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第6話 森からの脱出1


"意志"を得て10日が経過した。


勿論まだ森の中だ。



「まだ三分の一も進んでいない……先は長いなぁ」



アルエカナンの地図を頭の中に投影しつつ、ボクは一人嘆いていた。

勿論、ステータスの能力をフルに使えば、進度に早めることはできる。


しかし、馬並の速度で森の中を疾走する子供は不自然極まりないだろう。

周囲への注意力も散漫になってしまうので、おすすめできない。


子供が走る程度なら問題ないだろうが、歩幅も子供並に縮んでいる以上、大人が小走りする程度しか速度は出せなかった。


加えて、



「おなか減ったな……」



この体は燃費が悪かった。


年齢のせいなのか、勇者のせいなのか分からないが、しょっちゅう腹が減るし、日が沈むとすぐに眠くなる。


スキルの使用や戦闘後は特に顕著で、進行を遅らせる遠因にもなっていた。



(あまり覚えてないけど、"意志"が無かった頃は、三日に一回しか食事をしてなかった筈なのに……)



まあ、いくら嘆いても腹は膨らまないし、睡魔には勝てないのだが。


ぐーぐーと主張し始めた空腹感に負け、今日も"寄り道"をすることに決めた。



「では……≪探知(サーチ)≫」



『≪探知≫

 術者を中心として周囲の対象物を検索する魔法。消費MPは検索条件や範囲に比例』



(検索条件は"野ウサギ"、検索範囲は半径3キロル――起動!)


> ≪探知≫を発動しました



瞬間、ロウソクの火のような淡い"灯り"が、視界内に表示される。パッと見た限り、"灯り"の数は30以上あり、それぞれが検索対象を示していた。


対象が近ければ近いほど光は強くなり、遠ければ遠いほど弱くなる。


条件を細かく設定すれば、"灯り"の色を変えたりすることもできる便利な魔法だが、発動中は10秒ごとにMPを消費するという、MP食らい魔法でもある。



「……あれが良さそうかな」



ゆっくり選んでいるとMPが馬鹿にならないので、ボクはその中から特に強い光を放つ――比較的近い距離にある"灯り"を選択した。


すると、無数にあった"灯り"が消えて、選択した"灯り"だけが残る。

検索範囲と条件を絞り込むことで、消費MPを最小限にしたのだ。



(この魔法が無ければ野たれ死んでいたかも)



本気でそう思ってしまう位、お世話になっている魔法だった。


条件や範囲が広がると、消費MPが相乗的に跳ね上がってしまうため、使用者ほとんど魔法だが、≪創生神の加護≫による"スキル効果3倍"で、あまり苦を感じていなかった。



(特にこの汎用性がすばらしい)



何せ「食べられる木の実」のような、曖昧な検索でも探してくれるのだ。曖昧であればあるほど精度は悪くなるが。



≪探知≫を生み出した魔法使い達に感謝しつつ、ボクは"灯り"に向かって近づいて行く。300メートルほど進むと、明かりの光量が直視し辛くなるほど輝いた。対象が近い証拠だ。


この"灯り"は、視界内に直接投影しているので、光量が周囲に漏れることはないが、視界が極端に制限されてしまう。このままだと、検索対象を見ることもできなくなってしまうので、ボクは急いで≪探知≫を解除した。



気配を消して草むらに隠れる。

草むらを通したその先には、1匹の野ウサギがトコトコと歩いていた。結構大きい。全長40cmはあるだろう。



(いたいた……≪空刃(カッター)≫、起動)


『≪空刃≫

 風系基礎魔法。鎌鼬状に圧縮した空気を飛ばす』


> ≪空刃≫を発動しました。



ふわり、とそよ風が頬を撫でると同時に、首を断たれた野ウサギがゴトリと音と立てて倒れた。



「成功成功」



ホクホク顔で野ウサギを回収・解体する。

最初の頃に比べると、効率は雲泥の差だった。


一番最初の時など、力加減が分からず完全にオーバーキル――原型を留めない位ズタズタにしてしまった。



「加減できるようになるのに、3日もかかったのは良い思い出……でもないか」



それまでは素手――創生武器は未だに過剰戦力すぎて使えない――で捕まえ、締めていた。見た目12歳の子供が、素手で首ちょんぱする映像は客観的に見てかなりホラーだったと思う。


魔法が使えて本当に良かった。



フンフンと鼻歌を歌いながら、野ウサギの皮を剥いでいく。

皮や肉を剥ぐのに使用しているのは、小ぶりなナイフだ。創生武器ではない。

≪想生≫によって創生武器をナイフにするのは簡単だが、切れ味が良すぎて逆に使い難かったのだ。



「木剣だと全然切れないしねぇ……≪想生≫の完成度が高すぎるといのも問題だなぁ」



ちなみにこのナイフは2日前に魔物から入手した物だ。

ドロップした時は本当に嬉しかった。


なお、ナイフをドロップするまでは素手で剥いでいた。

客観的に見てもホラーで(以下略



肉の方も一口サイズに切り分け、落ちていた木の枝に差していく。


解体が終わった後は、周辺を回って枯れ木を回収した。


枯れ木を集めて山のようにしたら、



> ≪飛火(ファイア)≫を発動しました。



『≪飛火(ファイア)

 火系基礎魔法。火球を対象に向けて飛ばす』


魔法で集めた枯れ木に火をつける。

ある程度火力が大きくなった所で、ウサギ肉を差した枝を、火を囲うように配置した。



「うむうむ。もう大分加減できるようになったなぁ」



食事を通して、魔法の方はかなり加減できるようになっていた。死活問題なので必死だっただけ、とも言える。

ちなみに加減できなかったときは、生で食(以下略





肉に火が通るのを待ちながら、ボクはこの10日間の生活を振り返っていた。


当初の予定では、昼も夜も構わず歩き続けるつもりだった。


ボクは基本的に魔物なんだし、それだけのステータスがあると自負していたが、この体は一日と持たずに睡眠と食事を欲した。要求を無視して歩いていたら、HPやMPがどんどん減っていったので、対応せざるなかったのだ。



「本当に≪探知≫が無ければどうなっていたか……」



空腹に喘ぎながら"勇者の記憶"を掘り起し、≪探知≫を見つけることができたのはここ一番の幸運だったろう。


また、就寝する時も≪想生≫で武器を「形状:テント」にすることを思いついてからは、全く問題が無くなった。


≪想生≫はかなり自由度が高い。

体積や質量も自由自在なので。ナマモノ以外なら何でも作れると言っていい。



「……未だに過剰戦力過ぎて、まともに"武器"として使ってやれないのが心苦しいけど」



創生神からバチが当たりそうな使い方だが、偽物なので勘弁してもらおう。



そう思いながら、呑気に肉が焼けるのを待っていると――

ガサリ、と音を立てて、ナニかが燃え盛る焚火に突っ込んだ。



同時に、



「うぉわちゃーー!」



と、そのナニかが奇声を上げつつ炎から飛び出した。


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