第1話 現状確認1
魔物であるボクが、初めて知能――"意志"と呼べるものを手にしたのは、ほんの数秒前だった。
それまでの記憶はあまりない。
恐らく、獣のような本能だけで生きていたんだと思う。
そして、初めて"意志"を手に入れた時、目の前で勇者が死んでいた。
何が起こったんだ――と普通なら混乱する状況だけれど、ボクはそうなった理由がなんとなく分かっていた。
「………………」
そっと自分の体を見る。
そこには、目の前に倒れている勇者と瓜二つの体があった。
白銀に煌めく鎧や剣も、見た目上はほとんど同じ。視界に映る金の髪やシミ一つない白い肌を見る限り、人種や顔付きもほぼ一緒だろう。
そうなった理由は、ドッペルゲンガーの本能で理解していた。
ドッペルゲンガーの固有スキル、≪写し身≫による効果だろう、と。
≪写し身≫は、相手の姿やスキルをコピーして、自分自身の体に転写するスキルである。ボクが勇者そっくりの姿になっているのは、このスキルのせいと見て間違いなかった。
しかし、それだけでは解決しない疑問もあった。
「……なんで、"勇者の記憶"まで持っているんだろう?」
先の勇者の死因も、"勇者の記憶"から引き出した情報である。
この記憶は、ボクが"意志"を自覚した瞬間から備わっていた"記憶"だった。
いや、
「これは"記憶"というより"記録"に近いかな」
"勇者の生涯"を題材にした小説を、丸々暗記したような感じだ。
しかし、ボク自身の記憶によれば、ドッペルゲンガーが≪写し身≫でコピーできるのは相手の姿とスキルだけで、記憶まはコピーできない筈だった。
なんでだろう? と首を捻っていると、
『【ドッペルゲンガー】
対象の姿とスキルをコピーする魔物。コピー前は不定形のスライムのような姿をしている』
こちらの問いに答えるように、"勇者の記憶"が語り始めた。
『姿のコピーは劣化しているので、よくよく見れば判別出来るが初見だと混乱は必至。スキルのコピーは劣化しない様だが、能力値まではコピーされないので、十分なレベル差があればは問題ない。
むしろ、スキルのコピーで手の内が知れている分、雑魚に近い』
……雑魚で悪かったな。
『なお、ドッペルゲンガーの希少種は、殺した人間の記憶をコピーする能力を持っている。その場合、コピーした記憶を使ってパーティに紛れ込まれ、内側から崩壊させられる危険性がある。
互いを良く知らない即席パーティは注意が必要。まあ? 高レベルかつ、厚い信頼関係で結ばれている俺達には関係ないがな!』
……いちいちムカつくなこの解説。
しかし、お蔭で理由は分かった。
「ボクは希少種で、≪写し身≫の対象である勇者が死んだから、"勇者の記憶"がコピーされたのか」
"勇者の記憶"曰く雑魚なボクが、勇者を倒したとは到底思えない。
聖地から落ちてきた瀕死の勇者を、ボクが敵と判断して≪写し身≫を使い、その直後に勇者が息を引き取った、という感じだろう。
証拠もなにもないが、多分間違っていないと思う。
「ボクが"意志"を手に入れることができたのも、その影響かな」
魔物の大半は、獣のように本能で生きている。
しかし、中には"意志"――理性や知能をもつ魔物も存在する。
"意志"を手に入れる条件は様々で、レベルアップから手に入れる魔物や、特定条件――突然変異やアイテム、スキルで手に入れる魔物もいる。
ボクの場合は後者となるのだろう。ちなみに、"意志"を持つ魔物は"魔人"または"魔族"と呼ばれ、"意志"を持たない魔物は"魔獣"と呼ばれるらしい。
「とりあえず現状の確認は終――いや、まだあったな」
言葉を止め、ごくごく自然な動作で、ボクは≪確認≫した。
すると、フッと音もなく、目の前に"ステータス"が表示された。
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名前:クロノス=カミシロ=アイゼンリヒト(偽)
性別:無(男)
年齢:1(26)
種族:ドッペルゲンガー(純人族)
レベル:7
HP:344/188(1564)
MP:169/92(774)
STR:55(665)
VIT:81(793)
INT:49(397)
MND:76(478)
AGI:89(517)
装備:
【創生武器トワイス(偽)】
【創生防具テスタロス(偽)】
【聖王の指輪(偽)】
固有スキル:
《写し身》《変化》
常動スキル:
《不定形》《創造神の加護》
能動スキル:
《確認》《探知》《精査》《疾風閃》…………
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