人は、このまま二人暮らしとなるでしょう。さてさてそこでは、一体全体何が起きると思いますか? 脳細胞が桃色の方だけ考えてくださいね。
では、次話にて。