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第5話 変化2


(逃げる、か……?)



接敵して、ボクが初めて思い浮かべた選択肢が"逃走"だった。


殺気や気配は感じるものの、魔物はまだ視界には入っていない。

逃走は可能だろう。



同じ魔物同士なのだから平和に――なんて気持ちはこれっぽっちもない。むしろ、別種族の魔物同士で、仲間意識を持っている魔物の方が珍しいだろう。


魔物同士の仲が悪いのか? と言われれば、ちょっと違う。


どちらかと言えば、魔物の定義が「人間以外でスキルを使う物は全て」という大ざっぱ過ぎる分け方だからだろう。


魔物からしたら迷惑な話だ……見た目が植物でも昆虫でも、スキルを使えたら皆魔物って……あんまりだろう。



残念すぎる判別方法に軽く落ち込みながらも、油断なく木剣を握りしめる。


集中して気配を探ると、魔物の気配は正面にあった。湖畔を背にして、逃走と戦闘、どちらでもできるように構える。


逃走の理由は、森の脱出を急ぐためだ。脱出を優先するならば、無用な戦闘は避けなくれはならないだろう。


しかし、



(全く戦闘を経験せずに、森を出るのは不可能に近い)



とういうことも理解していた。



"勇者の記憶"より、この森には、数キロに渡って行く手を遮る魔物や、逃走不可のスキルを持つ魔物がいることは分かってる。そういったやっかいな魔物を初戦の相手とするのは、いろいろな意味でリスクが高い。


ならば、



(今のうちに戦闘を経験しておくべきか)



というのがボクの最終的な判断だった。




ボクは逃走の選択肢を頭から追い出して、体を臨戦態勢に移行する。


すると、戦いの意識に応じるように、"勇者の記憶"から、戦闘に関するあらゆる知識が流れ出してきた。



(これはすごいな)



異常なほど集中力が高まり、視界が倍に広がったかのように感じる。まるで、戦いの為に精神から体を組み替えられたような――そんな感覚だった。



(さあ……こい!)


覚悟を決めて、前方を睨み、構える。

ザッザッと草を踏む足音が、ゆっくりと近づいて来た。


そして――魔物、ニートラビットが森から姿を現した。










――なにこれ?



中腰で体を起こし、剣を構えた視線の先には、狼のようなウサギがいた。



(いや、ウサギのような狼、か?)



どっちでもいい。

白いフワフワとした毛皮、赤くクリッとした目、ピンッと張ったウサギの耳。

ひとつひとつのパーツは明らかにウサギなのに、体つきや口から覗く牙は、オオカミそのものだった。なんだこのナマモノ。


ウルウル、と今にも泣きだしそうに潤んだ瞳から、背筋が凍るほどの殺気が迸っていた。



『【ニートラビット】

 狼型の魔物。群れを作らず、ほとんど一生を親子で行動する。

 子煩悩の代名詞と言われるほど、子供想いの性格をしており、子がつがいを得るまで、全ての面倒を親が見る。

 食事のための狩り以外、常に子供と行動を共にし、その献身的な姿から、親子愛を題材とした絵画のモデルとして人気が高い。

 子供が独り立ちした親は、寂しさのあまり死んでしまうという。

 

 人肉が大好き』


「最後の説明で台無しだよ!!」



こちらの声にビクン、と驚き、警戒も露わに殺意を強めてくるニートラビット。いけない。思わずツッコんでしまった。戦闘中だよ戦闘中。


子供を連れていない所を見ると、親のニートラビットか。

ニートラビットの殺気が強まっていくが、ボクは負ける気がしなかった。



ボクの"強さ"は、ステータス的にみるとレベル60弱だ。


この森に住む魔物は高くてもレベル20。40という差は決して小さくない。大人と赤子以上ある思ってもいいだろう。


ステータスやレベルだけが必ずしも"強さ"を測る指針になるとは言えないが、油断さえしなければ、まず負けることはない相手だ。



(悪いけど……試金石になってもらう!)



自分からも殺気を返し、ニートラビットに叩きつける。

すると、こちらの気配に呼応するように、ニートラビットが襲いかかってきた。



「ふっ!」



先制もできたが、まずは防御に回ってみる。襲い来るニートラビットの横を通り過ぎるように身を投げる。



「っと!」



体が軽い。

ニートラビットの体毛、その一本一本まで見通せるほど、集中力が高まっていた。先程、≪変化≫直後にした確認の時も、とんでもない身体能力だと思っていたが、臨戦態勢になるとさらに拍車がかかってる。


避ける動作と並行するように、"勇者の記憶"から、様々な戦術、戦闘パターンが脳内を駆け巡った。


戦場を友として、各国を渡り歩き、地獄とも言える修行の日々を送った勇者クロノス。その戦闘経験は万を軽く超え、格下から格上まで、ありとあらゆる戦闘を網羅していた。


――その経験から導き出される経験則は、予測というよりも予知に近い。


ニートラビットの態勢や攻撃力、防御力、素早さから予測される、攻撃、回避、防御の戦術パターン。一瞬にして数十、数百ものパターンが脳内で飛び交い、"最適解"が視界に重なるように表示される。



(とんでもないな……)



それは、勇者のスキルや装備に嫉妬した自分が、羞恥を感じてしまうほどの努力の結晶、修羅道の証だった。


"最適解"は、このまま剣を振るうだけでも勝利は確実、と導き出していたが、ボクはその解を否定して、スキルの使用を求める。



(ただ剣を振るうならいつでもできる)



試金石としての戦闘なので、いろいろ試してみたかった。



(対象の攻撃パターンより、最適の攻撃スキルを選定――起動!)


> ≪疾風閃(シップウセン)≫を発動しました


『≪疾風閃≫

 閃系剣技スキルの基本形。武器に風を纏わせて、軽量化と切れ味を向上させる。血糊の付着防止にも有効』



フッと息を掛けられたかのような感覚が木剣に走ったが直後、剣が羽毛のように軽くなる。


ボクは構わず剣を上段に構え、正面から突っ込むように前進した。

一見無謀な突撃だが、"最適解"は「問題なし」と回答している。



「ちぇすとぉぉ!」



前進する勢いのまま、こちらの動きを追えずに目を白黒させるニートラビットの頭上目がけて、"全力で"剣を叩き落した。






瞬間、大地を揺るがすような爆音が、森に鳴り響いた。









◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆









どうやらボクは勇者の力を舐めていたらしい。



本当の"強さ"はレベルやステータスでは測れない。



ボクは、剣先から広がる直径5メルトのクレーターを見つつ、さっき自分で言ったばかりの言葉を噛みしめていた。


もちろん、ニートラビットは木端微塵だ。毛先すら残っていない。



> ニートラビット を倒した



体がフッと軽くなる。どうやらレベルも上がったようだ。



「≪確認≫……っと」



魔法を唱え、ステータスを表示させる。

ボクが確認したいのは、レベルUPで上昇した能力値――レベルは8に上がっていた――ではなく、スキルの方だ。



===============================

≪疾風閃≫

属性:風 消費MP:5 熟練度:MAX(効果UP)

効果:軽量化(重量1/2) 切断力UP(2.0倍) 攻撃力UP(2.0倍)

===============================


「熟練度……これのせいか」



ボクの知る≪疾風閃≫の効果は1.1倍程度だった筈だが、それは初期の値だったらしい。



「この攻撃力上昇に加えて――」



===============================

≪創生神の加護≫

効果:全能力値UP(3.0倍) スキル効果UP(3.0倍) 自然回復量UP(10.0倍) 熟練度成長UP(10.0倍)

===============================



「…………」



『スキル効果上昇(3.0倍)』



いや、2度言わんでも分かるがな。



(つまり、≪疾風閃を≫使った瞬間、攻撃力だけでも6倍まで上昇したわけか)




切断力UPや軽量化分も含めて"全力で"攻撃すれば、この光景は当然と言えるかもしれない。



「先に加減から学ばないとダメだね……」



戦う度にドッカンドッカン鳴ってたら目立つことこの上ない。


まだスキルも完全に把握してないのに、手加減から学ばなくちゃならないのかーと、微妙にテンションを落としつつつ、爆音で魔物や人間がやってるく前に、ボクは湖を去った。


「そういえば、この場合、ニートラビットの子供はどうなるんだろう?」


『親を亡くしたニートラビットの子供に自活能力は無く、ほとんどの場合、死にいたる。ここから育てることも非常に困難で、ペット化が難しい要因にも――』


じゃあいいや

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