第3話 現状確認3
「はー……はー……」
いかん、ちょっとテンション上がりすぎてしまった。
落ち着こう。深呼吸深呼吸。ドッペルゲンガー怒らない。
> 状態異常:憤怒 が解除されました
「はぁ……」
まあ、自滅する直前の勇者は、装備込みでHPは1万弱、ステータス平均は2000を超えていた。
それに比べれば、確かにこの程度のステータスは雑魚同然なのかもしれない。
また、どんなに高いステータスや装備を持っていたとしても、"意志"のないドッペルゲンガーが、まともにスキルを使いこなせるとは思えない。
ドッペルゲンガーが雑魚扱いされるのも、納得――はしたくないが、理解はできた。
ふぅ、と一息ついて、ボクは改めて"創生武器トワイス(偽)"に視線を移した。
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【創生武器トワイス(偽)】
形状:両手剣 補正:STR+500 INT+250
付与:自動修復(中) 物理貫通(中) 魔法貫通(中)
特殊:≪想生≫≪解放≫≪継承≫
創生神に選ばれた勇者のみが手にすることができる武器。その偽物。
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"勇者の記憶"にある本来のトワイスの補正は「STR+1000 INT+500」だった。
対する(偽)の補正は「STR+500 INT+250」なので、数値上は劣化していると言えるだろう。
付与についても、「(極大)」から「(中)」に劣化していた。
しかし、
「"特殊"が劣化していなのはなんでだろう?」
『………………くっ』
残念だ。"勇者の記憶"でも分からなかったらしい。というか「くっ」って何。
しょうがないので自分で考えみる。武具についている"特殊"は、その装備を着けている場合のみ発動できる"特殊スキル"のことを指すらしい。
「特殊スキル……スキル……あ、そうか。これ≪写し身≫の効果だ」
≪写し身≫によるコピーは、姿の方は劣化するが、スキルの方は劣化しない。つまり、補正や付与に関しては"姿"としてコピーされ、特殊は"スキル"としてコピーされた、ということなのだろう。
「さて……これで現状の確認は完了かな」
ステータスについての疑問は一通り解決できた。
能動スキルや特殊スキルも気になるが、今は別にやることがあるので、確認は後回しにする。
「よし」
気合を入れるように一息ついて、ボクは倒れている勇者に視線を移した。
"意志"を持った魔物として、やることは一つしかない。
トワイス(偽)を鞘から抜き、ボクは勇者の前に立つ。そのまま両手で持った剣を頭上まで上げていき、
「……ふッ!」
そのまま真っ直ぐ振り下ろした。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
"第57代目勇者「クロノス=カミシロ=アイゼンリヒト」ここに眠る"
そう刻まれた大きな石の前で、ボクは膝を付き、両手を組んで祈りを捧げていた。
墓石の下には、トワイスで掘り起こした土が山のように積まれており、その土の下には石碑と同じ名前の勇者が眠っている。
墓石は、崩落と共に落ちてきた聖地の岩石から拝借した。刻んだ文字は"勇者の記憶"から引き出した純人語――彼の故郷の言葉である。
本当は鎧や剣を墓石としたかったが、偽者であるボクでは武具に触れることすらできなかった。
「………………」
冥福の祈りを捧げるボクの心中は、それなりに複雑だ。
しかし、そこには嫌悪とか忌避感といった負の感情はない。
"勇者の記憶"より、勇者が数多くの魔物を屠ってきたことは知っている。
しかし、元々魔物同士は同族意識が薄く、また、魔物の世界では、弱肉強食が絶対の真理。
まして、ボクはまだ"意志"を持ったばかり。憎悪や嫌悪を抱けという方が無理がある。
そんなボクが勇者に向ける心情は、同情と謝罪、そして感謝の気持ちだ。
互いに本意ではないとはいえ、ボクは勇者の姿、技、記憶を受け継いだ。
勇者が死ななければ、こうやって"意志"を抱くこともなかっただろう。
そういった意味では、ボクにとって、勇者は父であり、師匠でもあるわけだ。
「本人はものすごく不本意だと思うけどね」
苦笑を滲ませながら、組んだ手を放して立ち上がる。
勇者の墓を作ったのは、その感謝の気持ちを少しでも返したかったからだ。
魔物といえども"礼儀"はある。"意志"を持った今、恩を仇で返すようなことはしたくなかった。
「………………」
それに、ボクには謝罪の気持ちもあった。
"勇者の記憶"より、人間がどういう存在かは理解してる。良い人間も悪い人間もいて、魔物や魔族に好意的な人間もいる。
けれども、
「ごめんなさい……ボクは人間のためには戦えません」
ボクは勇者にはなれない。自分はあくまで魔物だからだ。
例え"勇者の記憶"を抱き、この先その知識や経験を得ていっても、それだけは一生変わることはないだろう。
しかし、それとは別に、
「積極的に人間に剣を向けるつもりもないです」
という想いもあった。
元々、一部の魔族や魔人を除き、人間を憎悪する魔物は少ない。
ドッペルゲンガーは人間を餌とする種族でもないので、あちらから攻撃してこない限り、人間と敵対するつもりはなかった。
しかし、この先もそうあるかは分からない。だから、ここで宣言しようと思う。
ボクは、トワイス(偽)を墓前に掲げるように持ち、
「貴方から奪ったこの力は、生きる為、身を守る為、弱きものの為に使います」
と、勇者の墓前に誓った。
望まず得た力だけど、誰かに渡すつもりも、自ら捨てるつもりもない。
死んだ彼に何も返すことができない以上、この力は彼から強奪したも同然だった。
故に、
(勇者として生きることはできないけれど、せめて、彼の勇者としての心情、その原点だけでも受け継ぎます)
と、ボクは想ったのだ。
これは、そのための誓いであり、突然湧いた力に溺れない為の、自分に対する戒めでもある。
「………………」
誓いを心に刻みつけるようにしばらく黙祷してから、ボクは静かにその場を立ち去った。
魔王にも勇者にも人間にもなれる不定形。
後年、そう呼ばれるボクの長い旅は、今この時から始まった。




