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第4話 変化1


森を進むボクが最初に立てた目標は、

"この森から一刻も脱出すること"だった。



"勇者の記憶"によると、勇者の行動は全て、創生神からの神託によって定められているらしい。


実際、この聖地の修行やタイミングもその神託の一つだった。


であれば、近い将来、"勇者が聖地で死んだ"という神託が、各地の神殿に降りることは想像に難くない。



ステータスの最終値を見る限り、ボクの"強さ"はLv60弱。

これは"勇者の記憶"による客観的な評価で、過大も過小もしていない。


魔族で言うなら、そろそろ上級に届く中級魔族、といったところか。

本来のレベルが7であることを考えれば、破格ともいえるステータスだ。


しかしそれは、



「"勇者の仲間"が一人でも来たら終わりだな……」



ということを意味していた。





当然のことだが、勇者には仲間がいる。


彼の仲間たちは現在、勇者が修業を終えるのを待つため、別行動中だ。


魔王との決戦のために修行を積む者もいれば、魔王軍を牽制したり、魔王に滅ぼされた街の復興をする者もいる。


全員が多忙を極める忙しい身だが、"勇者が死んだ"という神託が下れば、迅雷の如くこの森に集まるだろう。


"勇者の仲間"は、勇者には遠く及ばないものの、単体で上級魔族を屠れる程度には強い。


そんな森に、勇者の(こんな)姿で呑気に暮らしていればどうなるか……子供でも想像できるだろう。



神託が降りるのは一年後かもしれないし、一ヶ月後かもしれない。

現在進行形で降りている可能性もある。


それが分からない以上、即座に森を出る必要があった。




"勇者の記憶"によると、ボクがいるのはアルエカナンと呼ばれている森だ。


魔物のレベルはおよそ1~20で、平均レベルは10。勇者の修行地である聖地の下に広がる森としては、低レベルに見えるが、それは間違いだ。


聖地をひとつのダンジョンとして見ると、この森は第一階層にあたる。

魔物のレベルは標高が高ければ高いほど劇的に上がっていき、9000mの頂上付近だと、Lv90――"意志"こそ持っていないが、強さだけならば上級魔族の上、四天王クラス――の魔物がごろごろいる。


そんな化け物の中で1年とか……頭がおかしいとしか思えない所業だ。



アルエカナンの森は、アジエン大陸最大の森林だ。


アジエン大陸は上空から見ると菱形のような形をしており、アルエカナンの森は、その北西部に広がっている。


聖地は森の最北端に位置しており、そこから更に北に行くと、魔物すら生きる

の困難な深い山脈が。西に行くと、"凶暴"の代名詞とも言われる海皇種が住まう海が待ち受けている。


故に選択肢は二つ。東か南だ。



「……ここは無難に南かな」



この森は東に伸びるように広がっているので、森からの脱出を優先するなら南へ向かうのがベストとなる。



「早く出発しないと」



"勇者の仲間"には空飛ぶ天馬や飛行船を持つ者もいる。

行動は早ければ早いほど良いだろう。


ゆえに、このまま全速力で南へ――

と、行きたい所だが、その前にやることがあった。


神託次第では、今すぐにも発見される可能性がある以上、このまま(・・・・)逃げるのはマズい。


ボクは"勇者の記憶"から、アエルカナンの森の地図を引き出し、とある場所を検索した。聖地との距離感から、現在地は予想できる。見つけられるはずだ。



(…………あった!)



ボクは素早く身を西南に方向に向け――ゆっくりと走り出した。

全速で走れば、軍馬並の速度は出せる。しかし、どこに人間がいるか分からない以上、派手に森を駆ける訳にはいかない。


周囲を警戒しつつ、ボクは慎重に慎重を重ねて、森の中を走り抜けた。






◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆





「この辺りかな」



20分ほど走った所で、緑一色だった視界が突然青く染まった。


木々を抜けた眼前には、半径10キロトほどの湖が広がっていた。

アエルカナンの森には湖や川が無数に点在している。この湖もその一つだ。


この湖の水は、聖地が近いせいか魔力濃度が濃い。

そのまま口にするだけでHPとMPが全快するため、一部では聖水とまで言われている。森を進む人間は勿論、森に住まう魔物にも重宝されている、命の水だ。



ボクは逸る気持ちを抑えつつ、木の陰に隠れて湖畔を伺った。

気が逸るままに飛び出して、人間に見つかるわけにいかない。



「…………よし」



五感をフルに使って、無人であることをで確認しつつ、木陰から出る。


人間に見つかるリスクを冒しながらも、この湖に来た理由。

それは、装備によって増大したHPとMPを全快させるため――ではない。


ボクは足早に湖畔に近づき、四つん這いになって湖を覗き込む。


透明度の高い水面には、金の髪を持つ整った顔立ちの青年――勇者クロノスそっくりの顔が写り込んでいた。


おお、なんというイケメン。流石勇者。


――勿論、勇者のイケメン顔を確認する為にここに来た訳ではない。

ここに来た理由は、"水面を利用して自分の姿を見る"ためだ。

さて、



「ここからだ……」



そしてここからが本当の勝負である。

声に怯えが混じるが、これからやることを考えれば仕方がない。



四つん這いの態勢を維持したまま、ボクは静かに目を閉じる。

いつ人間、魔物が来るか分からない以上、時間はあまり掛けられない。迅速に、だが、確実に"スキル"を使用する必要があった。
















――……30分後。


ボクは生まれたばかりの赤子になったかのような心境で、ゆっくりと瞼を開いた。緊張と集中で、背中は汗でびっしょりだ。


ドクドクと心臓が高鳴る中、目を開くと、そこには――12歳ほどの、黒い髪と瞳を持つ少年の顔が、水面に映り込んでいた。角度によって少女にも見えるほどの可憐な顔が、ゆっくりと笑みの形に変わっていく。



「やったぁ! うまくいった!!」



跳ね上げるように上半身を起し、両手を天高く掲げる。

突き出した両手を見るに、体の方も年齢相応に幼くなっている様だ。


ボクはこの時点で"スキル"の成功を確信したが、念には念を入れて≪確認≫をする。



===============================

名前:クロノス=カミシロ=アイゼンリヒト(偽)

性別:無(男)

年齢:1(12)

種族:ドッペルゲンガー(純人族)

レベル:7

===============================


「よっしゃー!」



表示されたステータスを確認しきる前に、喜びの声が漏れる。

安堵のあまり、そのまま草むらに大の字に寝転がった。





――さて、ボクが何の能力を使ったかはもうお分かりだろう。

ドッペルゲンガーの固有スキル≪変化(トランスフォーム)≫を使用したのだ。



本来この≪変化≫は、部分的に手や足を変化させることで、攻撃、回避をするためのスキルである。

≪写し身≫の後に使用すると、高確率で相手の意表を突くことができるので、ドッペルゲンガーのメインスキルといってもいいだろう。


しかし、今回ボクが使った≪変化≫は戦闘のためではない。



今回≪変化≫の対象としたのは、年齢と髪、瞳だった。


"勇者の記憶"を総動員し、当時12歳のクロノスの外見に似せて、≪変化≫を使用したのだ。髪と瞳を黒に変色したのはついでに近い。


狙いは当然――"勇者クロノスとしての外見を無くし、勇者の仲間を含む関係者から逃げるため"だ。




元の不定形に戻るなり、"勇者の記憶"から適当な人物を選んで化けるなりした方が早いのでは? と思われるかもしれないが、それはマズい。


何故ならば、≪写し身≫でコピーした姿を、本人からかけ離れるように大きく≪変化≫させてしまうと、≪写し身≫の効果が解除されてしまうからだ。


ボクの強さの大半は、勇者の常動スキル≪創生神の加護≫と装備に依存している。もし、それを両方ともを失えば――自分など、一山なんぼの雑魚にまでなり下がってしまうだろう。


最悪の場合、"勇者の記憶"や"意志"すら喪失してしまう可能性もあった。

そんなリスクを冒すことはできない。


しかし、年齢の≪変化≫にも、当然リスクはある。


年齢が下がっても"クロノス"であることは間違いないので、≪写し身≫が解ける可能性は低い。それは分かっていたが、可能性は0ではなかった、


当時の年齢に合わせて、装備やスキル、記憶が失われる可能性もあったのだ。



さて、そこまでのリスクを冒してまで、≪変化≫を使う必要があったのか? といえば、もちろんある、とボクは答えるだろう。


変装という手も考えてみたが、それをするには"勇者クロノス"はあまりにも有名過ぎた。


魔王を倒す前段階として、クロノスは魔王に虐げられていた町や人間達を助けるべく、世界各地を回っている。


その活躍は、勇者を知らない人間はこの世にはいない、と言われるほどに苛烈だった。故に、変装で誤魔化す案は真っ先に却下していた。



「特にステータス低下も起こってないよね……?」



≪確認≫する限り、スキルも装備も消えていなかった。

年齢に合わせて武器性能が劣化している、ということも無い。



これで一安心――



「っ、まだまだ」



しようとする気持ちを、引き締めた。


確かに、二次性徴も迎えていないこの体と、26歳の成熟した勇者の体をイコールで結びつける者はいないだろう。


しかし、



「この剣と鎧は……」



指輪の方は、ポケットに入れるなり、≪変化≫を使って皮膚で覆うなりして適当に隠せば良いとしても、いかにも勇者! とした然の鎧と剣は誤魔化せない。勇者に憧れた少年、とするには装備の完成度が高すぎだ。



だが、こちらの方は年齢の≪変化≫とは違い、安全な解決案があった。


それは、



「≪想生≫」



創生武具自身が持つ、特殊スキルだった。





『≪想生≫

 装備者に合わせて、武器・防具を変化させる特殊スキル。完成度と成功率は、術者のイメージ力に依存する』



創生武具に宿る特殊スキル《想生》は、補正や付与の数値を落とすことなく、形を変えることができる特殊スキルだ。


なんとも都合のいい、まるでボクに合わせてくれたようなスキルだが、勇者専用武具としてあるべくして備わった機能ともいえる。


何故ならば、歴代の勇者達は、どれも共通部分も統一感もない人間ばかりだったからだ。


職種だけでも、魔法使い、斧使い、槍使い等々――と多岐に渡り、体格も2mを超える巨漢から130cmを切る小柄な女性まで、多種多様だった。

そんな勇者達に代々受け継がれた武具が、使い手に合わせる機能を持っているのは、当然と言えば当然だろう。




そんな風に過去の勇者たちに思いを馳せている間に、≪想生≫は完了した。


≪想生≫の発動と同時に放たれていた淡い光が消えると、白銀に煌めいていた鎧と剣は――子供サイズの平民服と木剣に姿を変えていた。


平民服は淡いベージュと茶色でデザインされており、森を歩く服装として違和感の無いよう、生地は厚めにしている。

木剣は、剣術道場に置いてあるのを持って来たかのように使い込まれ、しっかりとした見た目になっていた。


どちらも"勇者の記憶"から拝借した形状、イメージ通りである。



「冒険心のあまり、森深くまで探検に来てしまった少年A、という感じかな」



この年齢の子供がこんな森深くに居たらおかしすぎるだろうが。苦笑しつつ、ボクは武具の出来栄えをそう評価した。


念の為、≪確認≫で創生武具をチラっと見たが、どちらも「形状:片手剣」「形状:平民服」となっている以外、パラメータに変化は無い。



あっさりと出来たが、実はこの≪想生≫はかなり難度の高いスキルだったりする。


かなり強力なイメージが無いと発動しない上、イメージが貧弱だと、補正や付与の数値が大幅に下がってしまう。


歴代の勇者達も≪想生≫は苦手だったらしく、一度成功したた後は、2度と≪想生≫を使わなかった者も多い。



(ボクは鼻歌交じりで完成させることができるけどね)



フフン、と心中で優越感に浸る。

……明らかに種族のお陰だろ、というツッコミは聞こえないったら聞こえない。


ちなみに、サイズ合わせ位の微調整なら、武具の方が自動でやってくれるため、体型が変わるごとに≪想生≫を使う必要は無い。

先程、年齢の≪変化≫で体が縮んだ時も、サイズを合わせてくれていた。

便利な物だ。




しばらく、木剣を振ったりして、体と装備の具合を確かめる。

最後に湖の水を飲んで、HPとMPを全快させた。



「さて」



これで、見つかっても即殺されることはないだろうが――まだ安堵するのは早い。こんな山奥にこんな子供がいるのは不自然過ぎるだろう。


森を出るまで気を抜くことはできない。



「……行くか」



とにかく1に慎重、2に慎重、と自分に言い聞かせながら立ち上がった瞬間、






> ニートラビットが現れた



初めて魔物(自分を除く)と接敵した。


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