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第12話 商業都市イレイス4



「よろしくお願いします」


「……ええと」


空になった食器を片付けながら、ルキアさんが戸惑うように苦笑を浮かべた。


シアは午後からのお仕事に向かったらしく、この場にはもう居ない。ルキアさんもボクを待っていた、というより食後の片づけをしていただけのようだ。



(むう? 何故か意図が伝わってない。何かおかしな行動でもしただろうか)



一度、ルキアさんの立場になって考えてみた。


食後の雑談中、依頼書の写しを見た途端、いきなり教会を出て行き、30分もせずに戻ってきて、依頼の説明を求める少年。



(……どうみても不審者です)



依頼に目が行き過ぎていて暴走してしまったようだ。特に、往復1時間はかかる道を30分で戻ってきたのがマズい。自重しろよお前、と突っ込みたい。



(反省……)



どうもこの街に来てから、感情の制御が上手くできない。知らずに気分が浮ついているのだろうか……今後の課題にせねば。



「ええと、私の――この教会の依頼を受けてくれた、ということでいいのかしら?」



自己嫌悪で少しブルーになっていると、おずおずとルキアさんが話しかけてくれた。



「あ、はい。そうなります。よろしくお願いします」



一旦思考を切り替え、改めて頭を下げる。



「では、改めまして。私は創生神教会のルキアと申します。この教会の依頼を受けてくださり、ありがとうございます」



折目正しく頭を下げるルキアさんに、ボクもあわれて礼を返す。



「ええと、冒険者見習いのクロスです。初めまして、本日もおひがらも良く――って違う!」



初めての依頼、ということを今更ながらに意識してしまい、支離理滅になってしまう。恥かしい。対人経験の無さが恨めしい。



「ふふ、緊張しなくても良いんですよ。」


「ひゃひゃい」



そんな噛み噛みなボクを気にせず、優しく答えてくれるルキアさん。良い人だなぁ。



「では早速……クロスさんは治癒魔法を使えますか?」



こちらが落ち着いたのを見計らい、ルキアさんが質問する。



「あ、はい。下級ですが、使えます。あまり他人に使ったことはないですが」


「その若さで治癒魔法を……凄いですね」



軽く目を見開いて驚くルキアさんに、照れるように笑みを返す。



「母が魔法使いで、幼い時から教え込まれたんです」


「それはそれは……優秀なお母様だったのですね」


分かりました、とルキアさんは一度頷き、



「治癒魔法が使えるとのことですので、私としては何の問題もありません。では、依頼について詳細をお話します。事情は先ほど説明した通りで――」



と、そこからは、具体的な依頼内容の説明だった。



治療院はシフト制で、午前と午後で担当者が2名ずつ。

治療師はルキアさんとボクを含めて6名。つまり、担当する診察時間は、3日で1日分となる。診療以外でも、雑用をお願いすることがあるので、実際の労働時間は3日に1.5日くらいとのこと。

契約は10日単位で、報酬も10日ごと。まり、実労働時間が5日でも、10日分である15000レンが一括で支払われる。



(さらに三食宿付き……ってこれ天国じゃ? 教会って案外儲かるんだなぁ)



ただし、担当日以外でも、急患に備えて極力教会近くで待機して欲しいとのこと。報酬は待機分の金額も含まれているらしい。なお、シフトを調整すれば待機しなくても良い、"休日"も用意できるそうだ。



(もしかしなくても好条件? ラッキーすぎる)



こんな好条件で本当にいいのだろうか、と思わずルキアさんに聞いてしまう。

すると、



「治療師はそれだけ数が少ないんです。この街でも100人といないでしょう。報酬額だけで見れば、もっと良い条件もあると思いますよ」



と、丁寧に答えてくれた。



「そうなんですか……すみません、世間知らずで」


「いえいえ」



常識を知らずの質問にも、眉を潜めず優しく教えてくれる。ルキアさんホント良い人。

一度他の依頼も確認してみますか? とルキアさんは薦めてくれたが、ボクは丁寧に断った。


ここまでのルキアさんの対応から、どんなに条件が悪くても最初の依頼はここにしようと決めていた。

ここで断れば、一生後悔することになる――そんな予感すらしていた。



「早速今日からお願いします」


「はい。よろしくお願いします」



契約書にサインを書き、改めて頭を下げる。

なお、契約期間はとりあえず30日としようとしたが、



「一度10日にしておいて、その間に互いに納得できましたら、長期契約を結びましょう」



というルキアさんの助言に従うことになった。確かに、こちらがちゃんと動けるのかも確認したいだろうし。


もうお昼を過ぎているが、初めての仕事だ。初日から気合を入れてがんばるぞ!!













――と、気合をいれたまでは良かったが、ルシアさんにも午後から仕事があり、今日の診察担当は決まっていたので、仕事は明日からと言うことになった。


今、ボクはこれからお世話になる宿を案内してもらっている最中だ。



「クロス君が依頼を受けてくれて嬉しかったです。しかも治癒魔法まで使えるなんて!」



ボクの前を、嬉しそうに目をキラキラさせたシアが歩いていた。午後の仕事が一段落したとのことで、宿の案内を買ってくれたのだ。顔見知りの方が良いだろう、とルキアさんが配慮してくれたのかもしれない。有難い限りだ。


案内された宿は木造だった。古いがしっかりとした造りをしており、2階建でなかなか大きい。宿は教会の敷地に隣接するように建っており、教会に働く者にとってはかなりの好立地だろう。


2階は全て客室で、1階に食堂や浴場、管理人室が用意されている。トイレは共有で1階と2階にひとつずつあった。

宿の管理人は、シスターさんや神父さんが交代でしているらしい。



「ここがクロス君の部屋です」



シアが扉を開けて、部屋に入るようにボクを促す。礼を告げて部屋に入ると、



「おぉ~」



これぞ宿の一室! というべき部屋が視界に入り込んだ。

一人部屋なのでそこまで広くは無く、ベットと机・椅子がある位だったが、どれもピカピカに光るまで磨きこまれている。ベットのシーツも真っ白で、清潔さが感じられた。

ボクが来たのは唐突だったはずなので、普段から丁寧に掃除されているのだろう。



「この部屋からだと、教会が良く見えるんだよ?」



シアが閉じていた雨戸を開けると、教会の威容が視界に飛び込んできた。

イレイスの街並みや、教会の中庭まで見通せる。良い景色だ。



「良い部屋だね~」



思わず笑みを浮かべて言葉を漏らす。

イレイスに来るまでの生活は、トワイスのお蔭で安全性こそ確保されていたが、快適性は比べるべくもない。

しかも初めての自分の部屋でもある。ワクワクが止まらないのは仕方のないことだろう。



「へへへ。この宿でも一番いい部屋なんだ」



シアが胸を張るように自慢げに語る。

その快活な笑顔は、最初に会った時とは別人のように明るい。

先の衝突事件については、食事中の間に解決していた。シアとの(わだかま)りは解けている。



(こちらの方がシアの地なんだろうな)



失敗で落ち込んでいた時の顔より、今浮かべている太陽の様な笑顔の方が、彼女にはよく似合っていた。


その後、風呂は時間予約制となっていることや、朝昼夕の食事の時間・場所といった注意事項の説明を聞く。


夕食も楽しみだったが、入浴の方も期待していた。

≪写し身≫は、対象をほぼ完全に再現する。食事や排泄は勿論、新陳代謝までコピーするのだ。イレイスに到着するまで、川や魔法で体を清めてはいたが、お湯に浸かるのは初めてだった。



なお、服に関しては、常に清潔な状態が保たれている。創生神さまさまだ。

服は新品状態ではなく、買って1年程度のよれ方・汚れ方を再現しているので、不信感を抱かれることはないだろう。


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